両手塞ぎ

凋落美人ゴルファーへの落とし穴



 第二部



 二十八

 それはあまりに素早く、あまりに自然に行われたのでヨンにも悪意があってでのことではないのだと思おうとする。しかしそれは事前にリ・ジウとその女の間で入念に仕組まれたものだったことにヨンは気づかない。両手を塞がれ膝の上からポーチもどけられてしまったヨンはスカートの奥が丸見えになっていることにすぐに気づく。しかし両手を二つのグラスを持つことで塞がれている以上はグラスをリ・ジウに返すまではどうすることも出来ないのだった。
 「・・・・。ということで、本日は皆さま。私の為に集まって頂いてほんとうにありがとうございました。それでは乾杯に移りたいと思います。」
 そう締めくくるとリ・ジウはマイクを司会者に返してヨンの方へ戻って来る筈だった。それがマイクを司会者に渡す直前にくるっと向きを変えるとマイクを手にしたままヨンのほうへ戻ってくるのだった。
 「折角ですから、お祝いに駆けつけてくれたヨン・クネからも一言、お願いしたいと思います。」
 (え? わ、わたし・・・?)
 戸惑うヨンのもとへやって来たリ・ジウは自分のグラスをヨンから受け取る代わりに自分が持ったマイクのほうをヨンの口元に突き付けたのだった。
 途端にそれまでリ・ジウに向けられていたスポットライトの明りが両手を塞がれているヨンの方へ向けられたのだった。

パンチラスポット

 スポットライトの明かりはヨンの顔を照らす一瞬前に両手を塞がれて無防備になってしまっているヨンの短いスコートから丸見えの裾の奥を照らし出し、覗いてしまっている下着をくっきりと映し出してしまったのだった。一瞬、パーティ会場の出席者、それも多くは男性客の口から「おおっ」という溜め息交じりの歓声が洩れたのをヨンは聞き逃さなかった。
 「リ・・・、リ・ジウさん。き、今日は優勝、おめでとうございました。そしてお招きいただいて本当に光栄です。」
 ヨンは早くこの場から逃れたくて早口で口上を述べ終えると、リ・ジウの分のグラスを早く受け取って欲しいとばかりにリ・ジウの方に差し出すのだった。
 「まあ、光栄だなんて・・・。こちらの方こそお祝いに来て頂いて光栄です。皆さん、ヨン・クネさんにもう一度、盛大な拍手をっ。」
 リ・ジウは差し出されたグラスを受け取らずに自ら両手を叩いて皆に拍手を促す。出席者たちがそれに合わせてある者はグラスを置いて手を叩き、ある者はグラスを高く掲げて拍手の代わりをする。その間にもスポットライトは意地悪くヨンの無防備な丸見えのスカートの裾の奥を煌々と照らし出すのだった。

 「それでは皆様。リ・ジウ選手の優勝を祝して献杯したいと思います。ご唱和ください。カンパーイ。」
 司会の音頭によって乾杯が交わされる段になって漸くリ・ジウにグラスを返すと、散々晒し物にされたスカートの裾の上に手を置いて下着が覗くのを隠すと、ヨンも周りに倣って祝杯のグラスを高々と持ち上げたのだった。



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