
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第一部
二
部屋に入ったヨンはまず奥の方から自分の方に照らされている幾つかのスポットライトの照明の光に圧倒される。
サングラスを掛けたままで部屋に入ったので眩しさに眩惑されることはなかったものの、目の前には薄い生地の布が張られたカーテンのような仕切りがあってその向こう側に相手は座っているらしかった。しかしスポットライトは部屋に入ってきたヨンの方だけに向けて当てられているので、相手の姿は薄っすらとカーテンの向こうにシルエット程度にしかヨンには見えない。

「君がヨン・クネ君だね。そのサングラスはもう不要だろう。外しなさい。」
カーテンの向こうの男からの声は威圧的で高圧的なものだった。
「あ・・・。し、失礼しました。」
慌ててサングラスを外して自分の素顔を晒す。しかしそれでもヨンの方には相手の顔は依然として見えないのだった。
「あの・・・。代理人と仰る鮫津吾郎という人からこちらに来るように言われました。社長さんが日本での専属スポンサー契約を締結して下さるというので参りました。」
「鮫津君から条件は聞いているよね。」
「条件・・・。ああ。ええ、それでしたら。」
ヨン・クネは鮫津と名乗る男に聞かされた条件というのを思い返していた。
「社長は日本における全ての公式ゴルフトーナメントに出場出来るようスポンサー契約を結ぶことを提案してくださっている。それと、社長が今度新たに立ち上げるスポーツブランド、デセックスにおける公式モデルとして君を採用したいそうだ。なので、公式トーナメントは勿論のこと、非公式、非公開のプライベートトーナメントでの出場の際には、当社のブランドのみをウェアとして着用する義務がある。いいかね?」
「え? ええ、勿論ですとも。公式モデルとなるのだから当然ですわ。」
「それと、もう一つ条件がある。時々、社長からの要請に従って個別に社長に逢って貰う必要がある。その際には、社長の言うことに全て従って貰うというのが条件だ。」
「社長の言うことに・・・全て従う? そ、それは・・・。」
「あ、社長はもう随分と高齢なので、あちらの方は・・・。だから犯されるというような、そういう心配はしなくて大丈夫だ。」
「御高齢でいらっしゃる・・・? その、つまり・・・。それでしたら、二人になった時には社長に何でもお仕えすると・・・、そのような意味なのですね。」
「まあ、そういう事だ。」
ヨンは日本における全ての公式トーナメントの専属スポンサー契約を結んで貰えるのなら、所謂枕営業のようなものも覚悟しなければならないとは思っていた。実際にはヨンが危惧していたものよりは相当に緩い条件のようだった。ヨンはほっと安堵の吐息をつく。
ヨンがそれまで隣国でスポンサー契約を結んでいた会社から契約解除の通告を受けたのは1箇月ほど前のことだった。さすがに即日解雇ということにはならなかったものの、残された期間はほんの数箇月しかなかった。スポンサー無しでは日本などの海外遠征はおろか、自国内のトーナメントマッチへの出場も覚束ない。ここ数年自分の試合での成績が芳しくないのは自覚はしていた。しかしまさかこんな急に契約解除となるとは思ってもみなかっただけにヨンは慌てた。幼少期からゴルフにしか打込んでこなかった自分にはゴルフ界で身を立てること以外の選択肢は考えられなかった。容姿を認められ、自分自身の努力もあって隣国はおろか海外においてもセクシークィーンの名を欲しいままにしてきたヨンだったが、それもそこそこの成績を残せる事が前提だった。成績が低迷する中、スポンサー契約解除を通告されるのはヨンにとって将来の人生そのものを否定されることに他ならなかった。そんな時にヨンの元に舞い込んで来たのが鮫津と名乗る日本人アスリートブローカーが突如持ってきた日本の新興スポーツウェアメーカーからのスポンサー専属契約の話なのだった。

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