50web カメラ

妄想小説

謎の中国女 李



 十四

 その男は、会社内に居る誰かには違いないと夏美も思っていた。自分を眠らせ、股間を剥き出しにして、あるべき恥毛を剃りあげた上で写真まで撮るなどということをするには社内の者で、密かに秘書室を窺がって実行するのでなければ出来ない技だ。その悪徳な方法で撮った写真を、社内便で送りつけてきて脅すのも社内の者ならではの仕業である。しかし、何処の誰がそんな事を仕掛けているのか、夏美には皆目、見当もつかなかった。

 夏美と接触する機会が多いのは、事業部長である専務の岸川だが、犯人はどう考えても岸川とは思えなかった。接触する機会が多いだけに却って、そんな廻りくどいことはしないように思われたのだ。事業部長の立場ならパワハラでもセクハラでもし放題というような立場である。辞めさせるとか、何処かへ飛ばすぞと脅されたら、どんな厭らしいことでも甘受せざるを得ないだろうと思われた。しかし、岸川にはそんな度胸もないようにも思われた。

 ノーパンで過ごすことを二度に亘って命じられた後、暫くは何の音沙汰も無かった。自分を辱めることに飽きたのではと密かに期待をした夏美だったが、その期待はあっさりと裏切られてしまった。また秘書斉藤夏美殿親展と書かれた社内便の封筒が届けられたのだ。一目でそれは理不尽な命令を伝えるものであろうと夏美は感じ取った。

 今回の封筒は何か固形物が入っているような妙な膨らみを持っていた。おそるおそる夏美が開いてみると、中から妙な道具が出てきた。プラスチックの筒の先にレンズのようなものが付いている。その筒本体を何かに固定出来るよう、これもプラスチック製の挟みのような固定具が付いていて、本体からはUSBの端子が付いたコードが裏側に付いていた。パソコンなどにはあまり詳しくない夏美だったが、パソコンに接続する何かの道具であることはすぐに理解した。それは一緒に添えられた説明書によるとウェブカメラというものらしかった。

 説明書の他に、ワープロで打たれた指示命令の手紙が付いていた。
 「このカメラを自分のパソコンに繋いで、カメラが自分の方を向くようにセットしろ。一緒に入れてあるCDを自動で読み込ませたら、次のURLを打ち込んで常時その画面が映っているようにすること。誰かが来た時だけ画面を最小にして隠していいが、居なくなったらすぐに復帰させること。」
 その後は延々と設定の仕方が書いてあった。

 夏美が不案内ながらも何とか指示書と説明書を頼りにカメラをセットすると、画面に自分の顔が写るようになった。鏡ではないので、右と左が逆に動くように見える。パソコンのモニタの上に取り付けたカメラが捉えている映像がそのままパソコンに写されているようだった。
 (こんなことをして何の意味があるのだろう)と思っていたら、自分の顔の映像のすぐ下にあった四角い枠の中に文字が突然現れた。
 <少し離れて立て。画面に膝から上の全身が映るような位置に立て>
 するすると文字が流れてきて、そう読めた。
 夏美が不安な面持ちのまま、椅子から立ち上がり、真正面のパソコンを向いたまま一歩後ろへ下がる。画面の中の夏美も一歩後ろへ引いて、膝から上が映るようになった。
 するとまた文字列が現れた。
 <スカートの裾に手を伸ばして上へ捲り上げろ>
 パソコンを通じて命令を送ってきている男は何やらまた夏美に辱めを与えようとしているのだと悟る。夏美は辺りを見回して、目の前のガラス越しでエレベータホールや廊下に誰も居ないことを再確認すると、ゆっくりとスカートの裾を持ち上げる。股下で一旦止めたが、観念して更に上まで捲り上げる。目の前のパソコン画面に白いショーツを剥き出しにした自分の姿が確認出来た。
 <今度はパンツを膝まで下ろせ>
 次々と指示される命令は非情だった。しかし夏美には従う他はないのだった。ショーツを膝の上まで下ろす。次の命令は見なくても夏美には確信があった。
 <パンツをそのままでもう一度スカートを捲り上げろ>
 夏美は誰が何時来るか判らないので気が気ではない。いつでもさっと下ろせるように構えながら、ゆっくりスカートの裾を上げていった。画面をみて、裾が何処まで上がっているのかが確認できる。やがて、裾の下から無毛の割れ目が露わになってきた。
 命令の文章がそこで停まってしまった。夏美は無毛の陰唇を晒したまま動くことすら出来ない。恥かしいより情けなかった。それでももし誰かが偶々現れたら、さっとスカートを下げなければならない。その緊張にぴりぴりしていた。
 その時、ふと夏美は気づいたのだった。自分は自分の姿をモニタを通じて見ているのだが、画面の向こう側ではこの同じ画面を見られているのだということを。パソコンやウェブの仕組みはよく判らないが、今この自分のパソコンに取り付けたカメラが捉えた映像がインターネットの回線を通じて何処かへ送られているのだ。その送られた先は何人が覗いているかも判らないのだった。
 <そのままパンツを脱いで椅子に腰掛けろ。>
 漸く次の命令の指示が出た。夏美はさっとスカートの裾を戻すと、先に椅子に腰掛けてからスカートの中に手を入れてショーツを抜き取る。座ってしまえば、急に誰か来ても気づかれにくいと考えたのだ。
 ショーツを手に取ると、さっと丸めて掌の中へ隠す。しかし非情な命令がすぐ現れた。
 <穿いてたパンツの内側をカメラの前に翳せ。クロッチの部分を広げて出すんだ。>
 夏美は俯いて机の下でそっとショーツを広げてみた。内側はうっすらと染みがついてしまっている。辱めを受け始めてから、潤みが始まっていたようだった。口惜しさと恥かしさに唇を噛みしめながら、命令に従う。今度も誰か来たら、さっとショーツを隠せるように構えながらカメラの前へ手を差し出したのだった。
 「お願い。もう許して・・・。」
 夏美のその声に反応したかのように、モニタ画面の四角い枠に文字がまた現れた。
 <まだ駄目だ。お前が汚したその部分の臭いをカメラの前で嗅ぐんだ。>
 夏美はカメラにはマイクも装備されていて、こちらの声までもが向こうへ伝わっていることを知った。
 恥かしさに俯きながら、命令された通り、下穿きの広げられたクロッチの部分を自分の鼻先に近づける。尿もれとは明らかに違う、甘酸っぱいような香りが鼻を吐く。その匂いとそれを自分が分泌したという思いに堪え切れなくなって、思わず顔を背ける。
 <大分匂いが強そうだな。>
 再び文字列が走った。明らかに言葉で夏美を嬲っているのだった。
 <今度は、その汚れた部分を口で咥えるんだ。>
 男の嬲りは更に増長していった。夏美はカメラに向って許しを請うような表情を作ってみせる。が、向うの男の表情は夏美にはわからない。夏美はおそるおそる自分が穿いていて汚してしまったその部分を口元に近づけた。苦い物を呑み込む時のような顔をしながら意を決して、そのものを唇に押し当てる。じとっとした感触のおぞましさに背筋が震えた。
 <自分が汚したパンツを咥えるとは相当な変態だな。>
 夏美はショーツを吐き出して、カメラに向って訴える。

51遠隔命令

 「酷いです。こんなこと・・・させて置いて。」
 夏美の眦からは涙が溢れ始めていた。
 その時、ガタンと音がして、夏美ははっと我に返る。秘書室とエレベータホールを仕切っているガラス張りの壁の向うに、李の姿を認めたのだ。夏美は慌てて手にしていたショーツをさっと机の抽斗の中に隠すと、パソコンのモニタ画面の映像を最小化する。自分でも驚くほどの早業だった。

 「ナツミサン。どうかしたのてすか。泣いていますね。」
 夏美は何時から李が居たのか不安になった。
 (ずっと見ていたのかしら。そんな筈はないわよね。)
 そう思いながらも夏美はうろたえてしまう。
 「何でもないの・・・。ねえ、何時来たの?」
 「今てす。」
 「そう、そうよね。」
 思わず、李に確認してしまった夏美だったが、それでも不安は拭いきれなかった。
 「ナツミサン。何か困っていますね。また、パンツ脱ぐよう命令されているのてすね。」
 夏美は思わず、李の顔を一瞬だけ見てから顔を伏せた。そして小さく頷くのだった。
 「事業部長さんてすか。」
 夏美は李が何を言っているのかすぐには判らなかった。が、自分に非情な命令をしている張本人の事を言っているのだとすぐに気づいた。
 「あ、その・・・。い、言えないわ。それは訊かないで。」
 夏美は肯定するでも、否定するでも無いような返事を咄嗟にした。自分では事業部長の筈はないと思っていたが、李にはそう思わせておくほうが好都合かもしれないと思ったのだった。
 「判りました。これ以上は、訊かないことにします。」
 「ありがと・・・。ね、李ちゃん。今晩、また、あの部屋で逢ってくれる。」
 夏美のその言葉は憐れみを乞うような口ぶりだった。
 「そ、てすか。わかりました。それては、この前と同じ時間て・・・。」
 それだけ言うと、夏美の気持ちを察したかのように、李は、くるりと踵を返して秘書室を出ていったのだった。
 李が出ていったのを見届けてから、おそるおそるパソコンの最小化しておいた映像画面を復元させる。自分の顔がぱっと映るのがどうしても馴染めない。画面の向こう側で不敵な笑みを浮かべながらこの自分の顔を見ている男が居るのかと思うと、薄気味悪い思いとともに、口惜しさがこみ上げてくる。
 メッセージの枠には、<もうパンツを穿いてもいいぞ。ただし、カメラに向って見えるように穿け。>と既に書かれてあった。夏美は誰も居ないかもう一度辺りを見回してから抽斗を開け、ショーツを取り出す。クロッチの内側は汚れて湿っている。それを又身に着けるというのも気持ち悪かったが、その事を知っている者が、自分がそれを穿くところを見ているという思いが、何よりも強く屈辱感を募らせるのだった。



01李錦華

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