新任教師 調教の罠
五
半乾きになるのを待ってまだじとっとしているショーツとスカートを身に纏って真理子が自分のアパートに戻れたのはもう明け方近かった。ほんのちょっとだけ仮眠を採っただけで、もう出勤しなければならない時間が近づいていた。
何があるか分からないので、スカートは止めてスラックスにしようかと思いかけて、それでは男達に屈したことになるような気がしたので、教師らしいタイトスカートのスーツにすることにした。下着も真新しいものをおろして身につけた。
教室に入るのにはさすがに勇気が必要だった。
(決して弱みを見せたりしてはいけないのだわ。)
そう自分に言い聞かせるように気合いを掛けて、真理子は教室の中に踏み込んだ。教室内は一見、いつもと変わらないように見えた。
昨日の首謀者である西尾の席だけぽつんと空いていた。他の連中は皆、ストッキングを被って顔を隠していたので、誰が昨日居たのかは真理子には分からない。
教壇の前に立った真理子は生徒たちの顔を一通り見渡してから、一度大きく息を吸ってから話し始めた。
「ホームルームを始めます。まず出欠を取ります。あ、浅田さ・・・。」
真理子が出欠名簿の最初の名前を言おうとした瞬間、校内放送のスピーカから突然雑音が聞こえてきた。
ガー、ピー、ビビビビ、キーン。
何かのノイズのようなものがスピーカーから発せられていた。
(何? 何なの、これは・・・。)
真後ろのスピーカーを振り返って見上げる真理子に今度は雑音だけではないものが聞こえてきた。
ガー、ピー、「・・めて・・・」、ズズズズ、「・・おま・・・」、ドドーン、「・・がま・・」、ピー。
ノイズに混じって女性の悲鳴のようなものが断片的に聞こえるのだ。
(えっ? ま、まさか・・・)
断片的に聞こえる女性の声は何を言っているのか聞き取れないが、真理子にはそれが自分の声であることがすぐに分かった。
「みなさん、ちょっと静かにしててください。先生がちょっと見てきます。」
そう言い終わるまえに、真理子は放送室に向かって小走りになっていた。
真理子が放送室に走り込んだ時にはもう雑音は停まっていたようだった。放送室はもぬけの殻で、誰一人居ない。しかし放送機器の電源は入っているのはモニターランプが点燈していることからすぐに分かった。放送機器の端にあるカセットレコーダーの脱着口が開かれていたが、中にはカセットテープらしきものは既に持ち去られた風だった。
(誰がこんな事を・・・。)
真理子は嫌な予感がむらむらと沸き起こってくるのを感じていた。
「欠席は西尾君だけね。それじゃ、ホームルームはこれで終わりにします。」
「起立。・・・。礼っ。」
日直が声を挙げて、それに合わせて皆が礼をするのを見届けると真理子は教室を後にしたのだった。
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