新任教師 調教の罠
十六
「あ、・・・。」
教壇に居た真理子と、教室の後ろ側の壁際に居た男が声を挙げたのはほぼ同時だった。勿論お互いに声が聞こえた訳ではないのだが、目が合って口が開いたことでそれと知れたのだ。
(まさか、こんなところで・・・・。)
それはお互いが心の中で思ったことだ。
授業の終了を告げるチャイムが鳴る。と同時に真理子は教室を走り出た。男がそれを黙って見送る筈もなかった。
「真理子せんせーい。」
男が呼び掛ける大声は周りじゅうにも聞こえた筈だった。それを無視して走り去るのはいかにも不自然で、真理子は立ち止まらざるを得ない。男が小走りで近寄ってくるのを気配で感じる。
「いやあ、こんなところで出逢えるとは。まさか、息子の担任だったとは。いや、それ以上に本物の先生だったなんて。」
「あ、あの・・・。困ります。大きな声を出さないでください。」
男も周りを見回す。何だろうと振向いている他の保護者も何人か居るようだった。
「じゃあ、どっか二人きりになれるところでも行きましょうか。何なら校長室で話してもいいですよ。」
「え、何ですって。困ります。」
「でしょうね。やっぱり二人っきりがいいですよね。どっかないかなあ。」
「あなたとお話しするような事は何もありません。」
「そうですかねえ。ま、少なくともわたしの方にはありますけどね。あ、そうだ。屋上はどうです。職員室に行けば屋上に出られる鍵があるでしょ。先に行って待ってます。来なければ校長室の方へ伺いますんで。」
「し、失礼します。」
「待ってますよぉ、真理子先生。」
最初は無視しようかと思った真理子だった。しかし、何を言い触らされるか分からない。校長室へ行くというのも、あながち脅しではないかもしれないと思ったのだ。
屋上の鍵の場所は真理子もよく知っている。職員室の隅のキーボックスにあり、理科の授業で雲の観察の際に生徒等を誘導した時に使っていた。
真理子は何か探し物でもしている振りをして、屋上の鍵を周りに気づかれないように手の中に隠し取った。
「来てくれると思いましたよ。さ。」
男はそう言って手を差し出す。
「え?」
「鍵ですよ。持ってきたんでしょ。」
真理子が渋々鍵を渡すと、男は慣れた手付きで屋上への扉を開ける。真理子は誰かが通りがかって気づかれるのではないかと冷や冷やしている。屋上へあがる階段は途中で折れているので踊り場まで上がって来られなければ姿を見られる筈はないと判っていても、心配だった。男は屋上へ入る扉を開くと、顎で真理子に先に出るように促す。屋上へ出てしまえば、何をされるかわからない。それでも従わない訳にはゆかない真理子だった。屋上に出ると後ろで男が鍵を掛けている音が聞こえた。鍵は帰して貰えそうにもなかった。
真理子は縁には近づかないように気を付ける。地上に居る生徒に見られる訳にはゆかないからだ。屋上の中央付近に居れば、下からは見えない筈だと思った。
「本当に先生だったとはな。道理で演技が上手い筈だ。」
「ち、違うの。これには訳があるの。あんな事、しなくちゃならない事情があったの。」
「へえ、どんな事情かな。じっくり聞かせて貰いたいな。」
「そ、それは・・・。ちょっと言う訳にはゆかないんです。ど、どうか、見逃してください。」
「見逃す? それが他人に物を頼む格好か?」
「どうしろと・・・。ど、土下座でもしろって言うの?」
「ちゃんと判っているじゃないか。」
真理子は口惜しさに唇を噛みしめる。しかし、男の言うとおりにするしかなかった。真理子は腰を落とし、コンクリートの床に膝を突く。
男の方を向き直り、両手もコンクリートの床に付ける。
「この通りです。あの事はどうか黙って見逃してください。」
真理子はおでこまでも床に付けてお願いする。屈辱的な格好だった。その真理子の頭の上に男が足を乗せてきた。
「うっ・・・。」
「只っていう訳にはいかないな。なにせ、あのイメクラではかなりボったくられたからな。」
男が足をどけてくれたので、真理子は顔を上げて男の方を見上げる。
「お、お金ですか・・・?」
「生憎、俺様は金には困っていないんでね。」
「では、どうすればいいのでしょうか?」
「イメクラじゃあ、禁止事項ってのがあったよな。言ってみろよ。」
「え、・・・。ほ、本番と・・・、それからフェラチオもです。性器に触るのも禁止です。」
「そうだったなあ。あんなに金を取るくせに、全部お預けだものな。」
「それをさせろっていうのですか?」
「さすがに先生は頭の回転が速い。」
「それは困ります。」
「あれえ。今度は頭が悪くなっちゃったかな。断れると思ってるの?」
「ああ、赦してくださいっ。」
「甘いなっ。」
そう言うと男は今度は足を上げて真理子の肩の部分を蹴る。突然だったので、真理子はもんどりうって後ろへ倒れ込む。タイトスカートから裾の中が覗いてしまう。慌てて真理子はスカートの裾を抑えて脚をすぼめるが、しっかり見られてしまっていた。
「何か縛るものはないかな。」
男が辺りを見回すが、紐のようなものは何もない。
「そうだ。ストッキングを穿いているな。それを脱いで貰おうか。」
「い、嫌です。」
「さすがに自分からは脱げないか。じゃあ脱がしてやるよ。それっ。」
男は床に倒れ込んでいる真理子の上にのしかかって腕を捩じ上げる。
「痛っ。や、やめてっ・・・。」
男は捩じり上げた真理子の腕を逆手にして持ち上げるので、真理子は顔をコンクリートの床に付けるようにさせられてしまう。もう片方の手がスカートに伸びてきたが、真理子にはどうすることも出来ない。尻のほうからスカートを捲り上げると、ストッキングの端を掴む。つるっと剥くように太腿の途中までストッキングを降ろしてしまうと真理子の背中に後ろ向きに馬乗りになり、あっと言う間にストッキングを剥し取ってしまう。ストッキングを抜き取るときに脱がされたパンプスが横に転がっている。
「ようし。手、出しな。」
再び真理子のほうに向きなおると、捩じ上げていた腕を背中に廻し、もう片方の腕もそこに重ねる。
「ああ、縛らないで・・・。」
その真理子の願いも空しく、両手首は背中できつくストッキングで縛られてしまう。ストッキングの生地は横には破けやすいが、引っ張る方向にはとても丈夫なので、きつく巻かれてしまったストッキングは真理子がどうもがいても解けることがない。
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