妄想小説
覗き妻が受ける罰
第十章
窓に差し込む外からの眩しい光に京子は深い眠りから目を醒ました。頭が二日酔いの朝のようにぐらぐらする。ベッドから起き上がろうとして、まだ昨夜のままの格好をしていたことに気づく。手首には所々に鋲を打たれた分厚い拘束具が嵌められたままだ。ふたつを繋ぐ特殊な金具は昨夜男に寄って外されていたが、嵌められたままだと自分から外す事は出来そうもないものだった。自分のさせられていた格好を確かめておこうとベッドから立ち上がると全身が映る姿見の前に立ってみる。胸には乳房の廻りを囲う二つの三角形に繋がれたベルトで囲まれていて、くり抜かれた革のブラジャーのようになっている。首にはこれも鋲を打たれた分厚い革のベルトが嵌められている。鉄製のリングが首輪の途中にあるのは、そこに鎖を繋がれていたのだと思われる。腰にも太いベルトが食い込むように嵌められていてお尻のところには股間に通されていたらしい付属のベルトがぶら下っている。そのベルトを臍の辺りで繋ぐ金具が腰のベルトの前部分についている。形としてはまさに貞操帯のようだった。試しに手首の拘束具を付けたまま後ろに手を回して拘束されていた時の格好を真似てみる。あの時は更に男物のブリーフまで膝まで下されたままの格好だった筈だ。
(ああ、こんな格好で何処かに吊るされていたのだなんて・・・)
京子は急いで手首のベルトの端を歯で咥えて外し取る。両手が繋がれてさえいなければ自分でも外すことが出来るようだった。革のブラジャーも背中部分で茄環のような金具で繋がれているだけで、普通のブラジャーを外す要領で取り外すことが出来た。腰のベルトは鍵穴のようなものが付いていたが、鍵は掛かっていないようで、バックル部分で外すことが出来る。拘束具を全部取り去って全裸になった自分を改めて姿見で眺めてみる。全裸になってみて、股間に恥毛が無いことが強調されてしまうことが分かる。異様な拘束具を嵌められていた時には忘れていたことだった。
男が送ってきた服の中で、なるべく普通に見えそうなジーンズ生地のミニスカートを選んで箪笥からそれに似合いそうな青いポロシャツを着ることにした。一度ポロシャツを着てしまってからブラジャーをしてないことに気づき、あらためてブラジャーを付けてからポロシャツを着直す。
ブラジャーをしなかったのはショーツを着けられないことを自覚していたからだと初めて気づいた。それで、ショーツは無い代わりに夫のブリーフがもう一枚だけあったことを思い出す。
夫の部屋に取りにいって、姿見の前でそれを下着として付けることにする。ミニスカートのまま膝を屈めてみる。中腰になっただけでミニスカートの奥に白い逆三角形が覗いてきてしまう。しかし男物のブリーフだとまでは一見しただけでは判らなそうだった。
ジーンズミニに着替えて階下に降りた京子は玄関先に昨夜穿いていたブリーフが脱ぎ捨てられているのを発見した。家に着いてからの事は気が動転していて殆ど憶えていない。家に着くなりブリーフを脱ぎ捨てたような気がしてきた。それは自分が洩らしたものでぐっしょりしていた筈だ。それが気持ち悪くて一番に脱ぎ取ったようだった。今も湿っている筈だと思ったが、たった二枚だけ残された下着であることも思い出して、濡れていなさそうな部分を摘まんで洗濯機まで持っていき、すぐにその一枚だけで洗濯機を廻し始める。
珈琲でも淹れようかと思ったが、コップに水を一杯だけ汲んでキッチンテーブルの前に座り、昨夜の事を思い出してみることにした。
男に何処かに吊られてバイブでイカされた後、洩らしてしまったのは小水だけでは無かった気がした。しかし、京子はその事はもう考えたくなかった。暫く放置されていたようにも思うが、何時の間にか京子の身体を吊っていたものが外されて、再び目隠しをされたまま鎖で曳かれて暫く歩かされたようだった。京子が連れてこられたのは、最初に拘束具を着けさせられた公園の樹の根元だったようだ。手錠で再度背中越しに樹に繋がれ、その状態で革の拘束具が外されたのだろう。手錠は掛かったままだったので、それで自由になった訳ではなかった。男が何かを頬に押し当ててきて、それが手錠の鍵らしいと気づくのにそんなに時間は掛からなかった。
男は何も語らなかったが、頬に押し当てていたものを離した直後にポトリという音がしたのを確かに聴いた。それで男が増したに鍵を落としていったのだと判った。ザク、ザクと男が公園の砂を踏みしめて去っていく音を聴いた直後に京子はしゃがみ込んで手錠の鍵を捜したのだった。
結局鍵はすぐには見つからず、やっとのことで不自由な後ろ手で探り当てた後も、手探りで手錠の鍵を外すのに随分時間が掛かってしまった。やっとのことで手錠が外れて目のアイマスクを取った時には男の姿は何処にも見当たらなかったのだ。
それですぐさま傍に落ちていた黒いミニのワンピースだけ拾って家へ走って帰ったのだろうと思う。その頃はもう一心不乱で何も考えていなかったので、どうやって家まで帰ったかもはっきりとしない。家の鍵は隠しておいた植込みの奥から拾い上げて家に入ったのだと思うが、京子の記憶からは消えていた。シャワーを浴びる気力もなく、ベッドに倒れ込んだような気がするが、それさえももう憶えていなかった。
珈琲を淹れて朝食のトーストと共に呑み終えた京子は、少し落ち着いてきたので、外に出て昨夜の自分達の足取りを追ってみることにした。買い物もしたいが、使える現金もクレジットカードも銀行カードも奪われてしまっている。取りあえず食べるものには困らないようだが、買わないと困る生活用品も無くはない。その事は後で考えることにして、取り敢えず今は昨夜の事を確認しておこうと思ったのだった。
公園の前に立った京子は自分が繋がれた樹をまずチェックする。この樹に繋がれるまでは視界は奪われていなかったので、確かにこの樹であることは間違いない。明るい中でみると、こんなにも見通しのきく場所であったのかと愕然とせざるを得ない。尤も夜目にはどれだけ見通しが利くものなのかは、何とも言えない。そこから見える男子トイレも気になる。今はまだひと気がないとは言え、明るい昼間に男子トイレに忍び込む訳にはいかない。外から見る限りは何の変化もない何時もの公衆トイレのようだ。忍び込んだところで何の痕跡も見つからないように思えた。
それから京子が恥ずかしい格好で首輪の鎖で曳かれて歩かされたらしい道を辿ってみることにする。公園の前にはすぐ傍を流れる川沿いに南北に遊歩道のような細い道が通っているが、南へ迎えば中学校などがあり、人家も幾つかある。逆に北へ向かえば、公園傍よりどんどん人家が少なくなり淋しい場所だ。
(おそらくこっちへ向かったのだろう。)
そう思って、北側へ向かう小路を辿ってみることにした。暫く歩いていくと、大きな樹が枝を広げているのが京子の視界に入ってくる。相当大きな樹で20mは軽くありそうだった。近づいていって、上方の枝の何処かから縄が下されているのに気づいた。ブランコでも作ろうとしたのかとも思われるが、誰が何の為に高い所から縄を掛けているのかは判らない。縄の端は根元近くの幹にしっかり結わえつけられていた。
(此処だわ。そしてこの縄に繋がれたのだろう。)
京子は縄が通されているらしい枝の先を見上げて、その直下らしき場所を推測する。小さな小路の端辺りに相当しそうだが、地面はすっかり乾いていて、何の痕跡も残っていなかった。
(こんな場所にあんな恥ずかしい格好で吊るされていたのだろうか・・・。)
その日の朝、姿見の前で確認した自分の格好を思い返してみて、顔から火を吹きそうなほどの恥ずかしさを改めて京子は感じるのだった。
前夜に受けた辱めを思い出して、うなだれながら家のほうへ戻ってゆく京子は、自分の行く手の方から人影が近づいてくるのに気づいた。どこかで観たようなシルエットだと思いながら次第に近づいていくにつれ、京子ははっとなる。
(あの男だわ・・・。)
いつもの作業服に鉢巻のように頭に巻いたタオル。京子が懲らしめを受けるきっかけとなったあの男なのだった。京子は咄嗟に逃れる場所を探すが、葦ばかりが生えた川沿いの一本道には逃れる場所などなかった。京子は知らぬ振りをして擦違うしかないと思った。つい男の股間に目が行ってしまうが、すぐに(いけない)と自分を制してわざと地面しか見ないようにする。
「あ、あの・・・・。」
擦違う前に男の方から声を掛けられてしまった。もう無視する訳にはいかなかった。
「えっ? 何でしょうか。」
「あの、この前擦違った時、俺の事じっと見つめてたでしょう?」
「あ、いえ・・・。違うんです。あの、郷里の従兄弟にとてもよく似ている気がしたものですから。」
京子は咄嗟に嘘を吐いた。
「へ~え。そうなんだ。この近くに棲んでるんですよね、奥さん。」
「ええ、でも・・・どうして?」
京子は何時までも下を向いている訳にもゆかず、顔を上げて男の顔を観る。近くで観ると案外童顔だった。
「時々見掛けるから。ミニスカート、とっても似合ってますね。脚が綺麗だから。」
京子は男の何気ない言葉にどきっとする。
(時々見掛ける・・・? 私のこと、何度も観ているのだ。脚が綺麗だから・・・? やはり男はミニスカートから剥き出しの脚に注目しているのだ。)
「ごめんなさい。わたし・・・。あの、失礼します。」
そう言うと、ちょっと足早になりながら男の横を擦り抜ける。男がじっと振向いて立ち去っていく自分を観ている気がした。(振向いてはいけない)そう自分に言い聞かせながら家のほうへどんどん歩いていくしかない京子だった。
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