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妄想小説

訪問者



第十六章 思わぬ罠


 「京子さん。影野さんとの間は順調そうね。彼、とても貴方を気に入っているみたい。今度プレミアム会員になることも検討してくれるそうよ。」
 「え、順調だなんて・・・。わたし、出来ればあの人からは外されたいんだけれど・・・。」
 「何言ってんの。あの人は教団にとっては、大事な金づ・・・、あ、いや。大事な支援者なのよ。貴方がそんなことでどうするの。あの人をちゃんと教団に繋ぎとめておくのは貴方の大事な役目よ。もしそれをしくじったら、貴方大変な事になるわよ。いいわね。心得ておいて。」
 「え、ええ。わたしに出来ることだったら・・・。」
 「それはそうと、あっちの方。樫山って男のほうだけど。いよいよ今度やるわよ。」
 「やるって・・・。まさか・・・。」
 「何がまさかよ。あんただって、取り返したいんでしょ。恥ずかしいビデオと写真。」
 「それはそうなんだけど・・・。」
 「どうしたの。しっかりしてよ。アンタが上手く動かないと成功する作戦だって上手く行かないんだから。」
 「でも、心配だわ。何だか、あの人。賢そうで、何でも見透かされているような気がするんですもの。」
 「何言ってんの。何かばれてはいないわよね。大丈夫ね。じゃ、今度の作戦、教えるわね。」
 陽子が京子に授けた作戦はこういうものだった。
 まず京子がひとりで樫山邸を訪れる。そして性奴隷になることを決心した印をみせたいと話して、自分をノーパンにして外に連れ出して欲しいと持ちかけるというものだった。それは勿論、樫山邸に誰も居ない時間を作る為だった。その間に陽子は合鍵で忍び込むという手筈になっていた。合鍵は前回忍び込んだ際に取ってきた粘土の型で作成済みなのだった。忍び込むべき部屋も既に見当がついていたのだ。
 陽子は樫山が握っている京子の弱味という糸がとても邪魔だったのだ。それさえ断ち切ってしまえば、京子を自分の意のままに操れると考えたのだ。その証拠に、影山にも浪人生の草野にも、京子を餌にまんまと賛助会員にさせることに成功している。影山は更に会費の高いプレミアム会員にまでなろうかとしているのだ。その為には陽子の他に京子を操れる人間が居ては都合が悪いのだった。

 作戦はその二日後に実行されることになった。
 「じゃ、いいわね。さ、ひとりで行って。」
 樫山邸が見渡せる街角の陰で陽子は京子に突入を指示する。
 ピンポーン。
 「あの、現代平和・・・。あの、京子です。ひとりでやってきました。」
 「鍵は開けてある。そのまま中に入って来い。」
 京子は言われたとおり、玄関ドアを開くと中に滑り込む。しかし、今回に限って既に樫山は玄関先に既に立っていた。
 「あの・・・。」
 京子が喋りだそうとすると、樫山は人差し指を立てて京子の口を封じる。樫山が手にしていたものを指し示す。それは前回、京子がこっそりポニイテイルの髪留めの中にいれていた盗聴マイクだった。それを京子に指し示す。
 (どこにある・・・って意味ね。)
 すぐに悟った京子は、バッグの中からと前回と同じ様に髪留めの中に隠してあったマイクを樫山に指し示す。それを受け取ると胸のポケットにしまうのだった。

 陽子は樫山家が見渡せる家並みの陰でイアホンを耳にあててじっと侵入するタイミングを計っていた。
 (着ているものを全部脱いで、この間のように地下の部屋へ歩いていくんだ。)
 (待って。待ってください。今日は違う事をさせて欲しいんです。)
 (違うことだと。)
 (外で・・・、屋外で私を辱めてほしいんです。)
 (外でだと。どういうつもりだ。)
 (私、この間、私を性の奴隷にしようとしている老人からとても恥ずかしい思いをさせられたんです。その事が頭に残って忘れられなくて。それで樫山さんからもっと恥ずかしいことをさせられたら、それも忘れられるんじゃないかと思って・・・。)
 (ふうん。とても恥ずかしい事を命じられたいって訳だな。しかもそれを屋外で。)
 (ええ、そうです。私、今からここでパンティを脱ぎます。このパンティはここに置いてゆきます。ノーパンの私を外に連れ出して、思いっきり辱めてください。)
 (スカートをまくって股間を見せてみろ。)
 (判りました。この通り、樫山さまのお言い付けどおり今日もすっかり剃りあげています。)
 (よし。わかった。それじゃあ今日はお前が外でどれだけ従順に俺の言うことが聞けるか試してやる。携帯にヘッドセットを付けてスーツのポケットに入れておくんだ。俺の命令がきこえるか。)
 (・・・・。)
 (よし、それじゃあ出掛けるとしようか。)
 ガチャリというドアが開く音がする。気づかれないように角から覗き込むと今しも京子が後ろから付いてくる樫山と共に樫山邸を出たところだった。樫山が玄関に施錠をしているのが見える。陽子は手にした合鍵を握りしめて確認するのだった。

 陽子はすぐにも樫山邸に忍び込むのは控えていた。何時舞い戻ってくるか判らないからだ。しかし、暫く待っていると京子が電車に乗って繁華街へ行くという提案にいいだろうと樫山が答えるのが聴こえてきた。作戦どおりだった。電車で出掛ければ1時間以上は戻って来れない筈と考えたのだ。
 誰も見ていないことを何度も確認してから、陽子は見当を付けていた鍵を鍵穴に差し込む。ガチャリという音と共に鍵穴のキーが廻った。
 (やっぱりこれだった。まずは第一関門は通過ね。)
 陽子は心の中でほくそ笑む。
 玄関の先に見覚えのある応接間が見える。そこは入らずに廊下の奥を目指す。次第に記憶が戻ってきて、最初にこの家を訪問した際にこの廊下から地下室へ導かれたことが思い出されてきた。
 (ここだわ。確かこの階段を降りたのだ。でもそこから急に記憶がない。)
 この階段の途中で何か薬でも嗅がされたのだろうと陽子は推理する。そして地下フロアに降り立って一つのドアが開けられたままになっているのを見つける。
 (ここだわ。)
 入口のドアはドアストッパーが咬まされているらしかった。京子を連れ込む準備をしていたのだろうと陽子は推理する。京子に目隠しをさせて連れ込む為にはドアを開けておく必要があったのだろうと考えたのだ。
 部屋の中は暗かったが、ちょっと躊躇ってからドアのすぐ近くにあるスイッチを入れる。すぐに地下室の灯りが点いた。地下なので明かりは外には洩れない筈だった。
 正面にひとつ椅子があってその真正面に京子が話していたスクリーンが張られている。椅子の反対側の天井にはプロジェクターらしき機械が据えられている。そして、プロジェクターとスクリーンを挟んだちょうど中間ぐらいの場所にビジネス事務所にあるような上半分がガラス窓が張られたキャビネットがあった。薬品庫のようにも見えるそのキャビネットの上半分は、引き戸になっていて、中央には鍵穴のようなものが見える。陽子は手にした鍵束を再度握りしめると、そのキャビネットに近づいていった。その時、陽子の足首を何かが引っ掛かったような感触を感じた。その瞬間、後ろで何かが動くのを感じた。振り向くと、今陽子が入ってきたばかりのドアがすぅーと閉まっていくのが見えたのだ。足首に引っ掛かりを感じた物は釣りに使う糸のテグスのようだった。陽子は慌ててドアへ向かって走っていく。しかしドアは自動施錠になっているらしく、完全に鍵が掛かってしまっていた。すぐ横の床にドアを留めていたらしいドアストッパーの役目をしていた三角形のくさび状の木片が見つかったが、そのくさびにはテグスの糸が付いているのがすぐに見てとれた。それで初めて陽子は樫山の罠に掛かったのだと知らされたのだった。ドアノブは両側から施錠出来るタイプのもので、鍵が無ければ外側からも内側からも施錠されたドアを開けることが出来ないのだ。しかもオートロックになっていて、一旦閉まってしまうと鍵以外では開錠出来ないものだったのだ。


 京子と樫山は、家を離れてすぐに引返し、陽子が家の中に入っていくのを確認して少し時間を置いてから家の中に入ったのだった。それまでの会話はすべて盗聴マイクへのダミーの会話だったのだ。
 陽子が地下室の罠で閉じ込められる音を聞いた後で、樫山は京子に録音された陽子と影野の会話を聞かせたのだった。それは京子には俄かに信じられないような内容だった。
 「前回、君がここへ現れた時にはその間に陽子ってやつが忍び込むのは既に分かっていたからね。だって、防犯カメラで君が玄関の鍵をこっそり開けておくのは写っていたのだから。」
 「えっ、それじゃあ陽子さんが忍び込むって判ってて、家の中へ入れさせたってことなの?」
 「その通り。そして二階の僕の部屋には鍵の型を取ってくださいと言わんばかりに鍵束を机の上に用意しておいたって訳さ。もちろん、玄関の扉以外はダミーだけどね。」
 「それじゃ、今日私が貴方を外へ連れ出した時に、陽子さんが忍び込むつもりだったというのは事前に気づいていたということなの?」
 「勿論さ。そうなるように仕組んだっていうのもあるけどね。」
 「さっき聞かせて貰った音声だけど、影野さんと陽子さんがグルだったっていうのも最初から知っていた事なの?」
 「君が影野って奴の家でパンティを丸見えにしてる写真を撮られたって時に変だと気づいたのさ。それって撮ってたのは陽子って奴だろ。」
 「ええ、そう・・・だけど。でも、その後、その写真をデジカメで見せて貰ったわ。その時はそんな写真じゃなかった筈だけど。」
 「デジカメの写真って、再生モードにする時に拡大モードにすることが出来るんだ。おそらく見せられた時には画面を若干拡大して、スカートの部分は画面外になっていたんじゃないかな。」
 「え、それじゃあ陽子さんはパンティが見えてる事が判ってて撮影して、それを影野に渡したってことになるの?」
 「おそらく拡大して玄関に掲げるようにしたのも陽子ってやつの入れ知恵じゃないかな。」
 「そうなると、その後の事も全て陽子さんが知っていての事なのね・・・。」
 「君は単純に利用されたって訳さ。」
 「何の為にそんな事を・・・。」
 「おそらくはいろんな人を君の魅力を餌に教団に引き入れて、会費と称するお布施を寄付させる為じゃないかな。他にも居るんじゃないかな。陽子に言われて恥ずかしい目に遭わされた男が。」
 「もしかしてあの浪人生の草野って子も・・・。」
 「まず間違いないだろうな。最初にそいつの部屋に行った時に、睡眠薬でも呑まされたんじゃないの?」
 「え、それってやっぱり・・・。あの時、確かにあの人の部屋で寝入ってしまっていたの。それは寝不足のせいではなくて・・・。」
 どんどん明るみになる事実に、京子は正直ついていけないでいた。

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