妄想小説
地に堕ちた女帝王
十三
途中から行方不明になっていた真美から携帯電話が掛かってきたのは、もう夜になっていた。真美は男たちに山の中に拉致されて、散々に弄ばれた後、縛られて山の中に放置され、夜になって漸く自力で逃げ帰ったのだという。紗姫のことが心配ですぐに秘密のプレハブ倉庫へ駆けつけたのだが、既に紗姫の姿が無かったので電話したのだというのだった。
紗姫は、真美の拉致された時の様子を一通り聞いた後、夜遅くになって会社の体育館まで来るよう真美に命じたのだった。
工場保全の業務を請け負っている関係で、深夜の警備員の巡視計画は全て紗姫の居る環境安全課で把握出来るようになっている。工場のどの場所をその日は誰の担当で何時に巡視するのか記録簿兼計画書のファイルから盗み見ることが出来たのだ。紗姫は既に頭に入っているその計画から、体育館の巡視と施錠が終わる深夜一時に、真美にこっそり忍び込んでくるよう命じていた。勿論、体育館の施錠スペアキーも紗姫は手にいれることが出来たのだ。
「サッキー、居るのぉ・・・。」
鍵は掛かっていなかったので、紗姫が先に来ていることは判っていたが、明かりはすっかり落ちた真っ暗闇の体育館ホールへの大扉をすり抜けた先に入るのはさすがに心細かった。
「こっちよ。静かにこっちへ歩いてきて。」
声は闇の中の体育館の真ん中のほうから聞こえてきたようだった。真美は手探りで声のした方へ摺り足で近寄っていく。
「あれ、持って来た?」
何時の間にかすぐ傍まで紗姫も近寄っていたようだった。真美は紗姫に言われたものを詰めたバッグを暗闇の中に差し出す。
先に暗闇の中で待っていた紗姫のほうが闇に目が慣れているようだった。真美のバッグを受け取ると、真美の手を取って引き寄せる。
「さ、ここに立って。」
紗姫の手が真美の両肩を抑えて、場所を指示する。されるがままに真美はじっとして紗姫の動きを待っている。紗姫の話し方の一種独特の抑揚から、紗姫がこれからプレイに入ろうとしていることを、真美はいつもの様子から敏感に感じとっていた。
紗姫が頭の後ろから何か真美に被せてきた。目が蔽われることで、アイマスクを着けさせられたのだと真美も悟った。
「さ、着ているものを全部脱ぐのよ。」
紗姫は優しい言い方ではあったが、命令は威圧的だった。真美は軽く頷くと、ブラウスのボタンをひとつずつ外し始めた。
最後の一枚であるショーツを足首から抜き取ったところで、真美は手を引かれて両手を前に突き出すように導かれる。その手首に縄が巻きつけられていく。真美は目隠しをされたまま、全裸で縛られることに何故か不安を感じていなかった。相手が紗姫だということが為されることに全て服従することが当たり前なのだと思ってしまうのだった。
両手がしっかりと前縛りに括りつけられると、紗姫が離れていく足音が微かにホールに響き渡った。少し離れたところでジャラジャラという音がし始めた。と思うや、真美の両手を縛っている縄が次第に曳かれていくのが判る。縄はどんどん上へ向かって引き上げられていく。それに連れて真美は両手を肩の上へ上げなければならない。遂には頭の上まで引き上げられる。それでもジャラジャラという音は止まらない。真美はもう縄で吊られる格好で爪先立ちになって漸く床に足をつけている状態まで引き上げられてしまった。足元に何かが置かれたのが判る。足で探ってみると踏み台のようだった。真美は縄で吊られているのが苦しくて、その踏み台の上へ足を乗せる。紗姫の手がも片方の足首ももうひとつ置かれた踏み台のほうへ導く。踏み台に両脚を乗せたことで、吊られていた縄が少しだけ緩んだ。が、今度は踏み台が少しずつ横にずらされていくのが判る。それに従って、真美は脚を開いていかざるを得ない。全裸で居るだけに脚を開いていくのは恥ずかしい。自分の目では何も見えていないので、どんな格好になっているのか想像するしかない。真美は人の字の形になって上から吊られる格好にさせられた。
踏み台の上にあがったので、一旦は縛られた両手首が顔の前まで降ろせるぐらいに緩められたのだったが、再び縄がジャラジャラという音と共に引き上げられ、再び真美の両手は頭の上まで持ち上げなければならなくなった。両腋をすっかり晒すように吊られているのは、裸の身を守る術を全て奪われたようで、不安で仕方がない
「どう、裸で吊られた気分は。」
紗姫の声が背後から聞こえる。
「何だかとっても、不安で怖い筈なのに、わくわくしてくるような気もするの。ああ、何だか興奮してきちゃいそう。」
「ふふふ、もっといい気分にさせてあげるわ。ほらっ。」
紗姫の声と共に、ぬるっとした感覚が真美の股間の中央を走る。真美の股間も紗姫に倣って全部綺麗に剃り上げてある。そのつるんとした陰唇に紗姫が塗りたてているのは、昼間自分が使ったクリームに違いないと思った。塗り込められていくうちに、ビチャと卑猥な音を立て始めたことで、あの部分が潤んできていることを悟らされた。
「ああ、痒いわ。あそこがかあっと熱くなってじんじん痒くなってきた。」
想像以上の痒みに真美は腰をくねらせる。が、両手をいっぱい伸ばして吊られており、両足は左右に広げられた踏み台に乗せられて大きく脚を開かされているので、自由に動かすことは出来ない。ほんの少しだけお尻を振って悶えることしか出来ないのだった。
「さ、行くわよ。」
紗姫が背後から声を掛けた。真美はどんどん強くなってくる股間の襞の痒みに堪えることが精一杯で、紗姫の声にも注意が行っていなかった。
パシーン。
突然鋭い音が体育館ホールに響き渡った。股間の掻痒感を一気に忘れさせる尻に受けた衝撃に真美が頭がくらくらしそうになる。尻たぶに染み入る痛みで、真美は自分が持ってきた物の中に入っていた革の鞭を思い出した。
鞭の最初の衝撃が次第に収まってくると、再び真美を股間の痒みが蝕み始めた。
「ううう・・・。」
再び真美は腰を振り始める。
「さあ、真美っ。どうして欲しいのか言ってごらん。」
紗姫の言葉は、明らかに普段のものとは変わって人が変わったようだった。
「お、お願いです。鞭で打ってください。もっと・・・、もっと鞭を、お与えください。」
真美も自分からそんな言葉がすらっと出てくることが不思議だった。
パシーン。
今度は反対側の尻たぶに衝撃が走る。その衝撃に痒みを堪えていた陰唇が一気に収縮し、弛緩すると、何かがたらっと、真美の内股を伝って流れた。それを真美自身も止めることが出来ない。
バシーン。
今度は無防備な背中に衝撃が走った。再び陰唇から滴がたらりと垂れ、内股を伝って流れる。その後も鞭の打擲は脇腹、腋下と執拗に続いた。真美の開かれた脚の真下には、既に水溜りまで出来ていた。失禁ではないことは真美自身にも判っていた。
股間の掻痒感は何時の間にか癒されない渇望感に変わっていた。どうにかしてほしい欲望だけが真美の頭を渦のように廻っていた。
突然、紗姫が真美のアイマスクを剥ぎ取った。何時の間にか体育館には明かりが点けられていた。目の前の紗姫もすでに全裸になっていた。が、真美を驚かせたのは、裸の姿ではなく、紗姫の腰周りに既に装着されていた男性のシンボルを模ったディルドウだった。
自分が持ってきただけに、どんなものかは真美もよく判っていた。腰に装着するバンドの外側と内側にそれぞれペニスの形のディルドウが付いているもので、紗姫の陰唇の内部にも内側のディルドウが既に深々と刺さっている筈なのだった。
紗姫が股間にディルドウをぶら下げたまま、体育館の壁際まで歩いていく。そこには天井から鎖の輪が下がっている。それを紗姫が操作すると、真美の真上で最上部まで吊り上げられていたバスケットゴールが次第に下がってくるのが見えた。真美は可動式のバスケットゴールに縄で吊られていたことを初めて知った。ゴールが下に下がってくるにつれて両手を吊っていた縄が緩んでくる。真美は十分縄が緩んだところで水溜りを除けて、踏み台の下に下りた。
両手は肩の高さまで降ろすことが出来たが、真美はその両手を吊られたままの形で上半身を前に倒し、尻を突き出して馬のような格好になって紗姫を待った。ディルドウを股間にぶら下げた紗姫が近づいてくるのが気配でわかる。
「お願いです。突き抜いて下さい。」
真美は両脚を少し開いて紗姫の造られたペニスの挿入を待った。
「来て・・・。ああ、あああ、いい。いいのぉ・・・。」
真美の愉悦の声が真夜中の体育館ホールに響き渡ったのだった。
「マミー。アンタ、マゾっ気があるとは思っていたけど、心底マゾだとは今日初めて判ったわ。」
目の前に傅いて股間に顔を埋め、いつものように舌で股間の秘部を愛撫している真美を見下ろしながら、紗姫は言った。全裸で紗姫の前に傅いている真美の両手は背中で後ろ手に縛られている。紗姫の股間に奉仕するのに、縛られていたいといったのは真美のほうからだった。愛液で顔をぐちゃぐちゃにしながらも、拭うことさえ出来ない状態で居させられるという思いが余計に真美の被虐心をそそるのだという。
紗姫の方も、真美に思い切り鞭を振るうことで、漸く日下に嫌々犯されながらも感じてしまった屈辱心を紛らせていた。真美が遊び半分に嵌めた手錠のせいで、日下が陵辱するのに何の抵抗も出来なかった事は、紗姫にとって許しがたいことだった。しかし、それ以上に許せなかったのは、股間の痒みをあの虫酸の走るような日下に癒されたことだった。最後には愉悦の声まで挙げてしまったことが今でも悔やまれていた。その思いを紛らそうと真美とのプレイに呼び出したのが、鞭を振るうことに繋がったのだった。復讐したい相手は日下なのだが、表面上は自分の痒みの焦燥を癒すばかりか愉悦の頂点まで導き、拘束状態から救い出してくれたのだ。日下を罰する訳には行かなかった。無念を晴らす相手はそんな状況に陥らせた真美でしかなかったのだ。
真美がその鞭の罰を、頼みもしないのに受け入れたことが紗姫には意外ではあったのだが、その予感はあったのだ。しかも、鞭で打たれることえで確かに感じいっていた。股間からどろっとした液を鞭で打たれる度に垂らしていたのが何よりの証拠だった。
「そんなにいいなら、今度から毎回、縛って鞭を当ててあげるわ、マミー。」
「ああ、うぶうぶうぶ・・・。」
股間の襞に埋めた舌ではっきりと喋れない真美は明らかに喜んでいるようだった。
真美は、憲弘に教えられた通りのストーリを紗姫に語る芝居をしたのだったが、あの後、紗姫の身に何が起こったのかは知らされていなかった。夜になるまで街に来てはならないと命じられた真美はバスと徒歩で横井に襲われそうになった公園で夕日が暮れるのを待ち、暗くなるまでの時間を過ごしたのだった。横井と来た頃はまだ造成中だった公園は暫く前に完成して開園し、市民の憩いの場となっていた。それでも夕暮れ時に女一人で彷徨うのは傍目には異常に見えたはずだ。真美は極力人目に付かないよう気をつけながら、公園のベンチでぶらついていたのだ。
紗姫とのプレイにSMごっこのような事を持ちかけ、最初は自分がやられる役で感じてみせ、次に紗姫に逆をやらせるというのは憲弘から授けられた策略だった。真美はそれに従わない訳にはゆかなかったのだ。しかし、実際に紗姫に縛られ、日下に渡された妙なクリームを股間に塗り込められると、思ってもみなかった甘美な世界がそこにはあったのだ。真美は文字通りマゾの欲情に目覚めたのだった。それだけに、嫌がる紗姫をその気にさせて手錠を嵌めさせ、まさか日下が摩り替えたとは思いもしない更に強力な掻痒クリームを紗姫の股間に塗り込めた時には、紗姫も同じように感じるだろうと思ってさえいたのだ。
真美の役目はそこまでで、外でする物音に様子を見に行く振りをして、その後は悲鳴を上げてからその場を立ち去るように命じられていた。だから、その後のことは何も知らないし、紗姫に訊くことも出来ない話だった。
紗姫にその夜呼び出されて、全裸にされて縛られ吊るされた時、真美は騙したことの罰を受けるのだという気持ちにさえなっていた。だから、何も言わずに黙って鞭に甘んじたのだ。その鞭の味が、思いもしなかった甘美な愉悦を与えてくれたのは真美自身でも驚いたことだったのだ。
いつもの喫煙ルームへ煙草を吸いに行こうと、紗姫を誘った時に、顔が一瞬曇ったのを真美は見逃さなかった。しかし、一瞬逡巡したように見えた紗姫だったが、その後きっぱりと何かの思いを振り払ったかの様子でいつもの笑顔が戻った。
「いいわよ。行きましょう、マミー。」
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