sm023

妄想小説

地に堕ちた女帝王



 十五

 それは、案外早く実行されることになった。出張が多く家を不在にすることが多い夫と、何かにつけ子供を預かりたがる舅夫婦のおかげで、真美は適当な言い訳さえ繕えば、夜に家を留守にするのは比較的自由が利きやすかったということもあった。

 場所は守衛が見回り巡回を終えた後の、深夜の体育館を使うことが計画された。先に真美が、日下がやってくるのを体育館で待ちうけ、準備が整った頃、紗姫が忍び込んできて、体育館の二階の観覧席の隅から様子を覗うという手筈が決められたのだった。

 「さあ、この豚男。ここに跪いてお許しくださいと頭を下げて頼むのよ。」
 レザーのミニスカート姿で、鞭を手にした真美が、自分の前に蹲る日下に向かって言い放つ。その日下は全身素っ裸で、両手首は後ろ手に手錠で繋がれている。小太りの醜く突き出た下腹の下からは、縮こまった情けない陰茎がぶら下がっているのが、二階の観覧席の隅から覗き込んでいる紗姫にも見てとれた。
 真美は日下が後ろ手の手錠のまま、頭を床に付けて土下座のような格好になると、その頭の上にピンヒールの踵を乗せて鞭を振り上げた。
 ピシーイン。
 「ひええっ~、お許しください。女王様っ・・・。」
 打ち据えられた鞭は、剥き出しの日下の尻たぶに当たったが、真美が鞭を使い慣れていないせいか、ふにゃっと勢いがなく尻を掠めたに過ぎない。痛そうにしているのは、如何にも演技っぽかった。
 (しょせん、真美にはサド嬢役は無理ね。)
 そう呟くと、紗姫はビザール衣装を入れてきたバッグのほうに手を伸ばす。

 「えいい。」
 ひゅうう・・・。ピシーン。
 「あひい。お許しください、女王様っ・・・。」
 相変わらず生ぬるい鞭しか当てられず、日下の下手な演技で合わせられているだけの真美は、背後に近寄ってくる影に気づいていなかった。

SM女王登場

 「いい加減、猿芝居みたいなSMごっこはお止めよ。あたしが代わって、本当の女王様の鞭ってものを見せたげる。おどき、真美っ。」
 何時の間にか真美の背後にはビザール衣装にピンヒールのブーツを履いた本物らしい女王様の姿が立っていた。目には左右に尖った黒い仮面マスクをつけているが、真美にも日下にも、それは紗姫であることがすぐに判る。既に片手には、長い調教用の鞭が輪にして握られていた。
 真美を横に押しのけると、紗姫は床に這いつくばっている日下の顎を鞭の柄の先で上向かせた。
 「立つのよ。」
 紗姫が命令すると、日下はびくっと身を竦ませてから、おそるおそる立ち上がる。紗姫の真正面を向いた股間は何も隠すものがないので、陰茎が露わになっている。それを一瞥すると、紗姫は背後の真美のほうへ振り向いて声を掛けた。
 「この豚男を、あのリングからぶら下がっている縄に繋いで。後ろ手で吊るすのよ。」
 豚男と呼ばれた日下の背後には、バスケットのゴールになっているリングに繋ぎ止められた縄がぶら下がっていた。真美は日下の背後に走りより後ろ手錠に縄を通すとしっかり繋ぎ留める。それから体育館の端に走っていって、天井から降りているバスケットリングを昇降させる鎖を繰り始めた。バスケットリングが次第に持ち上がっていくにつれ、日下の手錠に掛けられた縄がするすると上に引かれ、それにつれて、日下は両腕を後ろに伸ばして尻を突き出す格好にならざるを得ない。

 尻を突き出す格好を強いられながらも、日下の目は目の前の革製ビザールの超ミニスカートから伸びている紗姫の長い脚に魅入っていた。股間にぶらさがる萎えた陰茎がかすかに膨らみを帯び、鎌首を擡げ始めているのを紗姫は見逃さなかった。わざと日下の前に近寄って、目の先に自分のスカートの裾が来るようにして、これみよがしに脚を少し開いて腿を大胆に見せる。日下の陰茎が更に大きくなってくるのが露骨に判る。その陰茎を紗姫は鞭の先でつついてみせる。
 「あううっ。」
 日下はその刺激に声を上げ、ペニスを更に怒張させる。

 「おい、この豚男。女王様に鞭をお願いしな。」
 紗姫が鋭い声で目の前で縛られて吊られている情けない格好の日下を見下すように言い放つ。
 「じょ、女王様っ・・・。む、鞭を、く、ください・・・。」

 その声に無言で日下の身体から少し離れた紗姫は日下の真横に身体を置くと、手にした鞭を振り上げた。
 ピシーィン。
 「うぎゃああああ。」
 紗姫の放った一撃は、ものの見事に日下の剥き出しの尻にまともに襲い掛かり、体育館じゅうに響き渡る音を上げると、それに劣らない大きな悲鳴を日下が挙げる。
 再び紗姫の手が上がる。
 ピシーィン。
 「あぎゃうううっ・・・。」
 真美の生ぬるい鞭を当てられた時と違って、紗姫の本当の鋭い鞭に、最早日下は悲鳴以外の声を挙げることすら出来ない。あっと言う間に日下の醜い尻たぶは真っ赤に腫れ上がっていた。紗姫の鋭い鞭には、嘗て日下に味わわされた屈辱に対する怒りが籠められていた。
 「どうした、もう弱音を吐くつもり。まだまだよ。もっとたっぷり鞭の味を楽しませてやるわよ、いいこと。」
 ピシーィン。
 「あぎゃあああ・・・。」
 ピシーィン。
 「うぎゃああ・・・・。お、お許しを・・・。お許しくださいいい、女王様ああ。」
 涙ながらに許しを請う日下は、さすがに参っている様子だった。
 「じょ、女王様っ・・・。ど、どうか、この豚男にお御足を舐めさせてくださいませ。」
 日下は頭を下げて目の前の紗姫に頼み込む。

 「ふん、あたしの足を舐めるだって。百年早いよ。お前みたいな醜い男に身体を触れられるだけだって、虫酸が走るのよ。・・・、そうだ。お前には真美のほうを舐めさせてやろう。おい、真美。おいで、こっちへ。そうだ、その前にこの豚をリングの縄から下ろしておやり。」
 普段は(マミー)と呼んでるのを、ビザールに着替えた途端に(真美)と呼びつけにするのは、ふたりのプレイではいつものことだった。真美は言われた通り、鎖を手繰って日下を吊るしていた縄を下げ、日下の背後に戻って手錠から縄を外す。
 紗姫は縄から解かれた日下をブーツの先で蹴飛ばすように仰向けに転ばすと、真美にブーツを脱いで、爪先を日下の口へ突っ込むように命じた。
 「あぷっ、うううっ・・・。」
 いきなり口の中に真美の脚先を突っ込まれた日下は、最初は息が出来ずに喘いでいたが、何とか舌を使ってぴちゃぴちゃと真美の爪先を舐め回し始めた。その姿を見ながら、紗姫はピンヒールの踵を醜く膨らんだ日下の腹をこじり始めた。真美と紗姫の二人にいたぶられながらも、寝転んだ自分の身体に覆いかぶさるように二人が立ちはだかるので、股下ぎりぎりの革のミニスカートの奥がちらちら覗くのを日下は気づいていた。日下の目が紗姫の黒いショーツを盗み見するのに従って、下腹に隠れていた陰茎が鎌首を擡げ始めた。それをあざとく見てとった紗姫は寝転ぶ日下の下半身のほうに廻って、ピンヒールの踵で日下の脚を開かせ、両脚の間に立つと、股間のペニスをブーツの先で踏みつける。いきり立ち始めたペニスは紗姫のブーツに抗うように、更に怒張を増して勃起の勢いでブーツに対抗しようとする。その健気なペニスを見て、紗姫はまたひとつ日下をいたぶることを思いつく。
 「真美っ、お前、この豚男の顔を跨いで立ってごらん。そう、そうよ。脚を開いてスカートの中をじっくり見せておやり。・・・そしたら、今度はショーツを膝まで下してごらん。」
 「いやん、恥ずかしい。」
 「いいから、やって。」
 「わ、判ったわ。」
 真美はスカートの中を覗かれるだけでも恥ずかしそうにしていたが、紗姫に命じられるまま、スカートの中に手をいれて、黒いショーツを膝まで引き摺り降ろす。日下の目が一段と大きくなって、露わにされたスカートの中をじっと覗き込むと、紗姫のブーツの下敷きになっていたペニスがまた勢いを復活させる。
 「そのまま、脚を開いて、腰を落とすのよ。おしっこする時みたいに。そう、もっと腰を落として。そう。そのまま、その豚男の口に、真美のお股の唇をくっつけて、豚に舐めさせておやり。」
 「あ、いやっ・・・。ああ、ああ・・・。」
 日下の舌が今度は顔面を跨いできた真美の陰唇に触れると、日下は一心不乱になって真美の陰唇を舐め上げはじめた。
 ぴちゃっ、ぴちゃっ、ぐしゅっ・・・。
 卑猥な音を立てながら、日下が舌を使うと、真美は喘ぎ声を挙げながら身悶えして反応する。その度に、日下の股間は紗姫のブーツに踏みつけられながらも、なんとか首を持ち上げようとペニスをドクッ、ドクッと波打たせて勃起させようとする。紗姫はそんな日下のペニスを更に苛め抜くかのように、のの字を書くようにブーツの先を回してペニスをいたぶるのだった。
 「ああ、もう気が変になりそう。ああ、駄目ぇ、もう・・・。」
 あまりの刺激に、真美のほうが堪らなくなってきたようだった。日下の顔を跨いでいた身体を横に除けると、日下の股の付け根に立ちはだかっている紗姫の許へ擦り寄るように近づいてきた。
 「ああ、紗姫さまぁ・・・。私も縛って。私も縛られて虐められたいっ・・・。」
 真美は甘えるような声を挙げて、紗姫にせがみ始めた。
 「しょうがないわね。あんたはやっぱりマゾ役じゃないと燃えないのね。いいわ。こっちへおいで。」
 紗姫は一旦日下から離れて、真美をバスケットゴールのリングから降りてきている縄のほうへ導き、真美の両手を背中に回させて、きっちり縄をかけ始める。
 「きっちり縛り上げたら、あんたもたっぷり虐めて楽しませてあげるわよ。」
 そう言いながら、真美の両手を背中で縛り上げ、更にその縄を真美の胸元にも巻いて、真美を吊り上げる準備をする。
 「さ、これでいいわ。今、吊り上げてあげるから。」
 真美の両手と胸元をしっかり縛り上げてしまってから、バスケットゴールを上に挙げて真美の身体を引き上げる為に、紗姫は体育館の端に走り寄って天井から降りる鎖を繰り上げてゆく。真美の身体が吊りあがったところで、再び紗姫は真美の元へ戻る。
 「さ、あんたは何で責めてほしいの。いつものバイブかしら。」
 紗姫は目の前で目をとろんとさせている真美の顔を見下ろしながら真美の顎を引き寄せた。

 その時、ドンという衝撃を背後から肩の辺りに突然食らった紗姫だった。真美のことに気を取られていて、寝転んでいた日下のことに注意が行っていなかったのだった。
 「な、何すんの。お前、この豚野郎。」
 激しい剣幕で振り返った紗姫の前に何時の間にか立ち上がっていた日下の身構える姿があった。両手は相変わらず後ろ手になって、股間は丸見えのままだ。腰を落として肩で突き上げようと構えている。紗姫のほうも、いつでも飛びかかれるように身構える。
 「うわああああ・・・。」
 突然、日下が声を挙げながら肩で突っ込んできた。紗姫はその肩を手で受け止めようと両腕を突き出した。
「えっ、何っ。」
 日下の身体が紗姫の身構えた両手に触れようとしたその瞬間、日下は身を翻した。くるりと廻った後、紗姫のほうへ伸ばしてきた両手首には既に手錠は嵌められていなくて、代わりに黒い鉄製の物体が握られていた。
 バチバチバチッ・・・。
 閃光と共に、激しい衝撃が紗姫の利き腕から肩口に掛けて走った。あまりの痛みに膝を折って倒れこむ紗姫は、その衝撃の嘗ての記憶を思い出していた。
 (ス、スタンガンね・・・。)
 手錠を嵌められて自由が利かない筈と思い込んでいた紗姫に油断があった。まんまと罠に嵌まってしまった紗姫だった。
 痺れの残る利き腕をもう一方の手で抑えながらも反撃に身構えようとする紗姫だったが、最初の一撃のダメージは大きかった。日下が下腹目掛けて打ってくるボディーブローを身を交わした積もりだったが、脚が思うように動いていなかった。
 まともに食らった下腹への一撃は更に紗姫の抵抗力を奪っていった。髪を掴まれて引き寄せられた顎に、日下の膝蹴りがまともにぶち当たった。仰け反るように崩れ落ちた紗姫に、日下はさらに駄目押しをするようにスタンガンを突きつけてきた。
 パチパチバチッ・・・。
 パチパチバチッ・・・。
 いきなり、もう片方の腕と片方の足首にスタンガンが次々に当てられた。紗姫はもう全く抵抗出来ないことを悟った。

金髪

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