派遣通訳女子 屈辱の試練
二十二
「じゃ、最後までやれなかったって言うの?」
「最後までどころか、口の中にも入れられなかったんだからな。」
「でも部長があの時帰ってきてしまったのは不可抗力よ。私のせいじゃないわ。いいわよ。また今度、絶対リベンジさせてあげるから。」
「いや、いいよ。もうこりごりだよ。」
「何よ。お金、返せっていうつもり?」
「いや、そうじゃない。あの金は口止め料だ。もう金輪際、俺がお前の口車に乗って金払って女を犯そうとしたなんて言うんじゃないぞ。そうじゃないと俺が会社、首になっちまう。」
「何よ、それ。意外と臆病者なのね。人が折角いいチャンスをセッティングしてやったっていうのに。」
「危ない橋は渡れないってことさ。いいな、もう俺はお前とは全然関係ないんだからな。」
「ふん、いいわよ。他を誘うから。」
スーは大熊から前夜の経緯を聞いて、大熊を見限ることにしたのだった。
「おい、もう朝礼が始まる時間だぞ。俺は先に行くからな。」
そう言うと、スーを置いてひとりでどんどん朝礼を行う事務所の方へ歩いていってしまう。スーが追掛けて事務所に入ると既に皆が司会をする課長代行の磯貝の元に集まって立っていた。その列の最後尾にスーも並ぶ。
「今日は今度の開所式に合せて派遣グループの皆さんに来て貰う新しい制服を渡します。皆さん一人ひとりのサイズに合わせて仕立てられていますので、名前を確認して受け取ってください。尚、制服はAタイプのワンピースとBタイプの作業着に分かれています。それじゃ、まず三倉菜々子さん。はいっ、Aタイプ。それから倉持美姫子さん。はいっ、Aタイプ。石上智子さん。はいっ、Bタイプ。えーっとそれから・・・・」
次々に名前が呼ばれ制服が渡されていく。最後に呼ばれたのは中島スーでBタイプだった。
「え、私の、Aタイプだと思うんですけど。」
「えーっと、中島君でしょ。えーっと、うん、やっぱりBタイプだね。」
「何で、私がBタイプなの。冗談じゃないわ。こんな、工場の作業服みたいなの。」
「あ、それは全部、部長が決めてるから。」
「私もAタイプにしてよ。」
「そんな勝手言われても・・・。」
食ってかかるスーに、磯貝はたじろいで困り果てている。すると、後ろから設備資材担当の深川がなにやら手にして前に出てきた。
「これ、部長から預かったものなんですが。」
深川が皆の前に引き出したのは頑丈そうな1m四方ぐらいの板の上に高さ70cmぐらいの透明なアクリル板が垂直に立つように固定された器具のようなものだった。
「部長がこれを基準にして制服を決めているそうです。」
「へえ、これで。深川。どうやってこれで制服を決めるんだ。」
「はい、磯貝さん。ここにこうしてですね。裸足で乗って、上に跨って踵をぴたっと着けて立つことが出来るってひとをAタイプ対象に選んでるそうです。」
「ふーん。何だってまた・・・。」
「部長が言うには、今度この研修センターでは土足禁止の上履きになってヒールの高い靴は内部では禁止になってるんで、ヒールを履かなくても充分スタイルが保てるひとにAタイプを着て貰って、そこまでいかないそこそこの人にはBタイプってことらしいですよ。」
「何よ、それっ。短足は作業着で充分って言ってるの。」
「まあまあ、中島さん。あくまで部長が言ってる話ですから。」
「そうだ。ちょっと倉持さん。ここへ来て、これに乗ってみて。」
「え、私がですか?」
その日も密かに鬼木から命じられているタイトなミニスカートで来ている美姫子が上履きにしているバレエシューズを脱いで、爪先だちになってアクリル板を跨ぐ。スカートの裾はアクリル板の上で若干持ち上がってしまうが、下着が覗くまでにはならない。踵を降ろして床にぴったり着けても若干まだ余裕があるようだった。
「なるほどね。三倉君は背が高いから確かめるまでもないか。」
傍でひやひやしながら見ていた三倉菜々子はゆるゆるの長いスカートだったが、そんなスカートのままでアクリル板を跨がなくて済んでほっとしていた。
「何よ。そんなのぐらい私にだって跨げるわよ。」
中島スーが美姫子をどかしてアクリル板の前に立つ。スーはその日もぎりぎりまでしかない超ミニのタイトスカートだった。そのスカートのまま上履きを脱ぐと、アクリル板を跨ごうとする。
「ちょっと無理じゃないか?」
磯貝が怪訝な顔をして止めようとするがスーは聞かなかった。
「うっ。」
スーが精一杯爪先立ちになって背伸びをするが股が届かず前に進めない。向きになって引っ掛かっているスカートの裾を捲ると、ストッキングのシームも露わに白いショーツが覗いてしまう。それでも無理やり跨ごうとすると、ストッキングがアクリル板の角に引っ掛かってビリッという音と共に裂けてしまう。
「あ、しまった。きゃっ。」
そのことに慌てたスーがバランスを崩して後ろへひっくり返る。尻もちをついて床に転んだスーはミニスカートからパンツを丸見えにさせてしまう。後ろに居た男たちから微かな失笑が湧く。
「な、何よ。私が短足だからって、そんなに可笑しい?」
慌てて手で覗いてしまった下着を隠しているスーがなかなか立てないでいると、美姫子が手を差し出して助けようとする。しかしスーはその手を乱暴に振り払う。
「ちょっとぐらい脚が長いからって、上から目線で見ないでよ。部長には私から言ってAタイプの制服を用意して貰うから。」
何とか自力で立ち上がると、憤然とした形相でまだ終わっていない朝礼を無視して独り事務所を出て行くスーだった。
(もう絶対に許さないわ。特にあの倉持美姫子・・・。皆んなの前で日本人じゃないってばらしてやるわ。そして二度とここに来れないようにしてやる。)
事務室を出て弘済会の売店に替えのストッキングを買いに急ぐスーは、仕返しの決意を固くしているのだった。
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