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妄想小説

訪問者



第十一章 敵の懐ろへ


 (本当にうまく行くのだろうか。)
 不安を感じながらも陽子の立てた作戦に乗ってみるしかないと京子は考えた。何せ最早、樫山だけではなく、影野という爺さんにまで恥ずかしいネタを握られてしまっているのだ。この地獄から何としてでも抜け出せねばと京子は思ったのだ。
 ピン・ポーン。
 ドアチャイムが鳴って暫く反応が無かった。ドアホンのカメラに顔を近づけてみる。
 「どなた?」
 ぶっきらぼうな返事が突然聞こえてきた。
 「あ、あの・・・。以前にお訪ねした現代平和研究所の長谷川・・・、長谷川京子です。」
 「・・・。」
 「あの、今日はお願いがあって・・・。」
 「私の言いつけを守ってきた?」
 「あ、言いつけって。これですね。ちゃんと穿いてきました。」

鍵孔

 京子は後ろに二歩下がってドアホンのカメラに全身が写るようにする。陽子から言い付かっていた超ミニのスカートを差し示す。
 「・・・?」
 「あれ以来、どのお宅を訪問する際にも必ず着用するようにしています。」
 ドアホンの向こう側でモニタの映像を観ながら哲男は首を傾げていた。そんな服を渡した覚えはなかったからだ。
 「その服を預けたあいつ。何て名だったかな。あいつはどうしてる?」
 「陽子さんの事ですか。今日は何か用があるみたいです。今日は私ひとりでお話しをさせて欲しいんです。」
 「ふうむ・・・。いいだろ。鍵は今開けたから入ってこい。」
 京子は後ろを振り向いて、誰も観ていないことを確認してからドアノブを握る。鍵は何処かからリモコンで開錠が出来るらしかった。
 「失礼します。」
 京子が玄関の内側に入ると正面に小さなテーブルがあって、以前に付けるように命じられたヘッドセットと首に掛けるストラップがおかれている。と思うや、京子の携帯に着信音が鳴る。おそるおそる出てみると男の声が聞こえてきた。
 「この間と同じ様にヘッドセットを付けて携帯を首から背中へ垂らすんだ。」
 ある程度予想はしていた事だったので、京子は素直に従う。
 「で、何だ。話っていうのは?」
 「はい。お願いがあります。初めて樫山さまのお宅にお邪魔させて頂いた時のビデオを見せて頂けないでしょうか。」
 「ビデオだと?そんなものを観たいのか。」
 「はい、そうです。ある決意を固める為です。」
 そこから先は陽子に教えられた通りの台詞を一気に見えない相手に向かって話したのだ。それはある老人の性の奴隷にされようとしている事。自分はその老人が嫌いでならない。それならいっそのこと、樫山の性の奴隷になったほうがましだと考えた事。その決意をするには樫山に撮られてしまったであろう映像を自分の眼で確かめて、その上で奴隷になりたいというのだ。
 話を訊いて、樫山はすぐに罠を直観した。おそらくは陽子というブスの描いたシナリオなのだろうと推測する。どうも陽子という女は自分の名を語って、この女に嫌々ながらミニスカートを穿かせて男たちの気を惹かせているに違いないと推理したのだ。最初に言いつけの事を言ったのは、股間の剃毛の事だった。しかしこの女のほうで勝手に身に着けるように命じられたミニスカートの事を言い出したのだ。となれば、自分の名を騙っているのは陽子という女に違いなかった。
 樫山は京子に服を全部脱ぐように命じた。想定どおりの成り行きに、京子は逡巡しないで胸のボタンから外していく。
 パンティを下して足から抜き取ったところで樫山から天井の監視カメラのほうに真っ直ぐ向くように命じられた。股間を隠すのも許されず、両手は後ろで組んでおくように命じられた。股間の恥毛も出てくる時に念入りに剃り直しておいた。京子は少しでも樫山の機嫌を損ねることを案じたのだった。
 樫山は次に玄関脇の靴箱の上の小さな箱を開けるように命じる。京子が言われた通り、小箱を開けると中から手錠とアイマスクが出てきた。
 先にアイマスクを付け、そのうえで自分で後ろ手に手錠を掛けるよう命じられた。素直に従うしかないのだと京子は自分に言い聞かせる。
 全く無抵抗の身にさせられたところで、樫山は指示に従って歩くように命じる。

壁伝い

 「まず壁伝いに廊下を真っ直ぐ歩け。」
 樫山は監視カメラのモニタで京子の一挙手一投足を見守っている様子だった。アイマスクで何も見えない上に両手の自由も効かないまま歩かされるのは不安で仕方なかった。しかし京子にはそうする他はないのだった。手錠の掛けられた両手を出来るだけ横にして壁に触ると、それを頼りに少しずつ前へ進む。
 京子は以前に樫山家を訪れた時のことを懸命に思い返していた。最初の時は応接間しか通されていない。二度目の時は廊下を真っ直ぐ進んでバスルームへ案内された。しかしそこで自ら剃毛させられて帰らされたのでそれ以外の場所は憶えがない。
 「そこで止まれ。もう少し進むと左側へ降りてゆく階段がある。そこを降りてゆくんだ。」
 京子が手錠を掛けられた背中の手を伸ばしていくと壁が途絶えて角になっているのが判った。そこから階段が下に向かって降りてゆくらしかった。転ばないように一歩、一歩降りてゆくとやがて地下に到着したらしかった。今度は右手へ向かって歩くように命じられる。壁を伝って前に進むと開いていたドアを通過した様子だった。
 「もう三歩進んだところに椅子が置いてある。そこに座るんだ。」
 京子は後ろ手の手探りをしながら椅子を探り当てる。冷たい木の感触があった。そこに裸の尻を降ろす。すぐに後ろ手の手錠に何かされたようだった。手が動かせなくなったことで手錠ごと椅子に背もたれに括りつけられたことが判った。
 「今、準備をするから待っていろ。」
 京子は少しの物音も聴き逃さないように神経を張りつめている。目隠しは想定内の事だった。その上で陽子からビデオの置き場所を探るように言われたのだ。何かの扉が開けられる音がした。ごそごそそこから何か取り出しているようだった。やがてブーンという微かな機械音がした。その直後にガチャリという音がする。部屋の明かりが消されたのがアイマスクを通しても感じられた。そのすぐ後に背後から目隠しが撮られた。
 明かりらしきものは目の前の真白なスクリーンだけだった。手錠がしっかり固定されているので後ろを振り向くことも出来ない。おそらくは京子が座らされている後方にプロジェクターがあるらしくそこから真正面のスクリーンに向けて映像が映し出されていた。それは京子が望んで見せて貰った過去の画像なのだが、見たくはない画像でもあった。そこには尿意に堪えかねてもじもじ悶えている自分の姿があった。誰にも見られたくない恥ずかしい姿だった。

 映像が流されている間、京子は何度も(もう止めて)という言葉を呑みこんだ。あまりに惨めな姿だった。
 最後の雫が床に垂れたところで画像は止まり、真っ暗闇になる。そこで京子は後ろから再びアイマスクを着けさせられたことを知る。
 「なかなか迫力ある映像だったな。誰も演技であそこまでの芸当は出来ないだろうな。さあ、決心がついたか?」
 「・・・。」
 すぐに返事は出来ない京子だった。

 「それじゃ、その部屋は地下だったのね。ちょっと待って。」
 陽子は京子が連れ込まれた部屋が地下室だったと聞いて、少しだけ思い出したのだった。確か最初にあの家を訪れた時、トイレを貸して欲しいと言って地下へ案内されたような気がするのだ。しかし地下室という記憶は何故か無い。気づいた時は失禁した状態で公園のベンチで寝ていたのだった。
 (何かある・・・のだわ。)
 「そう。それでね、アイマスクを外されていた時は部屋は真っ暗でプロジェクタで照らされた画面しか見えなかったのだけれど、映像が映しだされるちょっと前に何かの扉みたいなのが開けられたような音がしたの。多分、クローゼットとかキャビネットとかじゃないかと思うんだけど。そこから何かを取り出したみたいだった。」
 「ふうむ。だいたい場所の見当はついてきたわね。で、その後どうなったの。」
 「ごめんなさい。そこから先のことは・・・。」
 「そう。ま、いいわよ。だいたい想像つくから。問題はこれからよ。どうやって忍び込むかね。まあ、私に任せておいて。いい作戦練るから。」
 色んな事を知られてしまった陽子ではあったが、あの時あれからの事を自分の口から話すのは耐え切れないと京子は思ったのだ。

 ビデオを見せられた後、樫山にどうしたいのだと訊かれ、再度私を奴隷にしてくださいと自ら志願したのだった。
 「性の奴隷になるってご主人様に何をしてあげられるって言うんだ?」
 そう訊かれて陽子から言われていたフェラチオという言葉がどうしても使えなかった京子は「私の口で奉仕させてください。」とだけやっとの事で言ったのだった。
 そしてアイマスクを着けたまま男の物を口に含んだのだった。手錠も掛けられたままで手を使うことも許されなかった。
 「2分でいかせることが出来たら、お前の望み通りにしてやろう。」
 そう言われた京子だったが、フェラチオは経験がなかった。どうやって男を気持ちよくさせられるのかも知らなかった京子に2分でいかせる事など出来る筈もなかった。
 「お前のことを性奴隷にしたがってるっていうジジイのチンポでもしゃぶってやって練習してから出直すんだな。」
 そう冷たく言われて帰された京子だった。手錠の鍵は玄関の箱に入れておくと言われて目隠しに後ろ手錠のまま手探りで階段、廊下を伝って一人で玄関に戻り、手探りで手錠の鍵を見つけて何とか外して自由の身になれたのだった。その間、樫山は何処にいるのか京子には全く見当もつかなかった。手錠の外し方だけは以前に経験があったので、手探りでも開錠することが出来たのが不幸中の幸いとも言えた。

 京子は樫山家で見せられた映像を思い返していた。何ともおぞましい映像だった。絶対誰にも見られたくない。あんなものが世の中に出回ったらもう外を歩くことも出来ないどころか生きていけないと思った。何としてでも取り返さなければならないと思う。しかし陽子の作戦で本当に取り返せるのかとも思った。
(陽子はあの家に忍び込むつもりでいるようだが、鍵が掛かっている筈のあんな家にどうやったら忍び込めるというのだろう。)
 陽子に、まずは性の奴隷になるからといって樫山を油断させチャンスを窺うのだと言われたのだが、ますます深みに嵌るだけのような気もしていた。それに陽子には言ってないが、あの影野と言う初老の男にまで恥ずかしい画像を撮られてしまっているのだった。しかも向こうから性の奴隷になれと言われて誓約書まで書かされてしまっているのだった。何時呼び出されるかびくびくしているうちに、陽子から呼び出しがあったのだった。

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