
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第二部
三十
「あ、やっと戻ってきた。ヨンさん、こっち、こっち。」
じっくり時間を掛けて念入りに化粧を直して戻ってきたヨンは、パーティ会場の様子が少し変わっていることに不審と不安を覚える。ステージはヨンが化粧室に出る前からあったにはあったのだが、ステージそのものが少し中央付近に移動しており、その周りを囲うように席が作り直されて殆どの客はステージの方を向いて座っているのだった。そのステージの上には椅子が8席分並べられており、リ・ジウを含む女性三人とヨンの知らない仮面で眼の辺りを隠した男性四人が既に座っている。
「え、その上にあがるの・・・ですか?」
「そうよ。ヨンさんはここ。この席よ。」
ヨンにステージに上がるように呼び掛けた女性はリ・ジウの隣の空いている椅子を指し示す。
「な、何が始まるのですか?」
「いいからまず座って。リ・ジウさん。私から説明していいですか?」
「あら、いいわよ。加代ちゃん、貴女から言い出したことなんだし。」
リ・ジウは平然としてその女性にこれから始まることを説明するように促す。
「あの・・・、パーティの盛り上がりが今一つなんで、これから王様ゲームをやろうってことにしたんです。でも全員でやっちゃうと当たらない人が多過ぎて白けちゃうんで、人数を男四人、女四人に限定します。この位の人数なら、何時自分に当るかもしれないって緊張感が高まるから。あとの他の人たちはこの王様ゲームを愉しんで貰うギャラリーって訳です。」
(王様・・・ゲーム? いったい何をしようと言うのだろう・・・。)
何も分からないままゲームに巻き込まれてしまったヨンは不安でならない。
「王様ゲーム自体は皆さんご存じと思うので説明は要りませんよね。この缶の中に8本の籤が入っています。それぞれの籤の棒の下部分に小さな数字が書いてあります。ただ一本だけは王様と書いてあって、その籤を引いた人が王様です。王様に当った人は何か罰ゲームを考えてそれをやる人を番号で指名します。指名された番号に当ってしまった人は王様の言う命令を何でも聞かなければなりません。いいですね。これは王様の命令ですから絶対服従が条件です。何が何でも王様の命令を聞かなければなりませんよ。」
ヨンは自分自身はやったことがないが、パーティなどでそういうゲームがあることを聞いたことはあった。どちらかと言えばかなり下品なゲームで、命令によってはかなりエロチックな命令も有り得るというのは知っていた。
説明をした女の子自身もゲームの一員であるが、司会進行役も務めるらしかった。
「それじゃ早速第一回目の王様ゲームの始まりでぇーすっ。皆さん、一本ずつ籤を引いてください。但し他の人には自分の引いた番号が見られないように手で隠して自分だけこっそり番号を確認してくださいね。じゃ、リ・ジウさんから。はい、どうぞ。」
リ・ジウから順に一本ずつ籤を引いていく。ヨンにも順番が回ってきて、籤の棒を引き抜くとさっと番号の書いてある部分を手のひらで隠してそっと番号を盗み見る。王様ではなかった。
「じゃ、王様が当たった人っ。誰?」
「はあーい。」
隅の方に居た一人の女の子が手を挙げる。
「あ、ほんとに王様の籤ですね。じゃ、罰ゲームを最初に言ってください。」
「えーっと、それじゃあこれまで人生で一番恥ずかしかったことをここで披露して貰いますっ。」
「で、その罰ゲームをする人は・・・?」
「3番の籤の人でーすっ。」
(よかった。違ったわ。)
ヨンは自分が引いた番号が4番だったのでほっとする。
「3番は誰ですかぁ?」
「あ、お、俺だよ。ちぇっ。当たっちまったかあ。」
小太りな中年男性がしぶしぶ席から立ちあがる。
何度か王様ゲームが繰り返され、最初のうちはそれでも大人しい罰ゲームだったのが次第にエスカレートしていって、相手が指定した場所にキスをするとか、ベルトの鞭でお尻をぶたれるとかだんだん罰ゲームが卑猥になっていった。その度にヨンは自分が罰を受ける側に当らなくてほっとしていたのだった。
「さ、次の王様ゲームよ。今度の王様は誰かしらね。あ、はいっ。メリーさんですぅ。皆さん、拍手ぅ~。さて、メリーさん。今度の罰ゲームは何かしら?」
「はいっ。久々に警官と麻薬密売犯逮捕ゲームでぇ~す。」
「あらぁ。あれをやるの。じゃあ準備が居るわね。えーっと。じゃ、メリーさんが当然、警官役をやるんでしょうから、麻薬密売犯役の指名の前に衣装に着替えてきて貰いましょう。その間に、麻薬密売犯を捕らえて閉じ込める牢屋が必要よね。じゃ、このステージの横に牢屋の代わりになるものを設置して貰いましょう。お願いねっ。」
予め示し合わせてあったようで、黒服数人がステージの上に更に一段高くなるような台を設置する。その台の前面には牢屋の檻に見立てた低い手摺りが張り渡されている。そしてその手摺りの中には少し高めのスツールが据えられている。

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