19トイレ掃除

妄想小説

謎の中国女 李



 五

 あの日は、戒めを解かれた後、ひとり残されて便所掃除まで命じられたのだった。男子トイレの床には、あちこち女の溢したのと受け止めきれなかった影山のゆばりが飛び散っていたのだ。影山が悠々と出ていった後、女はすぐに洗面台へ行って何度も口を漱いだが、口の中の汚物感はどうしても拭えなかった。泣きながら床を雑巾で拭った後、漸く会議室に戻ったのだったが、影山の姿は既になかった。テーブルに残されていたのは、次にやってくることを命じた、日時が記されたメモのみだったのだ。


 あの日の仕打ちは、李に決定的なダメージを与えた。影山に対しての絶対的な服従はおろか、畏怖心まで抱くようになっていた。それまでは身体を与えてされるがままになる事で何とか何時かはデジカメと誓約書を返して貰って、後は無かったことに出来るだろうと甘く考えていた。しかし最早完全に深みに嵌まってしまっていた。目の前で立ち小便をさせられ、そればかりか便器の代わりになって、小水までを口の中に受け入れさせられたのだった。二度とあんなことはされたくなかった。その為にはそれ以外のどんな命令にも従う覚悟が出来ていた。フェラチオもおぞましいと思っていたが、あの日の仕打ちに比べたらよっぽどましなことに思えた。口に咥えて奉仕することできつく勃起させ射精までさせることは出来ていたが、どちらかと言えば一連の性行為で絶頂まで行ってしまったのは自分のほうだった。何とか自分の奉仕で影山をいかすことが出来なければ、許しては貰えないだろうと思っていた。そうでなければ、影山は次から次へと変態行為を自分に強いてくるに違いないと思った。しかし、経験の少ない自分には難しいことだと李は考えた。
 思いついたのはアダルトビデオなどを観て、研究し練習を重ねることだった。しかし、そうは言っても近くのレンタルショップで借りてくるという訳にはゆかない。レンタルする為には身分証明などが必要で、身元を知られてしまうからだ。李は仕事の関係でネット検索を使って調べ物をしている際に、偶然見つけたアダルトサイトのバナーからそういうものを扱っている店を検索で探し出すことを思いつき、とうとう秋葉原にはそういういかがわしい物を販売する店があり、女性客も幾ばくかは含まれているということまで突き止め、そこを訪れてみることにしたのだった。

 その店は秋葉原のメインの通りから一本路地を入ったところにあった。濃い目のサングラスをして、目立たないレインコートに身を包み、そのいかがわしい店に滑り込むように入った李だった。エロチックビデオの類はすぐに見つかった。フェラチオ系を数本、緊縛物を数本選んだ。主眼はフェラチオでイカセル練習をする為の参考だったが、最初の時から影山に縛られたことから、影山の嗜好を知るのの参考になるかもしれないと思ったのだ。ビデオを手にした後、参考の為に店内を一応ぐるっと廻ってみて、使えるかもしれないとラブゼリーなるローションも購入することにした。一番最後に何度かちらっ、ちらっと眺めながら素通りしていたバイブのコーナーから太めで大きそうな一本をさっとひったくるようにして籠に突っ込むとレジに向った。
 会員証を作れば二割引になりますよというレジの男の誘いを丁重に断って、逃げるようにして出てきた李だった。
 その夜から、李の独学での特訓学習が始まった。フェラチオシーンのビデオを観ながらバイブを口にして実際やってみるのだ。シリコンゴムの感触がよくなくて、いちどラブゼリーを塗ってみたが、滑りはよくなるものの、口に含むのは憚られた。それで少し考えて卵白に牛乳を混ぜて自前の潤滑液を作って塗ることにしたのだった。男の物の棹の根元部分を指を輪にするようにして優しく掴み、口を上下にゆすってしごくこと、カリと呼ばれる男根の裏側を舐め上げること、ペニスを口で咥えながら手では陰嚢をしごいて刺激することなどをビデオで覚えたのだった。
 緊縛物では、自由を奪われて男にまさぐられる時の切ないような喘ぎ声を真似て練習してみるようにした。真似ているだけで自分が戒めを受けて嬲られているかのような錯覚に陥り、つい下半身の中心に手を伸ばしてしまい、最後にはどうしてもバイブを自分から使わないでは居られなくなってしまう。男をいかせる練習がいつのまにか自分の性の愉悦の為になってしまうのだった。


 「東都アイピーの李てす。お約束の面会にやてまひりました。」
 いつもの建屋の入るとすぐのところに置いてある内線電話機で影山を呼び出すと、影山本人がすぐに出て、いつもの部屋へ自分で上がってくるように命じられた。この日も女は影山に着用するよう命じられている超ミニのタイトスカートを着てきている。その下はクロッチ部が一重の頼りないショーツのみだ。ブラウスの下もこの前と同じブラジャー代わりの革ベルトで出来た拘束具を嵌めさせられている。
 部屋へ入ると既に影山は居て、奥に座っていた。李はこの日は最初から決意をしていた。何としてでも、練習してきたテクニックで、影山を絶頂までイカせ、証拠になるカメラなどを返して貰うつもりできたのだった。手を縛られると、口だけの奉仕で十分にはいかせられないと思っていた。自分から一気に飛び込むしかないと思っていた。
 肘掛付の回転椅子に座った影山の前に進み出ると、いきなり片膝をついてしゃがみこんで傅き、わざとずり上がった裾から下着を覗かせながら影山のズボンのチャックに手を伸ばした。しかし李の手が影山のズボンに届く前に、影山が後ろのテーブルから何やら引っ張りだし、伸ばした女の手にそれが突き出された。それは薄いビニール袋に入った衣服だった。それは色からしてすぐに何であるか思い当たった。特徴あるその薄緑色はこの会社の女子社員の制服に間違いなかった。
 「それを身に着けろ。」
 影山はすぐに命令する。制服を押し付けられた女はそれを手に一歩下がるようにして立ち上がる。
 「これを・・・、今、すぐ・・・、ここでてすか。」
 言ってみて、すぐに更衣室などへ案内される筈がないと気づく。入ってきた入り口のドアを振り返ってみる。鍵が掛かっている訳ではないので、誰か入って来てしまわないと限らない。しかし、女は影山が不機嫌になるのが怖くてすぐに命令に従うことにする。袋を開けてみて、制服がスカートとベストであるのを確認する。そのスカートも今穿かされているのと同じく、おそろしいぐらい短いものだった。女はまず腰のスカートのホックを外し、足元まで引き下ろすとハイヒールを履いたままさっと足を抜き取る。下半身がブラウスから少しだけ覗いてみえるショーツだけになるのが、自分でも不思議なほど恥ずかしくなかった。その後に起こるであろうプレイを考えると下着一枚の下半身で居ることなど最早恥ずかしいうちには入らないのだった。すぐに制服のほうのスカートに足を入れ、引き上げる。相当タイトになっていて、女の腰のサイズぴったりに仕立て直されているようだった。以前に見かけたこの会社の女性の普通の仕立て方とは明らかに違っている。ミニ丈も明らかに普通のものより短くされていた。スカートのチャックを何とか引き上げると、今度は上着を脱ぐ。シルキーな薄手のブラウスだけになると、下に着けさせられている革の拘束具が透けて見えてしまうのだが、目の前の男は既にその格好を知っていて恥ずかしいとは感じなかった。スカートと同色のベストを身に纏うと拘束具はなんとか隠せるようだった。ベストのボタンを留めてしまうと、目の前の男にこれでよろしいかしらと言わんばかりに両手を横に広げて着てみた格好を披露してみる。
 「ぴったり合っているようだな。じゃ、今度はこれを着けろ。」
 男が手渡したのは、以前にも着けさせられたアイマスクだった。目隠しをさせられることにも最早躊躇はなかった。受け取るとさっと頭の上から首まで通し、その上で目の部分に持ち上げる。
 (次はいよいよ縛られるのね。今回は手を使ってフェラチオさせてくださいとお願いしようかしら。)
 しかし、自分からフェラチオという言葉を口にするのはさすがに躊躇われた。
 女が言い出しかねているうちに、首の周りに何やら冷たい感触が走る。金属製の何かが首に巻かれたようだった。パチンという音がしてそれが固定されたようだった。目隠しされていて、何をされているのかはわからない。女は不安でいると、ブラウスの胸元を引っ張られ、裸の肌の上にまた冷たい感触が走った。鎖のようなものを垂らされているらしかった。何だろうと思っていると今度は手首をつかまれる。再びパチンという音がして手首に何やら嵌められた。次にもう片方の手首もつかまれ同じようにパチンと何かを嵌められたようだった。その二つの輪は鎖のようなもので繋がっているらしく両手を離していることが出来なくなった。しかし、感触は手錠ではないようだった。男の手は今度は女の胸元をまさぐり始める。しかし、それは乳房をまさぐるのではなく、先ほど首の方から垂らした鎖を探っているようだった。やがてその鎖が探り当てられ、両手首を拘束しているものに繋ぎ留められたらしかった。女は両手を繋がれ、さらにその手首を首から垂らした鎖に留められることで、両手を胸元から動かすことが出来なくなってしまった。
 その後、今度は短いスカートから露わになっている太腿の後ろ側に何かが貼られるのを感じた。粘着テープの小片のようで、絆創膏のようだった。両方の同じような位置にそれらが貼られると、目を覆っていたアイマスクが急に剥ぎ取られた。明るさに目が慣れてきて、女は漸く自分の両手を拘束しているものが何なのかを見ることが出来た。手首に嵌められているのは一見して金色のブレスレットのようだった。それに細い金色のチェーンが繋がっているようだ。自分では見ることが出来ないが、首に巻かれているのも同じようなアクセサリー風のもののようだった。それらは見るとアクセサリー風だが、機能的には明らかに拘束具なのだった。首輪と手枷を繋ぐチェーンはブラウスの下を通されているので、外から見ただけでは拘束されているように見えないようだった。
 女はいきなり何やら書類を挟み込んだバインダーを手渡される。それを胸元で抱えるように持つと、両手首を胸元で固定されているのが不自然には見えなくなるのだった。
 「じゃあ、行くぞ。」
 影山は女が何も了解せずにぽかんとしているのも構わず、ドアを開けると先に立って階段の方へ向かうのだった。
 「あ、待てくたさい。」
 女は慌てて後を追うのだった。

20書類届け

 影山の後を追うようにして李が向かったのは、いつも李が訪れている建屋のずっと手前のほうにある大きなビルだった。その様子は本館と呼ばれるのにふさわしいような造りの建物だ。その裏側らしい通用門から中に入ると、すぐのところのエレベータホールから上へ上がるエレベータに促された。影山が押したボタンは最上階を示していた。
 エレベータが開くとふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下が見える。出て右奥の突き当たりにガラス張りの部屋があった。女性事務員が一人だけ机に向かっているのが見えた。他には誰の姿も見えず、しいんと静まり返っている。影山は顎でエレベータホールの脇にある革張りのベンチを差して、待っているようにと合図する。男がガラス張りの向こうに居る女性のほうへ向かうのを見て、李は仕方なくベンチで座って待つことにする。座るとそれでなくても短いスカートがずり上がって下着が覗いてしまいそうになる。両手は胸元から下ろすことが出来ないので、足を組んで何とか下着が覗くのを隠そうとして(痛っ)と思わず叫びそうになる。何かがチクリと女の太腿を刺したのだ。足を元に戻して見ると太腿の裏側に画鋲が小さな絆創膏で貼り付けられているのが判った。女に脚を組むことを封じるものらしかった。仕方なく両膝をぴったりくっつけるようにして座って頭を傾けて裾奥を自分で確認してみる。裾の奥にばっちりと白いショーツが逆三角形に丸出しになってしまっている。
 (どうしよう)と思った時に、女は影山に呼ばれてしまったのだった。飛びあがるように立ち上がると、影山のもとへ走り寄る。ガラス張りの向こうに居た女性が先に立って案内しようとしていた。出てきたら李が思っていたより若そうで、同じくらいかもしれないと李は感じた。飛びっきりの美人というのではないが、愛くるしい顔立ちで、お化粧栄えがして垢抜けて見えた。普通の事務員はしていない臙脂色のタイで胸元を飾っている。
 「さ、こちらへどうぞ。事業部長はお部屋にいらっしゃいます。」
 先に立って事業部長の部屋らしいドアを丁寧にノックしてから開けると、お辞儀をして二人を部屋へ招き入れる。案内してくれた女性はそのままドアのところに踏みとどまって二人が中に入るとそのままドアを閉めた。
 「事業部長、例の契約の件です。」
 「あ、そう。じゃ、そこへ。」
 事業部長と呼ばれた男は机の上でチェックしていた書類を眺め続けながら、入り口傍の応接セットを指差した。
 影山が先に立って長椅子のほうのソファの真ん中へ座り込む。李が躊躇して立っていると、影山は顎で隣に座るように合図する。
 仕方なく、李は影山の隣に腰を落とすのだが、ソファのクッションは柔らかく、ふかぶかと座ることになってしまう。当然膝の位置のほうが高くなり、スカートもずり上がってしまうのでデルタゾーンは全くの無防備になってしまう。足を組んで隠すことが出来ないのも先ほど思い知らされたばかりだった。事業部長と呼ばれた小男だが偉そうにしているその部屋の主がやがてやってくると、手前のソファに腰を下ろすので、李の真正面になってしまう。低く目のガラステーブル越しに李は事業部長に膝を突き出すような格好で座ることになる。当然、スカートの裾の奥は丸見えで晒す羽目になる。
 「えっと、この間は電話でお話だけしておきましたが、実際の契約書をお持ち致しましたので、目をお通し頂きたいと思います。君、さあ、書類を出して。ああ、これだ。ああ、申し遅れましたが、こっちは今パートで事務を手伝って貰っている派遣社員の李です。中国人ですが、なかなか気が利くいい子です。」
 李が手にしているバインダーから書類を引き抜くと事業部長に手渡しながら李のことをさり気なく紹介する影山だった。李は何時の間にか自分がパートの派遣社員と偽られてどうしていいか判らず、軽く頭を下げて会釈しておいた。しかし、事業部長の視線がちらちらと両膝の奥に泳いでいるのを見逃さなかった。バインダーを膝の上に置いて隠したいのだが、両手首を繋いでいる鎖がそうはさせないのだった。
 「ふうむ、どれどれ。うーん、こりゃなかなか複雑だなあ・・・。」
 事業部長はそう言いながら数枚に及ぶ契約書を何度もいったりきたりしながら眺めていたが、その目は明らかに紙面ばかりを見ているのではなかった。その間、李は身動きすることも出来ず、散々覗かれ放題で晒しにものにされたのだった。

21パンチラ

 漸く、契約書にサインをする段になって、事業部長は李の膝の前のガラステーブルに契約書を置き、身を覆い被せるようにして万年筆を走らせていたが、その目はしっかりと李の膝の奥を凝視しているのが李には痛いようにわかった。



01李錦華

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る