
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第一部
十三
「え、えーっと・・・。ゴルフのパッティングの絵ですよね。モデルは・・・。確かアメリカ映画界の往年のスターのマリリン・モンローみたいですね。あ、後ろに居るのはジェームス・ディーンじゃないでしょうか?」
「絵のモデルはどうだっていいんだ。君が言う通り、ゴルフのパッティングのシーンだが、只のパットシーンじゃないんだ。描かれている人物の表情を観て何か気づかないかね。」
社長にそう言われて改めてまじまじと描かれている人物たちの表情を観返してみる。
「パットを打とうとしているマリリン・モンロー風の女性は、何か絶望的な表情をしていますね。そして周りにいるギャラリー達は妙に嬉しそうに結果を待ち望んでいるように見えます。」
「さすがだね。やっぱり長年実際にゴルフをやっている身だけあって、描かれているゴルファーの心理をきちんと見抜いているじゃないか。それじゃ、あの絵に描かれているモンローは何を思ってこのパットに臨もうとしていると思うかね?」
「このパットは絶対に外してはならない。もし外してしまうと飛んでもないことになってしまう・・・。それを何とかして阻止したい?」
「素晴らしい。さすがにゴルファーの心理をよく分かっている。実はこの絵はストリップゴルフのシーンを描いていると伝えられている。ストリップゴルフというのは女性を独りだけ招待して一ホールずつを他のゴルファーと競わせるのだ。勿論他のゴルファーというのは全員男性だ。そしてそのホールで男性のうち誰か一人が女性ゴルファーを上回れば、女性ゴルファーは身に着けているものを一枚脱がねばならないのだ。一説によると、この時点でマリリンは既にブラジャーもパンティも脱がされていてあとはワンピース一枚しかないというシーンだ。次のショットでバーディを奪うことが出来なければ下着無しの身で最後の一枚のワンピースを取らなければならないという訳だ。」
「そ、それであんな絶望的な顔をしながらパットに臨もうとしているというのですか・・・。」
「その緊張感が想像出来るかね? 君なら分かる筈だ。」
「え、まさか・・・。この絵を私に見せたのは、そのストリップゴルフというのを私にやれと言うのですか?」
「ふふふ。実はこの絵を呉れて、その由来を教えてくれた男がどうしても君に一緒にラウンドを廻って欲しいと言っててね。私が君のスポンサーをしているのを知っていて、どうしても一緒にラウンドでプレイしたいって言うのさ。」
「そ、それは、以前に社長に言われてプライベートの接待ゴルフで一緒にグリーンをま、まわ・・・廻った社長さん達でしょうか?」
ヨンは一瞬「廻らされた」と言いそうになって言葉を言い換えた。その時もさんざんパットに入るヨンの姿を低い姿勢でスコートの中を覗き込もうとしていた如何にも好色そうな爺さんたちだったのを思い出していた。
「ああ、そうだよ。私のゴルフ仲間達さ。もっとも私自身はもうゴルフは引退しているんで昔のゴルフ仲間のいうほうが正確だな。」
ヨンはさっとその時の試合のスコアを思い出す。彼らならそう易々とは敗けそうにはない自信があった。それにヨンには社長の申し出を断る権利はもともと無いのだということは重々わきまえていた。
「分かりました。社長がお望みなのでしたらそのマッチはお受けしますわ。」
「そうか。引き受けてくれるかな。じゃ、ハンデはワンホール辺り二打辺りでいいね?」
「え? に、二打・・・ですか。」
二打というのは一緒に廻る誰かがパーを獲得した際には常にバーディ以上を獲っていなければならないことを意味していた。彼らの実力と自分のそれとを比較してみた時にそれは不可能ではないと思われたが、ひとつのミスも許されないことを意味していた。しかしヨンにはそれを断ることは出来ないのだった。
「わ、わかりました。それで結構です。」

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