妄想小説
地に堕ちた女帝王
二十二
「何だ、お前か。」
突然、ノックもせずに入ってきた紗姫のほうに顔を上げて、横井は驚いた風もなく声をあげた。
「調達部の女子社員が、出掛けて帰らないと言っていたのに・・・。」
「ふん、用が変わったのさ。それより何の用だ。」
紗姫はどんな表情をしていいか戸惑った。横井のような男に媚びるつもりは毛頭無かった。が、何としてでも、腰に嵌められた貞操帯を外して貰わなければならないのだ。
紗姫は表情を観て取られないように下を向いて俯いたまま話しかけた。
「お願いですから、この腰のものを外してください。もうこれ以上は我慢が出来ません。」
下を向いている紗姫には、ほくそえんでいる横井の表情は見て取れない。
「お願いだったら、土下座して頼むんだな。」
紗姫は口惜しさに唇を噛んだ。ゆっくりと腰を落とし、膝をつくと両手を床に付け、更には頭を下げて額までも床に付ける。
「どうかお願いです。これを外してください・・・。」
暫く沈黙が流れた。それから横井が机の抽斗を開ける音がした。
「そいつを外してやる前に、もうひと仕事、お前にはして貰わなくちゃならねえ。俺の言いつけ通りにちゃんとやったら、外すのを約束してやる。」
不安に駆られ、紗姫は顔をあげて横井の顔を訝しげに覗きあげる。横井は紗姫を困らせている事にいたく満足気だった。
「まずこいつを穿け。」
横井が投げて寄こしたのは、何と女子高生が使うようなルーズソックスだった。しかも超長いスーパールーズというものだ。紗姫自身も休日には使って街を歩いたこともある。しかし、さすがに会社への通勤にはしてきたことがない。
(何の為にこんなものを・・・。)
しかし、今は横井の言うとおりにするしかなかった。土下座の体勢から身を起こすと片膝を立てて、片脚ずつルーズソックスを足に通す。横井のほうからは短いスカートの奥が丸見えの筈だが、紗姫は最早構わなかった。立ち上がって、一旦膝の上まで引き上げてから徐々に足首のほうへ戻して形を整える。
「穿いたわよ。これで満足?」
ルーズソックスは、ミニスカートから露わになる太腿を更に強調する効果がある。紗姫も充分それを知っていて、休日の日にわざと履いたりするのだ。それでなくても短すぎる紗姫のミニスカートの制服にルーズソックスを合わせると、男たちには、いけないものを観てしまったような気にさせる筈だ。
「今日はこれから退社時間に外の通用門のところでビラ配りをする。お前にはそれを手伝って貰う。応援ってえ訳だ。」
横井が突き出してきたビラの束を受け取ってさっと読む。明日、開催される購買部主催の関連メーカーの展示会の報せだ。通常、ビラは朝配ることが多い。このビラもおそらくは朝、配る為に用意されたものの筈だ。
「こいつは本来、明日の朝、部下に配らせることになってるんだが、今日のうちに前宣伝を兼ねて一部を退社時間にお前と配ろうって訳だ。」
(お前と?)
紗姫は、調達の本部長である横井が自らビラ配りをするということよりも、横井と二人でやるということのほうに不信感を抱いた。
紗姫が連れていかれた通用門はまだ定時前だったので、人通りは殆どない。少し離れたところにある守衛所にも、守衛が中に入って出入りする業者の車の応対をする為に待機しているだけだ。
横井は紗姫を雑草が生えたままになっている通用門際のフェンスの前へ立たせると、紗姫の足元に屈みこんだ。ルーズソックスで包まれた足首を掴まれたと思った瞬間、その足首に鉄の輪が咬まされた。あっと声を上げる前にそれはしっかり紗姫の足首にはめ込まれた。大きめの手錠を使った足枷のもう片方側はフェンスの金網に既に嵌められていたようだった。それを生い茂った雑草と紗姫のルーズソックスの襞がカムフラージュして分からなくさせている。
横井は防寒用ジャンパーの胸ポケットにしまい込んでいたらしいペットボトルを紗姫に差し出す。
「ビラ配りをしていると喉が渇くからな。今のうちにこれを呑んでおけ。早くしろよ。すぐに定時になって、退勤者が通り始めるからな。」
有無を言わせぬ口調で、紗姫には言う通りにするしかなかった。脚の自由を奪って無理やり飲ませるからには、ただの水の筈はなかった。ペットボトルの中身はほんのり苦味があるような気がしたが、何を飲まされているのかは紗姫には伺いしれないのだった。
「お疲れさまでえすぅ。はい、お知らせでえすぅ」
誰かが通りがかる度に、紗姫は手にしたビラを一枚ずつ配ってゆく。すぐ傍には横井が同じ様にビラの束を持って立っているが、声を掛けるのとビラを渡すのは専ら紗姫に任せている。
「あれ、紗姫ちゃん。購買の手伝いしてるの。」
紗姫のことを知っている者も当然通りかかる。紗姫の所属する環境安全課と調達部門は直接の関係はないのだ。
「ああ、今日は臨時のお手伝いなんです。よろしくぅ。」
陽気に微笑みかける紗姫の姿は、いかにも助っ人を頼まれて手伝いをしている風に見せていた。超ミニにルーズソックスの紗姫の姿は、拡販で人寄せをするコンパニオンそのものだった。その露わな太腿につい寄せられて、男性社員は何事だろうと寄ってくるのだった。
紗姫の下腹部に異変がくるのにはそう時間はかからなかった。
「ううっ・・・。」
最初は気づかれないように、不審に思いながらも我慢していた紗姫だったが、次第に腹を押さえて腰を屈め気味にしなくてはならなくなる。
「何を飲ませたの、さっきの。」
恨めしいような目で隣の横井を睨みつける紗姫だったが、横井は涼しい顔でにやついている。それでなくても吹き曝しの風に、生脚を晒しているのが助長していた。昼間は尿意にさいなまれ、今は便意を催して苦しめられている。脚に嵌められた枷の意味を漸く思い知らされたのだった。
「お、お願い・・・。ト、トイレに・・・、おトイレに行かせてっ。」
もはや顔を顰めて懇願するしかない紗姫だった。その紗姫に横井は非情な声で言い放った。
「俺はこの辺で引き上げることにするから、後はよろしくな。足首の鍵は日下が持っているから、来たら頼み込んで外して貰うんだな。」
横井はそれだけ言うと、紗姫を通用門前に一人残して、さっさと事務本館のほうへ戻っていってしまった。紗姫はこめかみから脂汗が滴り落ちるほど、極限状態にまで陥っていた。人が通りかかると何とか普通を装って、ビラ配りを続けていたが、じっと見詰められていたら、異変に気づかれたかもしれなかった。
遠くから近づいてくる日下の姿が見えたのは、紗姫にとってとてつもなく時間が経ってからに感じられた。
(は、早く来てっ・・・。)
紗姫には日下がゆっくりと歩いてくるのがもどかしかった。
「く、日下・・・。日下・・・さん。」
間近に来るのも待ちきれずに紗姫は日下に呼びかける。
「お願いっ。早く外して。鍵、持っているんでしょ。」
身を屈めて下腹を押さえながら、上目遣いに見上げる紗姫に、日下はにやりと不気味な笑みを浮かべる。
「外してあげるけど、代わりにして貰いたいものがあるんだ。それを後ろ手に嵌めたらすぐに脚のは外してあげる。」
そう言って日下が差し出したのは、別の手錠だった。紗姫ははっとして辺りに誰かいないか見渡す。ちょうどその時は他の退勤者は近くには居らず、少し離れた守衛所でも当番の男が腰を下ろしてこちらには気づいていない。
言い合いをしている余裕は紗姫にはなかった。すぐさま手錠を受け取ると、自分で背中に回して両手首にそれを嵌める。
「じゃ、今外して体育館のトイレに案内してあげるから一緒に着いてきなよ。」
「お願いっ。早くしてっ。」
手錠を嵌めさせられて、自分の腹を押さえることも叶わなくなった紗姫は腰を屈めるようにして募ってくる便意に堪えて足枷が外されるのを待っている。
日下はさっと紗姫の足元にしゃがみ込むと、足枷のロックを外す。脚の自由が効くようになった紗姫は日下に案内されるのも待ち遠しく、先に立って体育館のほうへ走りこむ。その後を遅れないように日下が追いかける格好となった。定時直後の体育館ロビーは誰も居らず静まり返っている。夜は市民に開放している体育館だが、開放の時間まではまだ1時間ほどある筈だった。入口で土足を脱ぐのに、後ろ手の手錠のせいで手間取っている紗姫に日下のほうが追いつく。
「そんなに急いていても、腰のものを外さないと出来ないんじゃないのかい。」
紗姫ははっとなった。募り来る便意に慌てていて、すっかりその事を忘れていたのだ。
「こんな場所が何時、誰が入ってくるか分からないよ。その扉の中に入ったほうがいい。」
日下が顎で指し示す玄関ホールからアリーナへ入る観音開きの大扉を肩で押し開くと紗姫は中に滑り込む。
「お願い、急いで。」
紗姫の後からのっそりと入ってくる日下を声で急かす。
「じゃあ、スカートを捲り上げてよ。」
後ろ手の手錠で不自由だったが、従わない訳にはゆかない。スカートを日下に捲られるのも嫌だった。紗姫は言われるままに後ろ手のまま、指を伸ばしてスカートの布地をつまみ、上へ引き上げる。鎖一本でTバッグのようになっているお尻の部分から下半身が露わになる。バックルになった錠の部分が現れるように、紗姫は手繰り寄せたスカート地を腰から更に上に引き上げる。貞操帯に包まれた股間がすっかり露わになってしまう。
日下がポケットから鍵を取り出し、紗姫に近づいてきた。日下の手が紗姫の腰にきつく廻されたベルトに掛かる。もう一方の手が鍵穴に鍵を差し込むのが感じられた。カチンと甲高い音を立てて、お尻の上でベルトに繋いでいた股帯が外れ、紗姫の下腹部の前に鎖のジャラッという音を立てながらぶら下がった。それを見て取ると、紗姫は日下には構わずに女子トイレ目掛けて走り出した。
「そ、そんな・・・。」
もう我慢の限界で飛び込んだ女子トイレの三つある個室はすべてに「故障中、使用禁止」の紙が貼られ閉まっていた。試しに背中の手でドアノブを引いてみるが、どれも中からロックされているようで、開かない。
(三つも同時に故障になる筈がない。横井と日下の仕業に違いない。)紗姫は二人の悪意を感じながらも考えている余裕はなかった。
(また、男子トイレを使わせようというのね。)
紗姫には選択肢は残されていない。洩れ出しそうになるのを必死で堪えて、ステージの反対側にある男子トイレ目指して走り出そうとしたところで、女子トイレの入口の脇で待っていた日下が咄嗟に出した足に物の見事に引っ掛けられてしまった。バランスを完全に失って肩からもんどり落ちた紗姫はしたたかに肩を床にぶち当てた。その瞬間に堪えていた緊張の糸が切れてしまった。
ブリッという音が聞えた気がした。尻の真ん中に妙な違和感があった。そのまま紗姫は動くことが出来なくなった。動いたら垂れてしまうと思った次の瞬間には尻の穴からひり出るものをもう止めることが出来なくなっていた。
「あ~あ、とうとうここでしちゃったね。」
すぐ後ろから日下の声がする。紗姫は屈辱感と恥ずかしさにそちらを振り向くことも出来なかった。かといって立ち上がることすら出来ないでいた。
「もうそんなになっちゃったら、糞垂れ流しながらトイレまで這ってゆくことも出来ないでしょう。そのまま思う存分出しちゃえば。」
日下の非情な言葉だったが、紗姫にはもうそうすることしか出来ないのは明らかだった。便意はまだ続いていたのだった。
次へ 先頭へ