
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第二部
二十九
「ヨン・クネさんの試合の時のコスチュームって、ご自分でお選びされているの?」
パーティの主役であるリ・ジウが挨拶廻りの為に席を立ってしまった後に残されたヨンのテーブルには、会社の秘書たちと言われた女性たちが周りを囲む。
「あ、いえっ。スポンサーがスポーツウェアも展開しているので、その専属のデザイナーの方々と相談してウェアは選んでいるんです。やっぱり会社の意向を一番に尊重しないといけないので。」
「あ、それであんなにスカート丈は短いのね。とってもセクシーでいいわ。」
「そ、そうですか・・・。ありがとう・・・ございます。」
「でもあんなに短いと、パンツ見えちゃうこともあるでしょ?」
「あら貴女ったら。その為にちゃんとアンスコっていうの、穿いているのよ。そうよね、ヨンさん?」
「あ、ええ、まあ・・・。」
ヨンは一瞬痛いところを突かれたと狼狽える。スポンサーからアンスコを着用するのは禁じられていたからだ。
「でもヨンさんのアンダースコートはアンスコに見えないって噂されてるわよね。」
周りにいた女性のひとりがすかさず突っ込んできた。
「あ、あの・・・。デザイナーの人がいかにもアンスコですって見えないような工夫をしてるからかしら。」
ヨンは咄嗟に出任せの嘘で誤魔化そうとした。
「でもそれじゃパンツ見せびらかしてるのと一緒じゃない。恥ずかしくはなあい、ヨンさん?」
「あ、いえっ。し、仕事ですから。そんなことより皆さんの方は普段どんなお仕事をなさっていらっしゃるの?」
スコートの下の下着のことから話を逸らそうとヨンは必死で話題を変えようとした。しかしその発言にまわりが一瞬凍り付いたようになる。
(え? 何か変なこと、言っちゃったかしら・・・。)
雰囲気が変わって冷たい空気が流れたのをヨンは見逃さなかった。
「あら、わたしたちの仕事は皆んなそれぞれで違うのよ。華やかなプロゴルファーのようなヨンさんやリ・ジウさんたちとは違ってね・・・。」
パーティに参加していた女性は実際には社長秘書などというのは殆ど居なくて、その社長たちがいきつけにしているキャバクラのキャバ嬢たちだったのだ。ヨンが不用意に彼女等の職業を伺うような発言をしてしまった為に、場の空気が一転してヨンには意地悪な会話に一転してしまうのだった。
その時、リ・ジウが挨拶廻りからテーブルに戻ってきたのだった。
「あら、皆さん。盛り上がっている? ヨンさんは?」
「ああ、ええっ。楽しくさせて貰っています・・・。」
「え、どんな話をしてたの?」
一同は顔を見合わせて一瞬沈黙が流れる。
「ヨンさんの素敵なゴルフウェアのこととか・・・。ね。」
「ああ、そうなのね。ヨンはセクシー・クィーンってあだ名されてるものね。」
再び話題が短いスカートのゴルフウェアとその下に穿いている筈のアンスコのことに戻りそうになって慌ててヨンは立ち上がる。
「あの、ごめんなさい。ちょっとお化粧室に行ってくるわ。失礼します。」
ヨンは逃げるように化粧室に向かうのだった。しかしヨンが一瞬不在になったことで、リ・ジウと呼ばれてきた女性たちの間でヨンに仕掛けられようとしている陰湿な企みを相談させることになってしまうのだとはヨンは思いもしないのだった。

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