女BATMAN夜の行進2

妄想小説

覗き妻が受ける罰



 第十七章


 次の朝、京子はなかなかベッドから出れずに居た。前夜、遅くまであちこち歩き回されたせいもあった。しかしそれは疲れというよりは、あまりの出来事に気が動転していたせいのほうが大きかった。京子自身、何が本当に起きたことで何が自分の妄想なのか判らなくなりかけていた。
 前夜、ホームレスの居る小屋の前に仕掛けられていた針金はあらかじめ自分に夜の行軍を命じた男が仕掛けておいたものに違いないと思った。ホームレスが小屋に戻る前に針金を柱の一つに結んでおいて、京子があそこを通り過ぎる直前にあの細い路地に針金を張っておいて、わざと足で引っ掛けさせたのに違いなかった。浮浪者が京子に襲い掛かることは想定の上で、京子に顔を見られないように外せない鍵付の頭巾を被らせ、貞操帯であるT字帯を穿かせた上であの場に向かわせたのは疑いようもなかった。あの浮浪者には顔を見られなかったのは不幸中の幸いだったが、声は憶えられているかもしれなかった。その浮浪者がまだ近くに潜んでいるのかもしれないと思うと、怖くて迂闊には外に出れない気もするのだった。

 いつまでも寝ている訳にはゆかないと思い、京子は起き上がることにする。昨夜、ベッドに入った時は身に着けさせられていた革のブラジャーやT字帯を脱ぎ棄てるように床に散らばしたままで全裸のまま毛布にくるまったのだった。
 ベッドサイドに畳んでおいてあるたった一枚だけ身に着けるのをゆるされているペーパーショーツとミニスカートを引き寄せる。そのショーツの裏側はすでに沁みが付き始めていた。とりあえず、沁みがこれ以上広がるのは防がねばと思い辺りを見回す。
 京子はパンティの裏側にティッシュを当てながら、昔使ったことのあるパンティライナーの事を思い出していた。
 (あれがまだあれば、使えるのに・・・)
 一時、使ってみたことがあったが、どうにも違和感があってすぐに使うのを止めたのだった。それ以来、パンティを汚してしまったらすぐに洗えばいいという考えるようになったのだ。しかし、そこまで考えてすぐにあることに気づいてしまった。
 (そうだわ。まだ生理用ナプキンは残っていたかしら・・・)
 内心、不安が募って来た。何せ、下着は夫の替えのブリーフまで含めて全て奪い取られてしまったのだ。それなのに、替えを買いに行こうにも現金も、銀行カードも無いのだ。生活は男から段ボールで送られてくる食料品で何とかなってはいるが、生活用品ひとつ、京子には買う手段がない。
 (もし生理用ナプキンが切れてしまったら・・・)
 募る不安を抑えながらトイレに入ると棚の上の籠をそっと引っ張り出してみる。京子が懼れていた通り、籠の中にはたった一個のスペアが残っているのみだった。
 (次は何時頃だったかしら。もうそろそろかもしれない。)
 夫との性交渉が途絶えがちになってきてから、京子自身も生理の時期には無頓着になっていて、下着を汚してしまう事もままあった。が、その時には汚れた下着は捨ててしまって新しいものをおろすようにしていた。しかし、今はそれもままならない事態なのだった。
 京子はすぐさま、家の中の日用品のストックを調べ始める。トイレットペーパー、ティッシュ、洗剤、歯磨きなどに始まって、醤油、油、砂糖、塩などの調味料まで調べつくす。すぐに生活に困るほどではないが、いずれストックは尽きるに違いなかった。
 京子は男が時々指示の為に送って来る携帯のメールに返信してみることにした。
 (お金を少しください。トイレットペーパーや歯磨きチューブなどを買い足さねばなりません。貴方が現金や銀行カードを奪ったのは知っています。このままでは生活できません。)
 そこまで打ってみて、男の反感を買って却って更なる窮地に陥る惧れを感じて、「貴方が現金や銀行カードを奪ったのは知っています」の部分は削除することにした。生理用ナプキンについてもわざと触れないようにした。自分の窮地を知られてしまうと、何か別の意地悪をされそうな予感があったからだ。
 京子は神にすがるような気持ちで送信のボタンを押したのだった。

 男からの返事は全くなかった。送信したアドレスは間違っていたのか無効になっているのではないかと何度も調べ直してみたが、送られてきたアドレスに間違いなく返信で送っているので、間違っているとは思われない。
 何時返事がくるかと、ずっと携帯の着信を気にしながら待っていた京子だったが、突然鳴り響いたのは携帯の着信音ではなく、玄関のドアチャイムだった。
 音に驚いてびくっとした京子だったが、玄関の音だと気づいて慌ててそちらに向かう。
 「んませ~ん。宅配ですぅ。」
 いつもの宅配業者の配達だった。配達人は二つの段ボールを抱えていた。身を屈めないように気を付けながら受取りのサインをすると、段ボールを受け取ってキッチンに戻る。
 一つ目の段ボールを開けてみると、中から出てきたのはトイレットペーパーなどの日用品だった。調べてみると、朝方男にメールした際に書いたものが全て入っていた。
 (あくまでも私に現金を持たせないつもりなのね。)
 京子は日用品の中に生理用ナプキンを入れておかなかったことを悔いた。しかし、男からナプキンを送られることも屈辱以外のなにものでもなかった。
 もうひとつの箱に入っていたのは山盛りのオレンジと一枚の紙袋だった。そして底のほうからは男からの指示と取れる一枚のワープロで打たれた紙切れが出てきた。
 (12時5分かっきりに公園と反対側の路地の南側の家の角に送ったオレンジを袋の中に入れて持ってゆくこと。袋は底が抜けているので下から抱えるようにして持っていくこと。いつもの夜の散歩の時のように、携帯にイアホンを繋いでいつでも出れるようにしておくこと。穿いて行くスカートは黒のタイトミニにすること。)
 それだけの指示だった。京子が時計をみると11時55分だった。慌ててクローゼットから男が指定してきた黒のタイトミニに穿き替える。段ボールの袋を調べると、確かに底の部分が破かれて穴が開いている。そこを手で抑えながらオレンジをひとつづつ中へ入れていく。
 (急がなくちゃ・・・。もうあまり時間がないわ。)
 オレンジを落とさないように袋の穴の部分を押さえて持上げると玄関を出る。指定された時刻まで1分ほどしかなかった。その時、携帯電話が着信する。すぐに受話ボタンを押す。
 「黄色い壁の家の角に立っていろ。角の向こう側から気づかれないようにしろ。こちらが行けと言ったら全速力で走って角を曲がる事。男にぶつかってオレンジを落としたら、必ず男のほうに膝を向けてオレンジを拾うんだ。急げっ。」
 京子には何を言われているのか意味が分からなかった。取りあえず電話は切らないまま、指示された角の家の手前まで行く。
 突然、携帯から指示が出た。
 「今だ。行けっ。」
 何か何だかわからないまま、その家の角を走って曲がる。気づいた時には男と正面衝突していた。持っていたオレンジは袋ごと地面に落ちて散らばってしまう。
 「あっ、ご、ご免なさい。急いでいたので気づかなくて。」
 男にぶつかった反動で尻もちを撞きそうになったのを辛うじて堪えたが、地面に転んでしまってはいた。
 「あ、こっちこそ。ぼおっとしていたので・・・。」
 男は例の作業服を着た工事現場の男だった。いつもどおり、昼休みになったところで公園のトイレへ用を足しに行く途中だったのに違いなかった。男の視線が自分の下半身に注がれていることに気づいて、慌てて横に向き直ろうとして電話の声の指示を思い出した。
 (必ず男のほうに膝を向けてオレンジを拾うんだ)
 その意味がその時やっと分かった京子だった。只でなくても短すぎる丈の黒のタイトミニはしゃがんでしまうと前からみられるとパンティが確実に覗けてしまう。そのパンチラ姿を男に見せたままオレンジを拾えという指示なのだった。

orange拾い

 「あ、袋が破けてしまったわ。どうしよう・・・。」
 男の視線には気づかない振りをしながら、まだ幾つかオレンジが残っている紙袋を拾い上げ、まわりに散らばってしまったオレンジをひとつずつ拾い集める。
 男は呆然と京子の痴態を眺めながら立ち尽くしていたが、すぐに自分も腰を落としてオレンジを拾うのを手伝い始めた。しかし、それは同時にスカートの奥をよりしっかり覗きこむ為でもあることは、京子も重々判っていた。それでも男のほうに膝頭を向け続けるしかないのだった。
 「ああ、袋が破れてしまって、それ以上は入りそうもないですね。」
 しゃがんだままオレンジを両手に幾つか抱えながら男の視線は京子が持つ破れた紙袋のすぐしたに覗く逆三角形のパンティをしっかり捉えていた。
 「家に戻って新しい袋と取り換えますわ。」
 「ああ、それじゃあ幾つかは僕が持ってあげましょう。僕が不注意だったせいもあるんだから。」
 そう言うと、男はゆっくりと幾つか両手にオレンジを抱えたまま立上る。京子も袋の底を抑えるようにしながら慎重に立上る。
 「どちらですか、お宅は?」
 「ほんとに済みません。すぐそこなので。ありがとうございます。」
 京子は先に立って歩いていく。男がすぐ後ろから付いてきているが、視線はミニスカートから露わに伸びる太腿に注がれているのを痛いように感じていた。
 家の前に出ると、どうしようか困ったがあまり長く思案している訳にもゆかなかった。破れた袋の底からオレンジが落ちないようにそおっと片手を外すと玄関のドアノブを握る。男も両手にオレンジを抱えたままなので、玄関の中へ招き入れるしかなかった。
 「ああ、この家だったんですね。ここって、公園のすぐ裏側にあたる家ですよね。」
 何気なくいった男のひと言に今更ながら自分の家の場所を知られてしまったことに気づく。
 京子は上り框からあがると床にオレンジを破れた袋ごと下し、男から残りのオレンジを受け取るべく両手を差し出す。
 「はい、これっ。お独りなんですか、ここ・・・?」
 「えっ・・・。あっ、主人と・・・」
 京子はわざと答えの後半をぼかした。
 (主人と二人で棲んでいたんですけど、夫は今単身赴任中で独り住まいなんです)そう言おうと思っていたのだと、京子は胸の中で自分に嘘を吐く。
 「ああ、そうですよね。じゃ、僕はこれで。」
 そう言ってぺこりと頭を下げて出ようとする男は、何か名残惜し気な雰囲気を醸していた。
 「どうもありがとうございました。」
 京子もぺこりと頭を下げてから玄関の戸を自分で閉める。玄関の扉に背中を持たせかけて、耳で男が去っていく足音を確認していた京子は、同時に心臓がばくばくと高鳴っているのにも気づいていた。
 それから床に置かれたオレンジはそのままにして居間に置いてある大きな姿見の前に立つ。膝を真っ直ぐ姿見に向けたまま、ゆっくりと腰を落としてさっきまで自分がしていた筈の格好を再現してみる。膝頭をぴったり合わせているが、スカートがあまりに短いので裾の奥にパンティが完全に丸見えになるのが判る。
 (完全に見られてしまった・・・。わざとやっていると思われたのじゃないかしら・・・。)
 若い男に下着を丸見えにさせられてしまったことに憤りを憶えながらも、男がどう思いながら自分の股間を覗いていたのか知りたい気もするのだった。

tbc


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