男子便所磔

妄想小説

地に堕ちた女帝王



 一

 紗姫は、さっきから間歇的に襲ってくる腹の痛みと闘っていた。額からたらりと汗が垂れる。
 (うう、も、洩れそう・・・。)
 必死で歯を食いしばって、排泄をこらえている。その時、紗姫は便座の上にしゃがみこんでいた。それなのに、排泄をすることは出来ないでいる。それは便座の上にしゃがみこんではいるものの、パンツを穿いたままだからだ。背中で両手の自由を奪っている縄の縛り方は念が入っていた。手首に食い込んでいるだけではなく、指の一本一本まで結わえ付けられていて、手の自由が全く効かないのだ。だから背中から手を伸ばそうとしても自分でスカートを捲り上げ、下着を下ろすというのは叶わなかった。指の自由を奪われているだけでなく、手首を縛っている縄はその後ろで水栓コックにしっかりと括りつけられているので、立ち上がることさえ出来ないのだった。
 時間が刻一刻と過ぎていく。紗姫には限界が近づいているのがひしひしと感じられていた。下腹に力が入らないように気をつけながら、もう一度、背中の腕に力を篭めてみる。しかし、よほど頑丈に縛っているとみえて、手首の縄はびくともしなかった。
 (ああ、もう駄目・・・。)
 気丈な紗姫が呻き声をあげそうになったその時、トイレの扉が音もなく、すうっと開いた。
 「だ、誰っ。」
 開いた扉から見える向こう側に男性小便用のアサガオが見える。その時初めて、紗姫は連れ込まれた場所が男子トイレだったことを知ったのだ。
 黒っぽい服に頭からストッキングを被った男がぬっと現れた。
 「誰っ。貴方なの、私をこんな目に遭わせたのは・・・。」
 そう言いながらも、お尻から洩れそうになるのを必死で我慢する。男が現れて、余計に洩らす訳にはゆかなくなってきた。こんなところを観られてしまうのはあまりに惨めだった。
 男の視線は、便器に跨っているので、開かざるを得ない為ずり上がってしまっている紗姫のミニスカートの裾の奥を捉えている。下着が覗いてしまっているのは紗姫にも判っていた。男の前でスカートの中の下着を見られてしまうなんてことは、紗姫にはあってはならないことだ。それは常にミニスカートを穿いて男達に自分の脚を拝ませてきた紗姫の信条でもあった。しかし今の紗姫の状況はそんなことを構っておられる事態ではなかったのだ。ともかく今は男にパンツを覗かれないことより、男の観ている前で排泄してしまうなんていう最悪の事態を避けることだった。
 「出てって。ここから出てって。」
 恥かしさに、男のほうには向けずに、紗姫は怒鳴った。しかし、男は去ろうとするどころか、紗姫の傍らに手を伸ばしてきたのだ。
 「何、何するつもり・・・。」
 不安に駆られて、紗姫は男を見上げる。ストッキングではっきり見えない男の顔にせせら笑うような視線を感じた気がした。再び目を落とすと、男の指は紗姫が腰掛ける便器の横のボタンに届こうかとしていた。その丸いボタンには噴水を模ったマークと「おしり」という文字が刻まれている。
 「ま、まさか。そんなこと。」
 紗姫が叫んだのと男の指先がそのボタンに届いたのが同時だった。
 一瞬の静寂が流れる。紗姫にはそのまま、何事も起こらずに済むことを祈りたい気持ちで一杯だった。しかし、それは一瞬、時が止まったように思えたのに過ぎなかった。
 チューっという音と共に、紗姫は下着の上からむずがゆい噴出を感じとっていた。同時に生温かいべとっとした感触が下着の中心からどんどん広がっていくのが感じられた。
 「やめて。濡れちゃうじゃないの。何、考えてんの。と、止めて・・・。」
 その噴流を止めるには、「おしり」のすぐ隣のボタンを押さなければならない。しかし、紗姫にはボタンを押して止めるどころか、噴流から逃れて立ち上がることすら出来ないのだ。
 迸る奔流は、一部は紗姫のスカートから中のショーツまでを濡らし、一部は便器の中に滴り落ちていた。そのぐっしょりした嫌な感触に、紗姫はもう全てを投げ捨ててもいい諦めを見出していた。その諦めが紗姫の緊張感を緩めてしまった。
 ブリ、ブリ、ブリ、ブリッ・・・。
 紗姫の下腹が遂に暴発したのだった。ずぶ濡れになったショーツの中を、更に嫌な感触のものが広がっていく。
 男は紗姫の気配を敏感に感じ取ったようだった。さっと手を伸ばすと「おしり」の横の「止」のボタンを押す。開かざるを得ない膝と膝の間を身体を屈めて覗き込むようにしていた男だったが、尻のポケットからデジカメを撮りだすと、シャッターを切り始める。強烈なフラッシュの閃光に目が眩む紗姫だったが、そこから逃れる術はなかった。ぐっちょり汚れて濡れたショーツが、膝を閉じることさえ躊躇させていた。
 何枚も撮り終えてから、今度は男が片手で紗姫の足首を捉えた。無理やり脚を上へ上げさせようとしているのは明らかだった。そうはさせまいと脚に力を入れる紗姫だったが、所詮女の力は弱い。しかも両手首を後ろに繋がれているので、力を篭めようにもバランスが取れない。下手にもがけば、便座から滑り落ちてしまいそうになる。とうとう紗姫は屈して、男の為すがままに任せることにした。男は足首を自分の肩まで担ぎ上げ、糞と洗浄水にまみれた股間を露わにさせられてしまう。もう片方の手がその汚れにむけてシャッターを切っていく。
 「誰だか知らないけど、絶対に許さないわ。こんなことして・・・。く、く、く・・・。」
 口惜しさに歯軋りしながら紗姫は涙を溜めた視線でストッキングを被った男を睨みつけた。しかしその時の紗姫に復讐する術は何も無かったのだ。

おもらし女2

 あの日は、紗姫に月一回巡ってくる休日出勤の日だった。紗姫の所属する環境安全課は、工場の設備のメンテナンス点検を全て請け負っている部署だ。その部署の性格上、工場が休みの日に出勤して、機械の点検をやらねばならないことが多い。点検をやるのは男性の保全員たちで、事務をやっている紗姫が点検をやる訳ではないのだが、何人かが出る休日出勤の際には数名の女性事務員たちが交代で電話番に出なければならないのだ。保全員たちが全員出払ってしまうことも多く、そんな際にも業者から電話が掛かってくる為だ。
 そういう休日出勤の際はかなり暇だ。業者の電話だってひっきりなしに掛かってくる訳ではない。全く掛かってこない日だってあるのだ。普段の事務仕事だって、休みの日にまでこなさなければならないほど忙しい訳ではない。保全員たちが出払ってしまえば、その目を盗んで爪磨きや化粧直しに時間を潰すのが常なのだった。
 それが、あの日はどうした訳か、夕方どうにも眠くなって、ついうとうとしてしまったらしかった。保全員たちは珍しく出張に出てしまって戻らないという。紗姫は独り残されて、定時時間まで電話番をしたら、さっさと帰るつもりでいた。猛烈に眠気が襲ってきたのは昼過ぎぐらいからだった。まさかそれが紗姫の持ってきた水筒に仕込まれた睡眠薬のせいだとは思いもしなかった。しかも睡眠薬だけではなく、その水筒には下剤まで仕込まれていたのだった。ふと我に返った時は既に両手を厳重に縛られていて、トイレの便器に眠らされたまま括りつけられていたのだった。そこが男性用トイレの個室の中だったのも、男が紗姫の様子を見にやってきて初めて判ったことだった。
 男の前で失態を演じ、その姿まで写真に撮られてしまっていた。男はその後、紗姫の下半身から汚れ物を器用に剥ぎ取り、ビニル袋に入れて持ち去るつもりらしかった。男は少しだけ縄を緩めると、再度おしり洗浄のボタンを押して、そのまま逃走してしまったのだった。下半身の汚れを洗い流しながら、漸く紗姫が後ろ手の戒めを解くことが出来たのはそれから30分も経ってのことだった。散々おしり洗浄で温水を掛けられたミニスカートの制服は染みがついてしまっていて、洗い直さなければならなかった。しかもショーツは奪われていて、生乾きになるまで下半身は素っ裸でいなければならない。誰も居ない筈の休日の工場内とはいえ、男子トイレの個室から不用意に飛び出ることも憚られ、スカートが半乾きになるまで下半身丸出しで待っていなければならなかった。
 一旦は持ち去られたかに思われた紗姫のハンドバッグは男子トイレのある建て屋を出たすぐのところに落ちていた。何も取られていないようだったが、よくよく調べると、生理用の予備のナプキンが無くなっているのが判った。意味のないそれは紗姫への辱めの確認の為であるかのように思われた。実際には、バッグに入れてあった紗姫の携帯から紗姫自身のものの他、大事な友人の電話番号もアドレスまで盗み取られていることにこのときはまだ気づいていなかったのだ。

金髪

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