homonsya3

妄想小説

訪問者



第一章 見られていた訪問者たち


  ピンポーン。
 ドアのチャイムが鳴る。(来たな。)哲男はほくそ笑む。
 ドアを薄めに開けると、先ほど2階から観察していた女二人が立っている。
 一人は、眼鏡の下にきつそうな細い目の、いかにもおばさん風の少し小太りの女。その後ろにはストレートの長い髪のあいだに長い睫毛の瞳が、おどおどした風を見せている若そうな女。一見しただけで、宗教の勧誘だなと分かる。
 「どちら様でしょうか。」
 「最近悪質な訪問販売が多くなっておりますが、その注意を呼びかけるパンフレットを配っています。ちょっとお話しをさせていただこうと思いまして・・・。」
 狐目の女が口火を切った。
 この手の勧誘は、最初の切りだしはさまざまである。宗教とは全然関係ないところから入って、次第にそちらの方向へ話しを持って行くのである。
 少し考える風を見せてから、ゆっくりと哲男も応える。
 「いま、ちょっと手を話せない仕事をしているんですが・・・。もし、良かったらちょっと待って貰えれば、機械を止めてくるので。それから話を聞いてもいいんですが。」
 相手はしめたとばかりに眼鏡の奥できつい目が少しゆるむ。
 「じゃあ、ここで待って居りますから。」
 「いや、すぐ終わると思うけど、よかったら、中に入って待っててもらえる。」
 二人は顔を見合わせる。長い髪のほうは、よけいに不安そうな面持ちであるが、眼鏡のほうは、ここでチャンスを逃してはとばかりに、目配せをしている。
 「どうぞ。」
 哲男は、相手の返事を待たずに玄関のドアを大きく開いて招きいれる。

 1階の応接間に通し、ソファに座らせてから、席を立つ。二人分のお茶を用意するのに殆ど手間はかからなかった。応接間の二人には見えないキッチンで、匂いのつよいジャスミンティーに素早く強い利尿剤をまぜあわせる。

 「ちょうどお茶を煎れていたので、良かったらどうぞ。仕事のほうはすぐ片付くと思いますから。」
 そう言って、二人の前に茶碗を置くと、さりげなく部屋を後にする。
 女たちは、話の準備なのか、鞄に入れたパンフレットをこちらに見えないように揃えて用意を始めている。

 少し待ってと言うには、随分長い時間を見計らって、哲男は応接間へ向かった。奨めたお茶を飲んでいれば、そろそろ効いてくる頃合である。
 「済みません。随分時間が掛かっちゃって。だいぶ待たせたでしょう。。」
 二人の茶碗をさりげなく見ながら哲男は二人のまえに立つ。哲男の思ったとおり、眼鏡の女の茶碗は奇麗に空っぽになっている。長い髪の女のほうは半分ほど口をつけただけである。
 「あ、あの、・・・。」
 眼鏡の女のほうが少しもじもじしたようにしながら切り出した。
 「本当に失礼なのですが、・・・。済みませんが、お手洗いを貸していただけませんでしょうか。」
 あまり恥じらう風もなく、女が言い放った。相手の承諾を得る前に、もう腰を浮かしている。我慢の限界に近いのだろう。哲男はあまりに思うとおりに運んだので、笑いを噛み殺していた。
 「ああ、いいですよ。でも、ちょっと分かりにくいので、今案内します。こちらへ。」
 哲男は待たされるもう一人のおとなしそうなちょっと美しい女に目配せをして、眼鏡の女を連れて応接間をでた。
 長い廊下をまっすぐ歩き、突き当りを折れると地下室に降りる階段がある。
 「済みません。トイレは地下になっているもので。ここをまっすぐ降りて下の左側の扉です。」
 階段の下を差し示し、女を先に行かせる。女が礼を言って哲男に背を向けて階段を降り始める。女が哲男に背を向けたところで、哲男はポケットからクロロホルムをたっぷり湿したハンカチを素早く取り出すと、音を立てないように女の後ろに付いた。
 後ろからさっと口元にハンカチを押し付ける。女は慌ててもがくが、哲男の両腕の力にかなう筈もなかった。しばらくもがいているがしだいに息をするためにクロロホルムを嗅いでしまい、すぐにぐったりとなった。
 意識を失わせるとそのまま女を抱き上げ、階段を降りて足で階下の部屋の扉を押しあけ女を連れ込んだ。
 簡易ベッドの上に女を降ろし、ポケットからビニル紐を出して、女の両手を背中でしっかり括りつける。鼻をつまんで口を開かせると、中にハンカチを突っ込み上から手拭で猿轡を噛ませて、起きても声が出せないようにしてしまう。
 強力な利尿剤を飲ませているので、意識はなくても間もなく失禁をする筈である。
 おばさん風の色気のないだぼっとしたスカートを捲り上げる。パンストの下にベージュのパンティが露わになる。ベッドの下に用意しておいた紙おむつを女の両脚を大きく開かせて、パンティとストッキングの上から穿かせてしまう。こうしておけば、下着はぐしょ濡れにはなるが、ベッドに染み出してしまうことはないだろう。
 そこまで用意すると、女を縛った紐の端をベッドの枠にしっかり括りつけ、ドアを用心深く閉めて鍵を掛けた。こうしておけば、多少騒いでも音が外に漏れることはない。
 哲男は上に戻ると、まず玄関までゆき、故意に大きな音を立ててドアを一旦開き、応接間にも聞こえるようにバタンと閉めた。

 しばらく間をおいてから、哲男はひとり応接間に戻った。
 長い髪の女は怪訝そうな顔をして哲男を見上げる。薄手の淡いピンクのブラウスにこれも薄手の長いフレアなプリーツスカートを穿いている。胸元は清楚な雰囲気を醸すタイを締めている。
 「もうひとりの人ね。トイレにいった後、もう一件のほうを訪問してくるので、あなたに話しをしてほしいと言って、今出ていってしまったんですよ。話が終わったら、この家に戻ってくるので、こちらで待っていてほしいって言ってましたけど。」
 哲男も勝手に言われて困っているんだといわんばかりの顔をしながら説明する。
 明らかに女は困惑していた。が、だからと言って、ひとりで話もしないで帰る訳にもいかないのだろう。哲男の話を疑う風はなかった。
 「あ、あのう・・・。わたしもあまり慣れていないので、うまく説明できないかもしれないのですけれど・・・。」
 そう言いながら、おずおずと女はパンフレットを出して話をはじめた。

 哲男はふんふんと頷きながらも、殆ど話を聞いていなかった。目を紅茶茶碗に移すと、さきほどよりも少し減っている。もう一人がトイレへ行くと言って待たされていた間に少し飲んだ模様である。これならもう直、効いてくる筈である。
 「わたしたちのグループは、こういう事を未然に防ぐために、定期的に集まって、集会を行っているんです。こちらは、その集まりのパンフレットなんですが・・・。」
 「へえーっ、どれどれ。」
 説明を聞く振りをしながら、哲夫はさりげなく女の横に近づいて座る。女は瞬間びくっとした風だったが、何気無さそうに努めて振る舞おうとしている。かがみこんで前に垂れる髪を払って耳にかける。その耳元を哲夫は息を吹きかけんばかりに近づいている。
 「これも見せてくれる。」
 そう言って、哲夫は女が持っていた袋のなかに手を伸ばし、新たなパンフレットを取り出そうとする。哲夫の手が女の腿の上を交差するように伸ばされ、指先が女の脚に触れる。
 女はびくっとして哲夫の反対側に横ずさりで逃れようとする。
 「あっ、痛っ。」
 女が横にずれようとしたときに、尻の下で何かが当たった。薄手のソファーカバーの下に女が手を伸ばすと、冷たく光る手錠が出てくる。
 「なに、これっ。. . . 」
 哲夫は、何でもなかったかのように女の手からそれをひったくる。
 「ああ、これ。この間、甥が遊びに来たときに置いていった玩具の手錠ですよ。ほらっ、ねっ。」
 そう言って、あっという間に女の手を取り手首に掛けてしまう。
 「何するんですか。」
 女には構わず、手錠の反対側をソファの手摺に繋いでしまう。
 「ほらっ、本物みたいでしょう。玩具とは思えない。」
 「いやっ、は、離してください。はやく外して。」
 女は慌てて叫んだ。
 「ああ、大丈夫。玩具なんだから。いま、すぐ鍵で外してあげますよ。ほんの冗談なんだから。」
 そう言って立ち上がると、そばのピアノのほうへ歩いて行き、ピアノの上を探し始める。

 「たしか、この辺に鍵を置いておいた筈なんだが。あっ、あった。」
 哲夫は、小さな鍵を女にかざしながら、女に近づいた。女の手首を取ると女には背中を向けて鍵を外す振りをする。作業がしにくい振りをして、女の身体の上に殆ど乗っかった格好になる。
 「大丈夫、今はずすから。あれっ、やばい。」
 「ど、どうしたんですか。」
 手首を取られたまま不安にかられた女が哲夫に覗き込むようにして声をあげる。
 「鍵が折れちゃった。どうしよう。」
 哲夫は相手に気づかれないようにすり替えた先が折れた替えの鍵を女に見せる。
 女は恐怖に真っ青になっている。
 「でも、たしかもうひとつ合い鍵があった筈だから。ちょっと待っててよ。」
 ソファに手首を繋がれた女を残し、哲夫は立ち上がった。
 「あ、あのう・・・。」
 女は恥ずかしそうに顔を俯いて言った。
 「あの、早くして頂けませんでしょうか。実は、さっきからトイレにゆきたくて仕方がないんです。」
 哲夫は悟られないように顔をほころばせる。
 「それは困った。そのままじゃあトイレに行くって訳にはいかないものね。もう少し我慢できますか。」
 「ええ、でも出来るだけ早くっ・・・。」
 女はもう泣きそうになりながら哲夫を見上げている。ソファは重く頑丈なもので、持ち上げることすら出来ない筈である。
 「もうちょっと我慢して待っていてくださいね。」
 哲夫は他の部屋に合い鍵を探すふりをして、繋がれた女を残し、部屋の外へ出た。
 ドアをわざと開けたままにして部屋の外から、女の様子を気づかれないように伺う。女はもう我慢の限界に近い様子で、じっとしていられないのか、両腿をすり合わせるようにして堪えている。

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