失策4

妄想小説

恥辱秘書






第二十一章 美紀のしくじり


 四

 長谷部はすぐさま興信所を使って、沢村役を務めたらしい男、芳賀の古い友達の原洋次を尽きとめた。原が、かの秘密の倶楽部に時々は一人で来ているらしいことも突き止めていた。というよりは、芳賀が設定した沢村役の接待の時以外は、殆どは原という名前で一人で店で飲んでいるということまで尽きとめたのだった。

 「沢村さまですよね。」
 バーのカウンタの奥で一人飲んでいる原に、そっと後ろから音を立てないようにして近づいていった裕美だった。
 「あれっ、き、君は・・・。」
 「裕美です。今日はお一人ですよね。もし宜しかったら、私の奢りでいいので、個室で一緒にお呑みになりませんこと?裕美、どうしても沢村さまにお頼みしたいことがあるのです。」
 原は怪しがる風もなく、裕美の後に従うのだった。何やら頼みがあるというのに心当たりはなかったが、何か聞いてやれば代わりに俺にもしたいことをしてくれる筈だという魂胆はないではなかった。

 「それじゃあ、失礼するよ。」
 そう言って原が先に部屋へ入る。裕美が後から入って後ろ手に扉を施錠する。原が奥のソファに腰掛けようとすると、そこには先客が居たのだ。
 「あれっ、誰だ。お前は・・・。」
 「私はN社の購買部長をやっている沢村といいます。」
 「なに!何だって・・・。」
 慌てて立ち上がろうとする原の肩を後ろから抑えて座り直させる者がいた。
 「それから、こちらは、N署の刑事の鬼山氏。さらにこちらは長谷部さん。」
 「うっ・・・。」
 言葉を発することが出来ない原が居た。本物の沢村、長谷部を前にして刑事と証人である裕美に同席されてはどんな言い逃れも出来る筈はなかった。原はあっさり諦めて全てを白状することにしたのだった。

 原の証言から芳賀の事務所、邸宅の家宅捜索が許可された。専務の長谷部からの会社横領の疑い、裕美からの脅迫の訴えが共に出され、事件性ありということで受理されたのだった。

 捜索は、芳賀が長谷部の執務室へ呼び出されている間に行われていた。芳賀には、長谷部から直々に電話が掛っていた。
 「以前に私の秘書をやっていた内村裕美を見つけたんだ。やっていたことを白状させようと尋問しようとしているので君にも立ち会って貰いたいんだ。」
 そう言われると、不安ながらも行かない訳にはゆかなかった。裕美の口から何を喋られるか判らないからだ。
 芳賀が長谷部の執務室へ入ると部屋の真ん中に神妙に座る裕美の姿があった。その前に二つ椅子が用意されていて、尋問をするらしい長谷部と芳賀が座るようになっている。

 長谷部が、裕美に本当のことを話すんだと促すと、裕美は下を向いたまま訥々と喋り始めたのだ。
 裕美は最初の沢村相手の接待の後、酔い潰れて寝入っているところで恥ずかしい写真を撮られてしまったこと、その後、「情報屋」と名乗る男から脅されるようになったことを話し出す。
 横で聞いている芳賀は、自分の名前が出る筈はないと思いながらも、冷や冷やしながら聴いている。何度かの脅しで恥ずかしいことをさせられた後、長谷部相手に狂言を演じるようにメールで命令されたことを話す。恰も長谷部がセクハラを強要したかのように見えるよう誘導し、その後、長谷部の声はそのものを使い、裕美の分だけは別の台本の元に吹き替え直させられたことまで話が及んだ。
 「裕美。お前、そんなことまでして長谷部専務を落としいれようとしていたのか。」
 芳賀が威嚇するように声を荒げた。
 「申し訳ありません。すべては情報屋と名乗る男から脅されて仕方なかったのです。」
 「何でも、他人のせいにすれば済むなんて思うなよ。」
 この言葉にはうなだれた裕美は答えることもしない。
 その時、執務室の長谷部の席に電話が掛ってくる。席に戻って受話器を取った長谷部の耳に通話相手の刑事の声が聞こえてくる。
 「出ました。映像ビデオが二種類。確かに台詞が二種類違うものです。内村さんの証言が証明されました。」
 長谷部が深く頷く。
 その時、執務室の扉がノックされて、秘書の美紀が入ってきた。
 「お茶をお持ちしました。」
 「あ、美紀くん。ちょうど良かった。君にも話があったんだ。入ってくれ。」
 長谷部が美紀を招じ入れると、美紀は部屋の真ん中に裕美が座っているのに気づいて驚きの声を上げる。
 「な、何だってアンタがこんな場所に居るの?ここはアンタみたいなキャバ嬢が出入りするような場所じゃないのよ。判っているの?」
 目を吊り上げて怒鳴るように声を荒げた美紀を長谷部が制止する。
 「いいんだ、美紀くん。私が呼んだんだよ。さっき裕美くんが話していた情報屋なる男がいったい誰だったのか、はっきりさせる為にね。」
 「え、ま、まさか。」
 美紀と芳賀が目配せをする。しかし、その後、執務室へ数人の刑事に伴われてやってきた原の姿を見て、言葉を失った二人だった。刑事は芳賀の執務室から押収した2種類のテープも持参していた。そして、そのテープが2種類あることを証言していた大事な証人である裕美もその場に同席していたのだった。芳賀も美紀も観念するほかはないのだった。

 完

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