妄想小説
訪問者
第十七章 ばれていた嘘
地下の部屋に閉じ込められたことに気づいた陽子は、持ってきた鍵束の全てを試してみたがその部屋のドアを開錠出来るものはその中には入っていないことを知った。部屋に据えられていたキャビネットも調べてみるが、中は空っぽだった。
その時突然、壁に大きく広げられていたスクリーンが明るくなった。天井に取り付けられていたプロジェクターに何処からかリモコンでスイッチが入れられたようだった。
(な、何・・・。)
最初は真っ白でしかなかったスクリーンが今度はある画面に切り替わった。何となく見覚えがあるような気がしたその場所が、この家の玄関であるのに気づくのにそれほど時間は掛からなかった。
天井に取り付けられたカメラからの映像のようだった。正面にドアが見える。すぐにそのドアが開かれて入ってきたのは陽子自身だった。今着ている服と違うので今日の画像ではないとすぐに気付いた。だとすれば、合鍵を作る為に型を取りに忍び込んだ日のものに違いなかった。
樫山は陽子が忍び込んだことに気づいていたことを悟った。おそらく鍵もわざとすぐに見つかる場所に何気なくを装って置いてあったのだろう。すでにその時から罠は仕掛けられていたのだ。
今度はスピーカーのスイッチが入ったようだった。
(・・・まさにエスとエムって訳ね。確かにあの娘、ちょっと若くて美人だからって生意気にしてるところがあるわよね。たっぷり虐めてやるといいわ。でも私のおかげで、そういう事が出来るんだってこと忘れないでね。そうだ。その京子が恥ずかしがって身悶えしてるビデオを私にもみせなさいよ。今度も私がビデオテープをDVDにダビングして返してあげるわ。貴方にはダビングの仕方みたいな事、判らないでしょ。)
(ああ、そうしてくれ。DVDなら機械に差し込むだけだからな。じゃ、カメラごと返すから今度DVDで持ってきてくれ。)
(あの娘には、もっともっと恥ずかしい事させるといいわ・・・)
それは陽子が影野と交わしている会話に間違いなかった。自分が盗聴していると思っていたのに、自分のほうが盗聴されていたことに今気づいたのだった。
スピーカーの音がプツッと途切れると、聞き覚えのある樫山の声に変った。
「やっと気づいたようだな。お前が働いていた悪事はすべてばれていたんだ。」
「それを知ってて私を罠に掛けたのね。ここから出して頂戴。」
「その為にはお前にして貰うことがあるのでね。」
「何をしろって言うの。」
「お前が影野って男に撮らせたビデオと写真を全て差し出すんだ。」
「私は持ってないわよ。あいつが勝手に撮っただけよ。」
「さっきの音声を忘れたのか。撮影はあの男がしたみたいだが、テープはお前が持ち帰ってダビングしたDVDだけ渡したって自分から言ってたじゃないか。」
「・・・。」
「お前には三つ選択肢がある。ひとつは私に警察へ電話させて家宅侵入と窃盗罪で逮捕されること。もうひとつは何もしないでその部屋でミイラになるまで監禁されること。最後のひとつはそこから出して貰う代わりに影野に電話して、京子を撮ったビデオを写真を全部ここへ持ってこさせることだ。携帯は持っているのだろ。三つのうちどれを選ぶかはお前の自由だ。」
陽子は部屋をもう一度見回してみる。椅子とキャビネットがあるほかには何もない。天井付近にエアコンが付いているが、それを作動させるリモコンも置かれていない。
窓のない地下室だから脱出するのは施錠されてしまったドアしかないのは明らかだった。
壁にひとつだけ小窓のようなものがある。開いてみるとトレイがあって上下に動くエレベータのようなものだが、電子レンジくらいの大きさしかなくてそこから脱出するのはどう考えても不可能と思われた。おそらくはキッチンから料理などを運ぶために作られたものだと思われた。
我慢して籠城してみたところで、一日と持たないだろう。トイレさえないのだ。陽子は観念した。
「判ったわ。最後の選択肢にするわ。その代り絶対約束を守って私を出してくれるわね。」
「俺を騙そうとか変な気を起さなければな。壁に上げ下げ式のトレイがついた小窓があるのが判るな。そこにお前の家の鍵を載せるんだ。そいつを影野に渡して家探しして貰わなければならないからな。」
「く・・・。どこまでも用意周到なのね。判ったわ。」
陽子はバッグから家のキーを取り出してトレイに乗せる。部屋の四隅に監視カメラが付いているようで、陽子が鍵をトレイに載せるとすぐにトレイは自動で上にあがっていった。
「さ、それじゃ影野に電話するんだ。」
陽子は携帯を取り出す。地下室だが圏外にはなっていないようだった。
「・・・・。あ、影野さん。拙い事になったの。よく聞いて。あの京子を撮ったビデオと写真を渡して欲しいの。全てばれてしまっていたの。あれが残っていると証拠になって、私だけじゃなくて、貴方も逮捕されることになるわ。私の家、知ってるわよね。鍵を届けさせるので、ビデオカメラと一緒に洋箪笥の奥に隠してあるテープ、それから貴方に渡したDVDも全て持ってきて。・・・。ううん、もう逃れる方法はないのよ。つかまりたくなかったら言うとおりにして・・・。・・・。そう、急いでね。」
「陽子さん、全て私も聞かせて貰ったわ。」
「京子さん。貴方もそこに居たの?」
「そうよ。さっきからずっと話を聞かせて貰っていたわ。」
「そう。なら仕方ないわね。」
「どうしてあんな事したの?」
「決まってるじゃないの。貴方を使って色仕掛けで信者や賛助会員を増やす為よ。」
「もしかして、あのミニスカートのスーツは樫山さんじゃなくて、貴方が用意したものなの?」
「そうよ。貴方が樫山から弱味を握られていると気づいたんで、それを利用したのよ。」
「じゃあ、パンティが写ってしまっている写真も分かってて影野さんに渡したのね。」
「今頃気づいたの?影野にはそんな悪知恵は働かないわよ。私がシナリオを描いて彼に演技させただけ。」
「それじゃ、あの浪人生も・・・。」
「そうよ。隠しカメラで盗撮するようにそそのかしたの。貴方がトイレに入った様子も撮られてるわよ、きっと。」
「そうだったのね。」
白状した陽子の言葉を聞いて、もう一人罰しなければならない男が居るのを京子は知ったのだった。
「もう何も隠し持ってないわね。」
京子は影野が持参したものをひとつ、ひとつ確認する。パンツを見せてしまっている大写しの写真とその画像が入ったSDカード。二本の8mmビデオテープと二枚のDVD。厳重に封をしたビニル袋に入れられた京子が着けさせられていた下着などだ。性の奴隷になると署名までした誓約書も含まれていた。
「それじゃ、陽子を迎えに行ってやれ。これを持ってな。」
樫山が影野に渡したのは、地下室の鍵だけではなかった。ロープの束と手錠、それにアイマスクだった。
「使い方は判るよな。」
それは何をしろと言っているのか判るよなという意味と同じだった。
ガチャリと地下室のドアが開く音がした。
「影野さん?助けに来てくれたのね。」
走りよる陽子を影野は強い力で突き飛ばす。突然の事に陽子は思わず尻もちをついて後ろに倒れ込む。スカートの裾が乱れて下着が覗きそうになる。影野は思わず生唾を呑み込む。
影野が背後から取り出した縄と手錠をみて、陽子は蒼白になる。
「な、何をするつもり・・・。私を縛ってどうしようというの。」
「いいからおとなしく縛られるんだ。京子と同じ悦びを味わあせてやろうっていうんだよ。」
床に転んでいる陽子の身体に馬乗りになると腹這いにさせて後ろ手に手錠を掛ける影野だった。
「やめて。きっと監視カメラで撮られてるわよ。」
「そんな事は承知の上さ。俺も高ぶってきてるんだよ。京子の時は気後れしてうまく勃起出来なかったんだが、お前なら遠慮が要らない分、存分に出来そうだぜ。ひさびさに俺の肉棒が疼いているんだ。たっぷり愉しませてやるからな。」
「やめてええええ。」
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