連行

妄想小説

訪問者



第十二章 新たなる落とし穴


 「今度訪ねるところは若い子よ。でも脈がありそうなの。だから何時もの服装で来てね。」
 電話でそう言われて樫山から着用するように言われているいつもの超ミニのスーツで出てきた京子だった。陽子との待合せはとあるマンションのある一角だった。超高級マンションでもない代わりに、安アパートといった感じでもない。中途半端な感じのマンションで、建築ブローカーがマンション経営を謳い文句にして財テクの為に建てたようなものだった。全ての部屋は埋まっては居なさそうだった。そのマンションから見下ろせる南側にある公園で京子は陽子と待合せていた。少し遅れてきた陽子が京子に手を振りながら、ちらっとマンションの一角に目をやったのに京子は気づかないでいた。
 (やっぱり覗いている。いいカモらしいわね。)
 心の中で陽子は呟いてほくそ笑む。

 ピン・ポーン。マンション4階の一番奥の部屋のドアチャイムを京子が言われて押す。最初に訪問宅に顔を見せるのは京子の役目と決まっていた。
 「どなたですか。」
 マンションの玄関が開いて顔を見せたのは、にきび面の若そうな男だった。
 「あ、草野さんですね。あの現代平和研究所というところから参りました。少しお時間宜しいでしょうか。」
 男はチラっと目線を動かして京子の短いスカートから露わになっている太腿に視線をやる。その時、後ろから陽子が京子の横に出てくる。
 「最近、怪し気な訪問販売が増えてきていて、今日はその手口とかについて注意するパンフレットを持ってきたんです。よろしければご説明させて頂きたいんですが。」
 「そんなに時間が掛からなければ・・・。あ、ここじゃ何だから中へどうぞ。」
 陽子がしめたとばかりに笑みを浮かべる。

 「独り暮らしなんで、何もないんで・・・。床でいいですか?」
 そう言ってベッド脇から座布団代りのクッションを二つ京子たちに薦める。ベッドと勉強机らしいものの他にはこれといって家具の無い殺風景な部屋だった。
 「学生さん?・・・ですか。」
 薦められたクッションの一つを取って床に腰を下ろしながら陽子が尋ねてみる。京子も陽子の隣にスカートの中が覗いてしまわないように慎重に裾をおさえながら斜め座りをする。その裾先に目線を逸らさないように注意しながら男のほうはベッドに腰掛ける。
 「いや、学生っていうか・・・。浪人してるんです。この街の予備校に通ってて。」
 「予備校生で独り暮らしなんですか。」
 「家は田舎なんで、不動産屋をやってる親父にこの部屋を買って貰ったんですよ。まあ大学に入れたら多分転売すると思うんだけど。」
 「あら、いい御身分ですこと。さぞ、勉強に精が出せそうですよね。そうだ、京子さん。貴方、大学出てたわよね。この方の勉強、少し観ておあげになったら。」
 「えっ、私なんかに教えられる事あるかしら。」
 そう言いながらも英語だけは得意だった学生時代を思い出して満更でもない京子だった。

 話の取っ掛かりの為に作ってある悪徳業者の注意書きのパンフレットを説明した後、常套手段で教団の存在と意義を説明するパンフに移る。しかし、陽子はいつになくそれを簡単に済ませた事を京子は訝しく思っていた。すると今度は本当に男の勉強机に移って、勉強しているものを観始めた。
 「あら、英語じゃないの。京子さん、貴方英語は得意だって言ってたじゃない。少し見てあげたら。」
 陽子がそう言い出して結局男の勉強を見てあげることになった。その浪人生は全く英語が駄目で、京子でも難なく教えられそうだった。
 「何かお茶でも出しましょうか。あんまり大したもの、無いけど・・・。」
 「あ、いいの。ペットボトルの飲み物、持ってきてるから。」
 そう言うと、陽子はお茶の入ったペットボトルを一本取出し、蓋を開けてから浪人生に手渡す。
 「はい、貴方にもこれどうぞ。」
 そう言って京子にもわざわざ蓋を開けてやってからお茶のペットボトルを手渡す。
 「ずっと喋りっ放しだったから喉乾いちゃったわ。」
 そう言いながら自分用にもペットボトルを取り出して呑み始める陽子の様子に、京子もそれを口にする。しかし、そのボトルに入っていたのはお茶だけではないのだった。蓋を開けて渡したのは、それが既に開けられたことがあるのを隠す為だった。

 「何だか急に眠くなってきちゃった。このところ、夜眠れないせいかしら。いやだわ。」
 京子がさっきから頭がふらつき始めたのにとっくに気づいていた陽子はそろそろ頃合いだと思い出していた。
 「あら、それなら眠気覚ましにコーヒーでも買ってくるわね。たしかちょっと先にコンビニがあった筈だから。もう少しきりの良い所までその間勉強見てあげてね。」
 そう言って陽子がひとり立上る。浪人生は京子と二人だけになれると思ってか、止めもしないで黙って陽子が出ていくのを見送っていた。
 「大丈夫ですか?」

眠らされた京子

 浪人生が京子のほうに振り返った時にはすでに机の上に京子は突っ伏して寝込んでしまっている。椅子が一つしかないのでベッドの上の机に近い側に腰を掛けて座っていた京子だったが、足元が露わになりかけている。膝元が緩く開いていて、それでなくても短いスカートの裾はずり上がってしまっている。京子を起さないようにそうっと立上ると、京子の真正面で腰を落とす。膝頭の辺りまで顔を下げると目の前に京子の裾の奥が覗けた。薄いストッキングを通して白いパンティが逆三角形に覗いてしまっていた。思わず浪人生は生唾を呑みこむ。
 京子はスー、スーと軽い寝息を立ててすっかり寝込んでしまっている風だった。男はどうしたものかと思案した結果、京子の頬に指を当ててみる。それでも寝入ってしまっている京子は何とも反応しない。指を動かして今度は唇に当ててみる。それでも無反応だった。下手に触って起してしまってもいけないという思いと、ベッドに仰向けに寝させたほうがいいかという思いとが交錯する。遂に思いきって浪人生は机に突っ伏している京子の脇に両手を滑り込ませて持上げると、そおっと京子の身体をベッドの上に導いた。それからベッドの下にだらしなく投げ出されている両脚も下から支えてベッドの上に移す。その動きで京子のスカートは更にずり上がってしまう。

 憲弘は目の前の寝入っている女に見入っていた。女は両手をだらんと万歳の形に挙げて全くの無防備な格好になっている。軽く開かれた膝の上のスカートはすっかり捲れ上って何もしないのにパンティを丸出しにしてしまっている。その股間に縦に走るストッキングのシームの線がその下の恥丘を強調して更に卑猥に見せていた。
 憲弘はそのストッキングとパンティを下してみたい衝動に駆られていた。そう思い始めるとその衝動を抑えきれなくなっていた。
 (今ならもう一人が帰ってくるのにまだ間があるかもしれない。今しかない。今すぐなら・・・。)
 そう思うと勝手に手がスカートの中に忍び込んでいた。すでにズボンの下はパンパンに怒張している。ストッキングの縁を探り当てると、パンティと共に一気に引き下げる。一瞬、京子が眉間に皺を寄せたようだったが、目は覚まさない。それでそのまま膝の上までパンティとストッキングを引き下ろす。そこに見たのは恥毛を失った初めてみる女性の性器だった。
 「はい、そこまでよ。それ以上やったら犯罪になるわよ。」
 びくっとして振り向くと、何時の間にかもう一人の女がデジカメを手に立っていた。陽子が戻ってきていたのだった。
 「あ、いや。何もしてません。まだ・・・。」
 「そうよね。まだ・・・してないわよね。まあ、しょうがないわね。京子さんたら。幾ら寝不足だからって、他人の家で寝込んじゃうなんて。」
 そう言いながら、何事もなかったかのようにパンティとストッキングを引き上げスカートの裾を直してしまう。
 「ちょっとこの毛布暫く貸してくださる。この娘に掛けておいてあげたいの。暫くしたら起きるでしょう。」
 「あ、あのお・・・。写真・・・なんか撮ってない・・・ですよね。」
 「さあ、どうかしら。」
 そう言ってウィンクしてみせる陽子だった。

 「昨日はご免なさいね、陽子さん。まさか他人の家で眠ってしまうなんて・・・。」
 「大丈夫よ、京子さん。貴方、大分疲れていたみたいだし。それにこのところ夜、寝つけないみたいね。」
 「ええ、そうなんです。これから将来の事がとても不安で。いろんな事を思い返してしまうと眠れなくなってしまうんです。」
 「ああ、あの事ね。大丈夫。私に任せておいて。いい作戦が思いつきそうなので。それより、貴方のおかげでまた賛助会員が取れたのよ。あの浪人生。草野憲弘っていったかしら。ただ、貴方が週一回だけ、英語の勉強の面倒を見てくれるっていう条件つきだけど。大丈夫よね、それ位?」
 「え、ええ。私で良かったのなら。でも、恥ずかしいわ。あそこで居眠りをしちゃったんですもの。」
 「気にする事ないわ。あの浪人生も自分に気を許してくれたんだって思っているみたいで、好意的だったわよ。」
 「なら、いいんだけど・・・。」
 自分が迂闊にも訪問先で寝入ってしまってその後の事をまったく憶えていない京子にとっては、何もかもが不安の種だった。

 「じゃ、さっき説明した教団への賛助会員、なってくれるわよね。」
 そう陽子は浪人生、草野憲弘に詰め寄る。
 「そ、そのくらいの金なら、親爺が出してくれるって思うから大丈夫と思うけど。でも、この人。本当に俺なんかの勉強の為に毎週、来てくれるのかなあ。」
 「それは私が請け負うわ。ただ、変な気は起さないでね。例えば机の下に隠しカメラを仕込んで股間を撮影するとか・・・。あ、それからトイレに隠しカメラを仕込むのも無しよ。」
 そう言われて、そんな事を考えもしていなかった自分に改めて気づく草野だった。それはあたかもそういう事をしてもいいのよとそのオバサンにそそのかされているようにも感じたのだった。

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