
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第二部
二十四
まさかの最終ホールで追い詰められたのはヨン・クネの方だった。対戦相手のリ・ジウは先に手堅くパーを沈めている。1打差で追うヨン・クネに残された勝利への道はここでチップインバーディを取ってプレイオフに持ち込み、次のホールで逆転するしかないのだった。
(落ち着くのよ。きっと出来るわ。これまでだって何度もこういう難局を乗り越えて来たんだもの。)
最終ホールのグリーンの手前でもう一度大きく息を吸い込むと、最後のライン確認の為にグリーンの中に入る。ふっと目の前に例のカメラマンがヨンの方に望遠カメラのレンズを向けているのが目に入る。
(あんなの、気にしちゃいけない。今は芝のラインを完全に読み取ってボールを沈めることに専念するの。多少の恥ずかしい写真ぐらい撮られたってそんなの問題じゃないわ。)
そう心の中で決心すると、慎重に芝のラインを読む為に腰を屈める。

真正面に立つカメラマンのレンズの焦点が腰を屈めたヨンの短いスコートの奥を捉えるのを痛いように感じる。
シャカッ。
カメラマンがきっちりピントが合った被写体に向けてシャッターボタンを押したのが聞こえたような気がした。
(行けるっ。これなら絶対バーディを取れるっ。)
ヨンはラインを確認するとグリーン外のラフにある自分のボールの位置まで戻る。
ふと、耳の中に試合前にしたリ・ジウとの約束の言葉が蘇る。
(ねえ、ヨン。この試合に賭けをしましょうよ。勝ったほうがひとつだけ、相手の言うことを聞かなければいけないの。どう? 私にそんな賭けをして勝負してみる勇気ある?)
挑発的な言葉だった。絶対的に勝てるという自信があったヨンは、ジウにこれ以上自分のスポンサーに言い寄らないよう言い渡す絶好のチャンスだと内心思った。だからこそこの賭けを受けることにしたのだった。
コン。
ヨン・クネが当てたボールは狙い通りのラインを描いて軽くスライスしながら真っ直ぐピンに向かって行く。
(いいわ。狙い通りだわ。そのまま入って・・・。)
しかしボールはヨンの思い通りにはならず、ピンの縁まで辿り着いたところで止まってしまったのだ。

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