うろたえる先生

新任教師 調教の罠



 七

 「あ、先生!」
 教室へ戻ってきた真理子に生徒等の視線が集中する。真理子はさりげなく手にしていた紙袋を背後に隠す。
 「ちゃんと自習していたかしら。」
 「先生。あのビデオは?」
 「ああ、あれは・・・。誰かが悪戯して壊しちゃったみたい。修復する必要があるので業者に送り返すことになったわ。なので、今日の授業は私がビデオの分まで解説しながらやります。」
 「先生!」
 突然女性の声があがり、真理子が顔を上げると一番後ろの席に居た学級委員を務めている芳賀友理奈が手を挙げている。
 「なあに、芳賀さん?」
 「今朝がた、学校の前で西尾君に逢って頼まれたんですけど。」
 「頼まれたって、何を?」
 「先生が俺に渡すものがある筈だから受け取って来いって。言えば判るっていってましたけど。」
 「え? 西尾君に渡すもの? 何処で彼に渡すの?」
 「ああ、多分何時ものように体育館の裏にたむろしてるんでしょ。だから持っていきます。」
 「あら、私が直接持って行こうかしら。」
 「先生。彼はまだいませんよ。いつも来るのはお昼頃だから。それに私に持って来いって言ったんで、私が言われたとおり持っていかないとどんな酷いことされるか分からないので、私が持っていきます。」
 「え、そうなの? わかったわ。多分これかしらね。じゃあお願いするわ。」
 話の成り行き上、持ってきた紙袋を渡さざるを得なくなった真理子だった。幸い気転の効く優等生の友理奈なので、変な事はしないだろうと自分に言い聞かせる。紙袋を開けられないように口の部分を二重にしっかり折り畳むと自分で友理奈の席まで歩いていって、そっと紙袋を渡す。
 「はい、確かに。」
 そう言って友理奈は紙袋を机の隅に置くのだった。
 「あ、それ・・・。しまわないの?」
 「ああ、西尾のやつが授業中はずっと机の上に置いておけって何度もしつこく言ったんです。」
 「そ、そうなの・・・。」
 あまり話が紙袋に集中するのを避ける為、平然を装って友理奈の席から教壇のほうへ戻らざるを得ない真理子だった。友理奈のほうも、何が入っているのか気になる風もなく、机の隅に袋を置いたまま平然としている。仕方なく、真理子は教科書を取って授業を始めたのだった。しかし、友理奈の机の上の紙袋が気になって、授業には全く集中出来ないのだった。
 何時もに増して長く感じられたその時間の終了を告げるチャイムは真理子にとって天からのお告げのように感じられた。友理奈のほうに走り寄っていきたいのをやっとの事で踏みとどまった真理子だった。友理奈が紙袋を持つと、ひとりでゆっくり席を立って廊下へ出てゆくのをじっと見守っているしかなかった。友理奈が向かった方角が、体育館のほうだったので、何事もなくそれを西尾に手渡して戻って来てくれることを祈るしかないのだった。

真理子

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