妄想小説
謎の中国女 李
十七
その日もいつものように自分の席のパソコンを立上げ、いつも起動しておくよう命じられているウェブカメラの画面を映し出す。しかし、その日その画面に映ったのは、いつもの自分の姿ではなかった。映っているのは自分の顔には間違いないのだが、いつものように今カメラが捕らえている瞬間の画像ではなかった。
そのパソコン画面に映る自分の顔は苦渋に満ちて歪んでいた。じっと見つめているうちに、その画面が何を意味しているかに気づいてはっとなった夏美だった。それは間違いなく、パソコン画面に顔を大写しにしたまま、紙オムツの中に放尿することを命じられた時の自分の顔であると気づいたからだ。自分が唇を噛み締め、俯き加減になったそのすぐ後、何かほっとしたような安堵の表情に変わるのが手に取るように分る。今、将に洩らした瞬間なのだと夏美はすぐに悟った。一瞬画面が飛んで恥ずかしそうに俯いている自分の顔に変わる。その唇が歪んだように動き出す。夏美のパソコンはスピーカーを繋いでいないので、音声は出てこない。しかし、唇の動きから、薄々何を言っているのか想像が出来た。
(私、斉藤夏美は、今紙オムツの中におしっこを洩らしました。)
以前、自分の口から発した言葉だけにすらすらと出てきた。
その言葉を発し終えると、画面は最初の苦渋に満ちた歪んだ顔のシーンへ戻った。繰り返し再生されるようなのだ。
夏美は慌てた。いつ誰が、やってくるか分からない。自分では止められないだけにどうしたらいいのか、分からずに戸惑うばかりだった。ふと、夏美はパソコンのモニタの電源ボタンに目が行く。誰か来たら咄嗟にモニタ電源を切ってしまうしかない。しかしすぐにその誰かが、パソコンを立ち上げて見て、などと言い出したら、夏美にはどうしていいか分からない。そう思っていたら、ふっと一瞬画面が暗くなって、いつもの自分の今の姿が映し出されている画面に戻った。画面の右上の隅にいつもの最小化ボタンも戻っていた。
夏美はほっとため息を洩らした。夏美にはその日の突然の映像の意味が薄々分かった。警告なのだと思った。言うことを聞かなければ、この画面を晒すぞという脅しなのだった。
怯える画面の中の夏美の表情を見ていて、また嗜虐心が高揚してくるのを感じ取っていたのは、李のほうだった。何故、そんな気持ちになるのか、初めのうちは自分でも理解出来ない李だったが、それは執拗に李を辱める為に詰ってくる影山の言葉のせいなのだと気づいたのだ。
「お前の嫌らしい毛を剃ったつるつるのおまんことあいつのおまんこを比べてみろ。お前が如何に淫乱かがよく分かる筈だ。」
剃り上げられた無毛の割れ目からどうしても肉襞がはみ出て、余計に卑猥に見せてしまう自分の陰唇を目にすると、夏美の童女のようなつるっと真一文字の割れ目に引け目を覚えてしまうのだ。そして、それが、夏美をどうしようもない苦境に貶めてやりたいという嗜虐心を芽生えさせてしまうのだということに李はある時から気づいていたのだ。
<そろそろおしっこがしたくて堪らないようだな。>
李がキーボードに男言葉で打ち込むと、画面の夏美が恥ずかしそうに俯いて頷くのが見て取れた。
<もう少し、我慢して貰うぜ。今度、誰かが秘書室に現れたら、そいつの目の前でそいつの顔を見ながら洩らすんだ。それまで、我慢するんだ。言いつけを守らなかったら、どうなるかよう分かっているな。>
そこまで打ち込むと、李はパソコンのモニタ画面を切ってから、ポシェットを手に立ち上がった。
夏美は秘書室の前のエレベータホールの脇に突然、李の姿が現れたのを見つけて、やり切れなさに泣きそうになる。現れたのが例え誰であろうとも、その者の前で失禁しなければならないのは耐え難いことだった。しかし、中でも取り分け、李の前ではそんな失態は避けたかった。李は、自分の秘密をあるところまで既に知っているのだ。これ以上、李に対して弱い立場になりたくなかった。李と密かに裸で身を寄せ合うことで、同罪の秘密を分かちあった気分になっていた。密会の中で淫らな行為を一緒にすることで、少なくとも同じ立場に戻れたような気分になっていた。しかし、李の前で粗相をしなくてはならないのは、明らかに自分のほうが賎しい身分なのだと思い知らされるのだ。
「ナツミさん。顔色、悪いてすね。」
李は、近づいてくるなり夏美の顔を覗き込むようにしながらそう言った。
「あ、あの・・・、何でも、ない・・のよ。」
やっとのことでそう答えた夏美だったが、平静な顔を取り繕うのも最早難しかった。
「もしかしたら、今も、下着つけてないのてすか。パンティ脱ぐよう、命令されているのですか。」
李の言葉は夏美の胸にぐさっと突き刺さった。李の視線はタイトな制服のスカートに向けられていた。
「そ、そんなこと、ないわ・・・。」
真っ青になりながら、慌ててそう言った夏美だったが、本当の事は口が裂けても言えないと思った。
「調べていい・・・てすか。」
そう言って、李が手を伸ばそうとしてきたので、夏美は飛び上がらんばかりにその手を払いのける。その瞬間、股間の緊張が緩んでしまったのを夏美は感じ取った。
「あっ・・・、ううっ。」
李は夏美の表情をじっと見守っている。夏美もまた、じわじわと股間に生温かい嫌な感触が広がるのを感じながらも、李の目を見つめ続けなければならなかったのだ。
「お、お願い。今は、何も言わないで一旦帰って。お願いだから。」
眦に潤んでくるものを感じながら、やっとそう言い切った夏美だった。
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