妄想小説
地に堕ちた女帝王
十九
「何の用だって言うの。ちゃんと来てやったわよ。」
横井の部屋へ呼び出された紗姫は肩を反り返らせるようにして腕を組んで机の前に座っていた横井に立ち向かった。相変わらず射竦めるような鋭い視線で目の前の男を睨んでいた紗姫だった。しかし、横井は、おどおどしていた日下とは違って、ねちっこい目つきで命令通りやってきた紗姫を上目遣いに見上げていた。
「ドアに鍵を掛けろ。誰にも邪魔されたくないからな。お前だってそうだろ。」
横井は含み笑いを浮かべながら、顎で紗姫の背後のドアを指し示す。鍵を掛けてしまえば、誰も入ってこれない。誰にも見つからなければしたい放題をするっていうつもりなのだ。しかし、紗姫もそれくらいのことで怯えたりはしない。
「これでいいのね。」
横井のほうから目を離さずに後ろ手で背後のドアノブに手をやると、カチリとノブの中心のロックを回す紗姫だった。
「お前、この間、俺達とだけの時は何でも言うことを聞く奴隷になると誓ったよな。」
「ふん、そう誓わされただけじゃないか。卑怯な脅しの手を使いやがって。」
「へえ、そうかい。じゃあ、この間の誓いは嘘だったって言うんだな。それじゃあ、あの真美って奴の子の廻りにどんな写真がばら撒かれたっていいって言う訳だ。」
横井の言葉に紗姫は次の言葉を詰まらせる。
「あの真美ってバカ、泣いて頼んでたよな。忘れた訳じゃああるまい。」
「く、くそうっ・・・。わかったよ。言うことを聞いてやろうじゃないか。」
「へっへっへっ。やっと聞き分けがよくなってきたようだな。」
「お前の言う通りにしたからって、心までお前等に隷従してる訳じゃないからね。よおく憶えておおき。」
「へっ、強がりばかりは言いたいだけ言うじゃねえか、よっ。」
「お前なんかに、この紗姫さまが屈するとでも思うのかよ。」
「そんな強がりばっか、言ってるやつには涙流して口惜しいって思いをさしてやんから楽しみにしておくんだな。そりゃっ。」
突然、横井は紗姫の前に何か投げて寄越した。目の前の床にガチャリと重そうな音を立てて落ちたのは黒光りする手錠だった。
「そいつを自分で嵌めろ。後ろ手にだぞ。わかっているよな。」
紗姫は唇を噛んだ。どこまでも用意周到で、用心深い男だった。一度したたかに蹴り上げられて、紗姫の空手の腕には懲りているのだ。横井から目を離さないようにしながら、紗姫は腰を曲げてゆっくりと目の前の手錠を掴みあげ、そして片方の手首を横井に翳すようにして片側の輪を嵌めた。横井も目をそらさずにじっくり見つめている。手錠を嵌めた振りで誤魔化すことは不可能だった。紗姫は横井のほうへ向いたまま両手を背中に回して、身体の横から手首が覗くように脇へ両手を回し、手首にしっかり手錠の輪が掛かるのを横井に見せる。
「これでいいでしょ。こんなものを着けさせないと、女一人とも一緒に居られない臆病者って訳ね。」
「俺はな、無謀じゃないってだけだ。お前には酷い目に遭わされているからな。」
「ふん、お前が悪いんじゃないか。」
吐き捨てるように言った紗姫だったが、両手の自由を奪われては強がりでしかなかった。
「パンツを下ろして貰おうか。手錠を掛けられてたって、その位は出来るだろ。」
横井が不敵な笑みを浮かべながら命令する。紗姫には覚悟は出来ていたが、いざとなると躊躇ってしまう。
「どうした、さっきの約束を忘れたか。二人きりの時は奴隷になるって筈だったな。」
「くそうっ・・・。」
紗姫は唇を噛みしめると覚悟を決めた。後ろ手の指を伸ばし、尻のほうからスカートを捲る。裾から下着に手が届いたところで、脚を屈めるようにしながら両手を思いっきり伸ばし、ストッキング毎、ショーツを摘まんで下に引っ張り降ろす。手錠に繋がれたままでは膝の上の腿のところまで下ろすのがやっとだった。
「いいだろう。いい格好だぜ。お前にはお似合いの格好だ。」
そう言うと、横井はテーブルの上にあった30cmばかりの尺の物差しを手に取り、おもむろに椅子から立ち上がった。思わず、紗姫の喉がごくりと鳴る。
横井はゆっくり紗姫の前に来ると、手にした物差しを紗姫の顎に当てた。その姿はあたかも処刑される前の囚人さながらだった。
「さ、何でもやるなら、やればいいでしょ。」
きっぱりと紗姫は言い切った。
「いつまでそう強がって居られるかな。」
そう言うと、横井は顎に当てていた物差しを一旦引くと、手を下に降ろして物差しの先を紗姫の短くされたスカートの裾の中へ突っ込んだ。少しだけ開いた紗姫の両腿の間を物差しの先は滑ってゆき、鼠頚部に突き当たった。剥き出しの陰唇の下にその先は当てられた。横井の手にぐいっと力が篭められる。
「ううっ・・・。」
思わず声を挙げそうになるのを紗姫が何とか堪えた。
横井の物差しの先はそこから肉襞を滑りながら陰唇の割れ目を捉えた。クリトリスの下側を物差しの先は遠慮会釈も無しに突き上げてくる。紗姫は唇を噛んで痛みに耐える。尚も横井は力を篭めて物差しを突き上げてくる。紗姫は股間の括約筋を締めて歯を食いしばった。
「うりゃっ・・・。」
横井が声を挙げて漸く力を緩めると、紗姫のミニスカートの裾から物差しを抜き取った。それを紗姫の目の前に翳して見せる。先端は薄っすらと白く濁ったもので濡れそぼっていた。紗姫が目を逸らすと、横井は濡れたところを紗姫の白い頬にわざと当てて辱める。
それから横井はいきなり紗姫の髪をポニーテールに纏めた部分を掴んで、机の上に引き倒した。紗姫は為されるがままに上半身を机の上に突っ伏さざるを得ない。
「尻のスカートを自分で捲んな。」
横井の命令は非情だった。紗姫は手錠を掛けられた手でスカートの裾を手繰り寄せる。横井の目に白い剥き出しの尻たぶが露わになったのが横井の息遣いで感じられた。
いきなりその無防備な尻肉に物差しの腹が振り下ろされた。
パシーン。
「あううっ・・・。」
小気味良い音が執務室の中に響き渡る。分厚いドアの板を通して、外の廊下にも響いたかもしれなかった。
パシーン。パシーン。
横井は手を緩めなかった。みるみる白かった紗姫の尻が赤く腫れあがってゆく。歯を食いしばる紗姫にも眦から涙が零れ出るのを止めることは出来なかった。
「どうだ、思い知ったか。あんまり付け上がると痛い目を見るだけだぞ。おとなしく、奴隷らしく振舞うんだな。判ったか。」
髪を掴んだ横井の手は紗姫の頭を机に押し付けたままだった。その手の下で、紗姫は片目を開けて、横井に睨み返す。しかし、最早その目に力は篭っていなかった。
「いいか。今度、日下のところへ行ったら、パンツを隠すんじゃねえぞ。脚を組むことも許さない。思いっきり覗かれるんだ。お前が奴隷だって証しにな。判ったな。」
そう言うと、今度は紗姫の襟首を掴んで、立ち上がらせる。そのままぐいぐいドアのところまで引っ張ってゆくと、もう片方の手で素早く鍵を開けた。紗姫の身体がドアの外へ突き飛ばされると、紗姫は手を突くことも出来ずに廊下に転がり込んだ。その紗姫に向って手錠の鍵らしき小片が投げて寄越されたかと思うと、バタンと扉は閉じられてしまったのだった。
後ろ手のまま床に転がっていた鍵を手探りで掴んで立ち上がるのと、廊下の角から話し声が聞えてくるのがほぼ同時だった。膝まで下ろされているショーツを引き上げる余裕はなかった。咄嗟に意を決すると、紗姫は声のする方向へ早足で歩み寄る。廊下の角の向こうはエレベータホールである。今しも角から誰かが廊下のほうへ曲がって来ようとしていた。そしてその角から男性社員が二人話しながら歩いてくるのと同時に紗姫は何事もなかったかのように擦れ違う。そしてそのままその向こうにある女子トイレに飛び込んだ。
間一髪だった。擦れ違った男性社員達は目の前に紗姫が現れた瞬間にもう既に目の前に居たので、紗姫の下半身まで見やることはなかったのだ。一瞬後には紗姫はトイレに飛び込んでいたので、膝まで下ろされたショーツには何とか気づかれずに済んだのだった。
トイレの中でまず手錠はしたままショーツに手を伸ばし、上まで引き上げる。両手が自由にならないので、ちゃんと穿いてしまうことは出来なかった。それでも何とかスカートの裾から覗かない程度まで引き上げると、手探りで個室の扉を開け、中に滑り込んだ。何時誰が入ってくるか判らなかったので、ショーツを下されているところだけは見つかりたくなかったのだ。個室に入って、ロックを掛けてしまってから、握り締めていた鍵を使って手錠を外しに掛かる。後ろ手なので、鍵穴を探るのも容易ではなかった。
紗姫は横井に命じられた通り、いつもの資材部別館の喫煙室へ向っていた。いつも一緒の真美は誘わなかった。辱められる姿を見られたくないという気持ちもあったのだが、それよりも、気弱な真美が日下に慮るような態度を取るのが心配されたからだ。
紗姫はこの場所へは昼休みの他は殆ど来ることはなかった。真美のほうは自分が居ない時でも時々煙草を吸いに行くことがあると言っていた。昼休みに一緒に来るのは紗姫がついて来るように促すからだ。紗姫の誘いは命令と同じなのだった。だから、真美は時折は一人で気を休めたいのだと紗姫も理解して何も言わなかった。
横井に打たれた尻はまだひりひり疼いていた。紗姫には腸が煮えくり返るような屈辱だった。しかし、まだ今はそれに堪えているしかないと思っていた。そのままで済ますつもりは更々無い。しかし、紗姫は反撃に出る機会を心の奥底で窺がっているのだった。
階段を上がってゆく紗姫の目に喫煙室の壁をぶち抜いたガラス窓が見えてくると、(誰も居ませんように)と紗姫が密かに抱いていた淡い願いは虚しく打ち砕かれた。しかもそこに居るのは日下一人きりなのだった。
あのフロアで、煙草を吸う男性社員は日下一人だけだと聞いていた。だから、日下がひとりで居るのは極自然なことと言えた。しかし、紗姫にはそれが横井の仕組んだ企みにしか思えなかった。
無言で喫煙室に入った紗姫を、日下は座ったまま無言でじっと見詰めながら迎えた。目の前の珈琲テーブルには日下のものらしいマルボロの箱と百円ライタが揃えて置かれている。まだ煙草を吸っていないようだった。それはあたかも、紗姫が来ることを知っていて、来てからたっぷり時間を使いたい為であるように紗姫には思われた。
紗姫は日下の真向かいにさっと腰を下ろす。横井に命じられた通りに、両腕はだらんと下に垂らしたままだ。膝頭を覆って隠すことは禁じられていた。日下の視線は紗姫のスカートの裾の奥をずっと追っていた。短く裾上げした上に、ぴっちりタイトにしたミニスカートの制服は、立って歩く時にはその奥を覗かれるのを防いでくれるが、座った時には、余計にずり上がってしまう。両膝をぴったり付けていても、太腿の真ん中にデルタゾーンの隙間が出来てしまうのを防ぎようはなかった。日下の目は不躾にその中心を食い入るように見つめていた。下着が丸見えになっているのを判っていて隠せないのは辛かった。ミニを格好よく穿きこなすことに慣れている紗姫には、間違って男達に下着を覗かれてしまうのはあってはならないことだった。男の視線を一身に集めながら、あと一歩のところで覗かせないのが紗姫の信条だった。それが、虫酸が走るほど嫌いな日下の前で、丸見えにしながら、思うが侭覗かれなくてはならないのだ。
しかし、紗姫はそれらの感情を一切押し殺した。視線だけは下等動物を見下すような目で、日下を睨みつけたまま、肩にさげてきたショルダーバッグから煙草の箱とライタを取り出すと、バッグを傍らの余った椅子の上に置き、一本取り出しておもむろに火を点けた。
日下の視線に、おもわず手にしたライタを掴む指先が震えてしまうのを、何とか気づかれない程度に抑えた。
日下は紗姫が最初の一息をゆっくり吐き出すまで、目の前で露わになっているデルタゾーンを隠すことなく、綺麗な膝頭を自分の方へ向けて動かさないのを確かめてから、おもむろに自分の煙草の箱に手を伸ばした。目線はしかし、紗姫のデルタゾーンからは離さない。煙草を口にする前に、思わず、口の中に溜まった唾を飲み込まずにはいられなかった。
日下も最初の一服をゆっくり吐き出した。しかし、その一服はいつものようには日下に安息をもたらしてはくれなかった。その一番の原因は目の前の紗姫の鋭く射るように睨んでくるきつい視線なのだった。日下には下着を丸見えにしている下半身と、怒りに震えながらその心のうちを投げつけてくるような上半身とが別人のように見えた。
(パンツが見えちゃってるよ。恥ずかしくないのかい。)
紗姫が来る前には、そう言って詰ってやるのを何度も練習してみた日下だったが、紗姫を目の前にして、そんな言葉はどうやっても口からは出せないでいた。
目の前で綺麗な逆三角形を描いて露わになっている紗姫のパンツをじっくり目を凝らして見詰めたいのだが、睨んでくる紗姫の視線が痛たくて、とうとう目を逸らしてしまう日下だった。その格好を目に焼き付けておこうと、もう一度目を上げようとするのだが、無言の重圧が日下にそうすることを許さないように感じられた。
たまらなくなって、たったの一服で火を点けたばかりの煙草を卓上の灰皿で揉み消すと日下は立ち上がった。もう一度まぶしい腿の付根をちらっとだけでも覗きたい誘惑にかられながらも、紗姫と視線を合わすことなく、逃げるようにその場を立ち去った日下だった。
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