妄想小説
覗き妻が受ける罰
第十二章
男の指示は前回と同じだった。違うのは今度は身に着けるものを男子トイレの掃除用具室に取りにいく必要が無かったことぐらいだろう。携帯のヘッドセットから聞こえてくる指示通りに街燈から一番遠い側の樹の下に立ってアイマスクを自分で着けてから自分で両手を後ろ手に樹に繋ぐ。もうこれで何をされても何の抵抗も出来ない格好に自分からなったのを今更ながらに悟ったのだった。
男の足音が近づいて来るのにさほど時間は掛からなかった。京子の目の前までやってきたらしいところで男の足音が止まった。自分の格好を検分しているらしかった。やがて男の手が両側の腰骨の辺りを捉えたかと思うや、ただでさえ股間ぎりぎりまでしかないベアトップのワンピースの裾が上へ捲り上げられるのを感じ取った。そして次には穿いていたブリーフが膝まで下げられてしまう。京子はT字帯だけで剥き出しにされた下半身を想像する。そのT字帯を男の手が掴んだような感触があった。股間の辺りに何か違和感を感じる。が、何をされたのかは京子には把握出来ない。T字帯が少しずっしりと重くなったように感じたのだ。何がなんだかわからないまま、ベアトップのワンピースが剥ぎ取られ、ハイヒールを履いた脚を片方ずつ抜かれて脱がされてしまう。ベアトップのワンピースは両手の自由を奪ったままで脱がせる為のものだとその時気づいたのだった。
首輪が引かれ、鎖が取り付けられたのが音で判った。更には樹の向こう側で手錠が外される。男は手錠のスペアキーを持っているようだった。両手が自由になったのはつかの間で、すぐに手枷同士が小さな茄環のようなもので繋がれてしまう。両手を後ろ手で繋がれてしまうと自分では外す事が出来ないものであることは今朝実感していた。
前夜と同じ様に目隠しをされ、首輪を鎖で曳かれた格好で夜の散歩が始まる。ザクザクという公園の砂を踏みしめる音がしなくなり、カツ、カツというアスファルトを歩いていくハイヒールの足音に変る。
京子は出来る限り方向感覚を失わないように自分が今、どちらの方向に歩かされているのかを思い描きながら曳かれて歩いていく。今朝方確かめた川に沿ってひと気の無い方向へ細い路地を歩かされているようだった。昨夜自分が吊るされたらしい大樹の下は既に通り過ぎている筈だった。その先に何があったか京子は懸命に思い出そうとするが、自分ではあまりその辺りは散策したことがなかった。
カツカツというアスファルトを歩いているらしい音が途中からすこし甲高い音に変ったのに京子は気づいた。何かもう少し硬いものの上を歩かされているらしかった。首に繋がれた鎖の張力が一旦緩まって一瞬何処かに立止ったようだった。が、すぐにまた曳かれ始める。その時、何かが京子の肩に触れた。一瞬の事で何に触れたのかは視界を奪われた京子には判らない。やがて鎖の端が何かに繋がれた様子で、少し下向きに引っ張られる格好で固定されたようだった。どんな格好にさせられたのか確かめようと一歩前へ踏み出した京子の剥き出しの腿に何か冷たいものが触れた。暫く前に感じた感触だと京子はすぐに思いつく。
(男性用の便器・・・?)
京子は一晩、公園の男子トイレの男性用便器に手錠で繋がれた夜の事を思い出していた。そんな事を思っているうちに、いきなり何かが京子の唇に押し当てられる。避けようとするのを男の手が京子の頭を髪を掴んで抑えつけ、押し当てたものを唇の中に押し込んでくる。
「う、うぐっ・・・。」
それは感触からペットボトルの呑み口だとすぐに気付いた。男はペットボトルを逆さにして京子の口に中身を注ぎ込んでいるらしく、どんどん液体が口いっぱいに広がる。呑み込むしかなかった。スポーツ飲料のようなほんのりと甘い味があるような気がするだけで何を呑まされているのかが判らないだけに不安だった。200ml以上は呑まされたところで漸くペットボトルは空になったようだった。飲まされ続けていて息苦しく、はあはあ言いながら息を整えていると急に京子の目からアイマスクが首まで下された。灯りはなく、辺りは真っ暗なので何処に自分が連れ込まれたのかすぐには判らない。目が暗闇に馴れてくる前に男が立ち去る足音が聞こえ、そちらの方角に向き直ろうとするとカチンという音がして辺りが明るくなる。その眩しさにすぐには様子が見えなかったのだが、男が出てゆく扉の外から手だけが見えて電灯のスイッチを点けたのだということは辛うじて観て取ることが出来たのだった。
次第に目が明るさに馴れてきて、京子は自分が連れ込まれたのが男性用トイレの中だというのに気づいた。家の前の公園のトイレより遥かに広い。京子の首輪に繋がれた鎖は男性小便器の上の水道管に留められていた。小さな錠前で固定されていて京子には外すことが出来なさそうだった。それより驚いたのは京子のすぐ脇にある手洗い用の洗面台の上にある鏡に映った自分の姿だった。想像していた自分の姿とはっきり異なっていたのは、下半身のT字帯の前部分に男のペニスを模ったような突起物が取り付けられていることだった。銀色に光るその物体は形はペニスそのものだった。京子は自分が歩かされていた間にしていた格好を思い知らされて愕然としたのだった。
(こんな格好で歩かされていたなんて・・・)
もし誰かに目撃されていたらと考えると、こめかみから冷や汗が落ちてくる気がした。しかし、この格好で居るところに誰かが来てしまったらと思いついて、その思いは恐怖に変った。便器の水道管から首までの鎖は50cm程しかない。ハイヒールを履いた京子だと尻を突き出すようにして若干前屈みになっていないと立っても居られない。京子が動ける範囲は隣の便器の前に立つことも儘ならないほど狭い範囲でしかなかった。誰かが入ってきたとして、股間のペニスを隠すことも出来なそうだった。革の拘束具だけを身に纏って両手を後ろ手に繋がれ、男性用便器に鎖で繋がれた女。その女は股間にペニスのようなものを生やしているのだ。しかも膝には明らかに男性用のものと判るブリーフを中途半端に下している。変態を遥かに通り越えて常軌を逸している姿なのだった。
(い、嫌っ。こんな格好、誰にも見られたくないっ・・・。)
しかし、京子には自分でその場から逃れる何の手段もないのだった。
その時、京子は更に次の窮地に立たされることになることに気づいた。尿意がじわじわと襲ってきたのだ。さっき無理やり呑まされたペットボトルの水に違いなかった。いや、前に男性用便器に一晩中手錠で繋がれた時の事を思い出すと、ただの水ではない筈だと気づく。
(多分、利尿剤が仕込んであるのだ。あの時と同じで・・・。)
京子は目の前に男性用便器があることを知っている。しかし、脚を広げてその便器に股間を押し付けたところで、革の丁字帯が便器の中に放尿することを阻んでしまう事に気づく。
(ど、どうしよう・・・。)
京子は何とかして丁字帯を嵌めたまま垂れ流すのを避ける術がないか思案する。しかし、どうやってもそれから逃れる手立ては見つけられないのだった。そうこうする間にもどんどん尿意は募っていく。
(だ、誰か助けて・・・。)
そう叫ぼうとして、思わず言葉を呑み込んで堪える。もし誰かが京子の助けを聞いたとしたら、この無様な姿を見られるだけなのだ。手錠の、そして丁字帯の鍵を持っていない限り、誰かが助けに来たとしても、恥ずかしい姿を見られるだけで京子の窮地を救う手立てはないのだ。
「ああ、もう駄目。これ以上は無理・・・。」
京子が観念しかけた時、トイレの入り口のドアがガチャっと音を立てた。
(あの男が来てくれたんだわ。ああ、早く外してっ。)
京子は男が手錠を外してくれるか、そうでなくてもせめて丁字帯だけでも外してくれたら、何とか洩らさずにもう少し我慢出来そうか考えてみる。しかし余裕はそれほどはない。
「は、早くっ。もう、洩れそうなのっ。」
京子はドアのほうに向かって叫んでいた。しかし、男が入ってくる気配はなかった。代わりにドアが薄めに開かれて何やらトイレの内側に突き出されたものがあった。何とそれは三脚に据えられたビデオカメラなのだった。しかも赤いLEDが点灯していて既に録画スイッチが入れられていることが京子の目にも明白だった。
「い、嫌っ。こんなところ、撮らないでっ。」
しかし三脚上のビデオカメラは微かなブーンという音を立てながら京子の窮地をしっかり捉えている様子だった。
「ああ、もう駄目・・・。」
そう言う間もなく、股間を締め付ける丁字帯の脇から小水がぽたぽた落ち始めた。
「ああ、惨めだわ・・・。」
京子は首をうなだれて目を瞑り、股間の力を緩める。小水はどんどん激しく迸り出て、丁字帯の両脇から内腿を伝って流れていくのだった。膝上まで下されたままだったブリーフもすっかり小水を吸って重たくなっていくのだった。
京子がもう出しきったと思った後も、丁字帯と膝上のブリーフからはぽたぽたと滴が落ちてなかなか終わらなかった。ふと、ドア近くの三脚に据えられたビデオカメラの事を思い出し、そちらのほうを振り返ると、薄めに開かれたドアの隙間から男の手が突然現れて三脚ごとドアの外へ運び出すのが見えた。
「もういいでしょ。お願いだから手枷と鎖を外してっ。」
ドアの外に向かってそう叫んだ京子だった。しかし、代わりに今度は男の手だけがデジカメを握って現れる。
「な、何っ・・・?」
京子が訝しく思っている間もなく、そのデジカメが閃光を放った。
カシャッ。
突然の眩しい光に京子は一瞬目が眩んでしまう。と同時に伸ばされた男の手でドア横のトイレの電灯のスイッチが落され、真っ暗になってしまう。ストロボの光をまともに見てしまったこともあって、京子は完全に目が眩んだ状態だった。男が傍に歩いてくる気配だけを感じていた。その次の瞬間に京子は頭に布で出来た袋をすっぽりと被されたのを感じた。袋の縁には紐が付いているらしく、男がそれを引き絞って縛ってしまうと、京子には首をどう振ってみても、もう外す事が出来ない。
ガチャガチャ音がしていて、男が首から便器の水道管に繋いでいた鎖の錠を外しているらしいことを気配で感じる。続いて男の手が京子の下半身の丁字帯を捉えたのを感じ取った。
カチリという音と共に、下半身の締め付けがすっと緩むのを感じた。京子は男が丁字帯の股の部分を鍵で外したらしいことに気づく。外された股部分のベルトは尻のほうでぶら下っているらしく、ベルトの背部に重みを感じている。
(やっと開放されるのだろうか・・・。)
そう思った次の瞬間、股間に何かが通されるのを感じたと思ったら、今度は陰唇に何かが無理やり侵入してきた。つるんとした冷たい感触だった。金属製の何かで、表面に何かが塗られているらしく、潤っていない筈の陰唇の中にするりと滑るように挿入されてしまう。
「あ、嫌っ・・・。」
金属製の何かが京子の股間に埋め込まれたのと同時に、再び下半身が締め付けられ、カチリという音と共に再び丁字帯が嵌められてしまったことに気づく。しかも今度はその丁字帯の内側には、陰唇に埋め込まれた金属製の張り型のようなものが取り付けられているらしかった。そして男の手で新たに手錠が嵌められ、その代りに手枷を留めていたロックが外されたようだった。
男が京子の背後に廻って後ろ手に拘束されている指に何かを押し当てようとするのを感じた。
「な、何っ?」
男の意図が判らず、それでも押し当てられたものを掴もうとするが、取り落としてしまったらしく、チャリンという音が足下でするのを聞いた気がした。
今度は男の手が京子の首元に伸びてきて、首からすっぽり被せられた布袋を引っ張っていたかと思うと、突然手が外れたようで男が身を離したのが判った。と思う間もなく、カツカツという男が去っていくらしい足音を耳にしたのだった。
暫く茫然と突っ立っていた京子だったが、顔を覆っている布袋を再び頭を振って取り除こうとすると、今度は袋が少し外れそうになったことに気づいた。男が去り際に袋の紐を緩めてくれていたようだった。手が使えないので必死で頭を振る。便器に繋がれていた鎖が解かれていたので、さっきより大きく首が動かせるようになった。上半身を大きく前に倒しながら首を縦に振ると、被せられていた布袋がするりと頭から抜けた。未だトイレの中は灯りが消されたままなので暗闇の中だったが、外から洩れてくる光のせいで、うっすらと見える。背中で壁を伝ってドア近くまで行って手探りで電灯のスイッチを入れる。
明かりが点くと、京子が先程まで繋がれていた男性用便器の前に水たまりが出来ている。自分が洩らしたものだと分かっているだけに、近寄りたくはないのだが、さっき取り落としたものが気になっていた。水たまりの中にきらっと光るものがある。それが丁字帯の鍵らしいことはすぐに気付いた。自分の股間を見ると相変わらず金属製のペニスを模ったものが丁字帯から生えている。しかもちょうどその裏側辺りに別の張り型が着けられて京子の陰唇にも挿入されているらしかった。その張り型のせいで、歩くのにどうしても少しがに股にならざるを得ない。京子は小水の水たまりに近づくと、拘束された後ろ手で手探りで鍵を拾い上げる。生温かいぬるっとした小水の感触が耐え難かったが、その中から鍵を拾わない訳にはゆかないのだと分かっていた。
もう一度自分が嵌められた丁字帯の股間に通されたベルトが腰のベルトに繋がれている臍の辺りを調べる。腰のベルトと股のベルトの繋ぎ目にバックルがあって鍵孔が付いているのが判る。両手を手錠で後ろ手に拘束されているので、自分で外すことが出来ない。家まで帰れば手錠の鍵がある。丁字帯の鍵を落とさないように後ろ手のまま持って、その恥ずかしい格好のまま手錠の鍵のある家まで戻らなければならない事を悟るのだった。
次へ 先頭へ