59二人

妄想小説

謎の中国女 李



 二十

 夏美は、李がなかなか戻って来ないことより、影山が追ってくるのではないかとそればかりが気掛かりで、外の様子を窺いながら、怯えて震えながら蹲っていた。しかし、影山が追ってくる様子はなかった。夏美は気が動転していて、冷静に物事を考えることが出来なくなっていた。
 漸く李が戻ってきたのは、10分後ぐらいだったのだが、夏美には1時間はゆうに経っていたのではないかと思われたほどだった。
 「鋏を取り落としてきてしまたので、代わりになるもの探していました。」
 李は夏美に、何処かの給湯室辺りから拝借してきたらしい果物ナイフをみせた。遠くにある外灯の明かりだけなので、薄暗いプレハブ小屋なのだが、夏美にはナイフの先がキラッと光ったのが見えた。
 李はしかし、すぐには夏美のいましめを解こうとはしなかった。夏美もすぐに解いてくれとは言わなかった。
 「話してくれますね、ナツミさん。」
 李が促すので、夏美はうなだれて、白状するのだった。両手を後ろ手に拘束されたまま目の前に立つ李の前にしゃがんで、告白しながら、夏美は自分を奴隷に貶められた捕虜か犯罪人のように感じていた。
 あの日、5時半と約束した時間に一人でいつもの事務所跡へ行ってみたこと、李が来ない間、ロッカーに縄とディルドウを見つけて、つい使ってしまったこと、長椅子の陰でオナニーに耽って居た時に、影山がやって来てしまって、不用意に床に脱ぎ落としていたショーツを持ち去られてしまったこと、そしてその後、戻ってきた李と影山のやり取りを盗み聞きしたことを全て正直に李に話したのだった。
 「鍵はどうして手に入れたのてすか。」
 夏美は、これも正直に事業部長から頼まれてと嘘を吐いて総務の友人、洋子から借り出したことを打ち明けた。次の質問は夏美にとっては辛いものだった。
 「何故、パンツを脱ぐよう命令されていたのてすか。」
 夏美は口を閉ざそうと一瞬は思ったが、最早李には何も隠せないと思ったのだった。
 「何者かに、下の毛を剃り落とされて、その写真を撮られてしまったの。そいつがその写真を送りつけてきて、言うことを聞かないとその写真を暴露すると脅されたの。」
 次の質問をするのに、李のほうも内心びくびくしていた。
 「それは誰だったのてすか。」
 夏美はかぶりを振る。
 「分からない。そいつは巧妙にパソコンに付けるカメラを送りつけてきて、私にいろいろ命令してきて、恥ずかしい格好をそのカメラで取り込んでいたの。だから、言うとおりにするしかなかったの。」
 李は夏美がまだ、自分が加担していたことに気づいてないのをしっかり確認した。
 「どんな恥ずかしいこと、させられたのてすか。」
 李は知っていながら、夏美にわざと白状させる。
 「ああ・・・。トイレに立つことを禁じられて・・・、そ、それで、紙オムツを嵌めさせられて、その中にするよう命じられたわ。事業部長や、貴方の前でもお洩らしをさせられたの・・・。」
 夏美は悔しさに唇を噛み締めながらも、やっとそう言ったのだった。
 既に立場はすっかり変わってしまっていた。夏美は李に対して持っていたプライドを全て喪ってしまっていた。その微妙な空気の変化は李自身も気づき始めていた。
 「ナツミさん。貴方にそんな命令をした男、誰か思いつかないのてすか。」
 「判らない・・・。でも、もしかしたら影山じゃないかと、そんな気がして。」
 そう夏美が洩らした言葉が李にヒントを与えたのだった。
 「ナツミさん。貴方は私に何でも従うこと出来ますか。」
 夏美は李を上目遣いに見上げる。その目は何にでも服従する奴隷の目になっていた。
 「何でも言うとおりに従います。」
 李は深く頷くと、夏美の目の前でゆっくりとスカートの裾を持ち上げる。夏美の目に李の陰唇が露わになる。既にショーツは脱ぎ去られていた。陰唇の割れ目から肉襞が卑猥に覗いている。
 「舐めるの。舌で気持ちよくさせなさい。」
 李の口調はいつの間にか奴隷に命じる女主人のものになっていた。
 「はい、李・・・さま。」
 夏美はそう言うと、舌を出して、李の股間に顔をうずめていった。
 「ううっ・・・。」
 李は思わず愉悦の呻き声を洩らす。そしてそのまま股間を夏美の顔に押し付けながら、夏美を床に押し倒す。そして夏美の肩の上に両膝を突いて、股で夏美の顔を挟みつけるようにしながら、両手を後ろに伸ばして、夏美の股間をまさぐる。捲り上げたスカートの下に探り当てたショーツは既にじとっと湿っている。その中に指を滑り込ませ、夏美も陰唇を潤ませているのを確認する。夏美も既に割れ目から肉襞を突き出させていた。
 「さあ、呑むのよ。」
 李はそう言うと、股間にしゃぶりついている夏美の口の中に、ゆばりを流し込むのだった。

 小水を呑ませられること、それは影山に対して李がそうだったように、李に対して夏美に絶対的な服従を誓わせるものだった。実際、突然の強制飲尿によって、夏美は李に何でも従うようになり、言葉遣いもいつの間にか敬語になっていった。李は夏美との立場が大きく変わったのを確認すると、夏美を使っての影山への復讐へと向かってゆく決意をしたのだった。


 元々、夏美がショーツを取り返す為に忍び込むことになった発端であるショーツを影山に拾われてしまった事件も、実は影山によって仕組まれたものだった。夏美と李の廃墟事務所での逢瀬は逐一、影山によって見張られており、そもそもが影山の指示によって李が夏美に仕向けたものだったのだ。

 あの日も、李の目の前でオムツに放尿させるという辱めを与えた後、逢瀬の約束をし、その場にわざと行かなかったのも影山からの指示だったのだ。李がやってこない廃墟事務所でディルドウをわざと夏美に見つけさせればオナニーに耽るだろうというのも影山の狙いどおりだった。扉の陰から覗いていた影山は、夏美が床にショーツを落としたままソファでオナニーに耽りだしたのをみて、わざとその場に踏み込んだのだった。夏美がソファの背もたれの裏に息を呑んで潜んでいるのを知っていながら、気づかぬ振りをして悠々と夏美の落としていたショーツを拾い上げ持ち帰ったのだ。その後、李を携帯で呼び出し、わざと音を立てて二階の事務所跡を通り過ぎさせ、夏美が追いかけてくるのを待っていたのだ。影山の事務所の入り口には防犯カメラを仕込んであるので、夏美が廊下の暗がりから事務所内をこっそり覗き込んでいるのも、影山にはばれていたのだ。夏美が聞き耳を立てていると知っていて、李にあらかじめ教え込んであった台詞で芝居をしたのだった。

 夏美に、李が落し物のショーツのことで辱められていることを吹き込めば、それを取り返しに来るだろうことも計算済みだった。むしろ、その現場を押さえることこそが影山の狙いなのだった。影山は李の盗撮現場を押さえたことで、李に思いのままの辱めを与えて自由にしてきた。それを李よりずっと美人である夏美で愉しもうという思いにかられ、我慢出来なくなっていたのだった。しかし、夏美は同じ会社内の人間で、会社のトップにも近い職場に居る。迂闊なことをすれば、自分が捕まってしまう。どうしても夏美に非がある行為をさせ、しかも他人には知られたくない秘密を作る必要があったのだ。表向きは、影山は人の居ない事務所内でショーツを拾っただけであり、同じ事務所内にパートで勤めている李のものではないかと疑っていただけのことで、他人に責められるようなことはしていないように仕組んだのだ。それを取り返しに夜な夜な忍び込んできた夏美を現場で捕らえれば、夏美には言い訳の仕様が無いのだ。そのことをネタに夏美にしたい放題のことをやらせられると影山は考えていた。

 しかし影山には二つ誤算があった。夏美が合鍵を持ってきていたこと、そして建物内部の電源を元で切ってあったことだ。鍵を掛けてあるので、ショーツを取り返すのに手間取るだろうと踏んでいた。その間に背後に近づき、取り押さえるつもりだった。自由を奪っておいて、電気を点け、李と思っていたのが夏美だと初めて気づいた振りをして驚いてみせ、夏美の秘密を始めて知ったと思わせるつもりだったのだ。
 しかし夏美を縛り上げて自由を奪うところまでは何とかシナリオ通りにやり通せたものの、元電源を入れに行っている間に夏美に逃げられてしまったのだ。

 影山は、それを助けたのがまさか自分を裏切った李の仕業だったとは思いもしなかったのだ。夏美を繋いだ紐を切った場所に鋏をわざと残していったのも、夏美が自分で鋏を引き寄せ、切ったのだと思わせる為だった。夏美を逃がした後、何気なく影山の下に戻り、どうなったかを訊く振りをしたのも、夏美を逃がしたのが自分であると悟られないようにする工作の為だったのだ。そのせいで、李はすぐには夏美の下に戻れなかったのだ。

 李の策略に気づいていない影山は、李を夏美のもとへ遣り、あの夜、夏美が自分の正体を影山に気づかれたと思っているかどうかを探らせたのだ。影山が夏美のことをまだ知らないと夏美が思っている限りはまだチャンスはあると影山は考えたのだ。夏美を陥れる為の罠に再度夏美が近づいてくる可能性が残されているからだ。勿論、李は影山に夏美は正体はばれないで済んだと思っていると影山に告げたのだった。その報せににやりとした影山は、次にどうやって再び夏美を誘き出すかを、新たな姦計を練り始めたのだった。



01李錦華

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