
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第三部
六十二
「分かったわ。これでいいわね。」
思い切りよくスコートを脱ぎ取ったヨンはその下に穿いていたショートパンツ風のアンスコ姿になる。
「え? 何、それっ・・・。」
リは全く想定してなかったヨンの姿に愕然としている。ヨンのアンスコは最初からその格好であったとしてもウェアとして全く自然なコスチュームにしか見えなかった。
「何って、アンスコよ。貴女も穿いているんでしょ、そのスコートの下に。」
実際、見られても恥ずかしくないショートパンツ式のアンスコをリも穿いているので、ヨンを責めることが出来ない。
ヨンは次のホールのTグランドに向かいながらヨン側の証人であるギャラリーの一人に耳打ちする。
「次のホールでは私達より少し先を歩いて常にキャディが見えるところに立っていて。」
ヨンはリとキャディの不正を確信していたのだった。
次のホールではスコートが翻るのを気にしなくていいショートパンツ姿になったことでヨンは却って調子を取り戻していた。一方のリはヨンをへこませる筈が失敗したことで気が立っていたのが悪さして最初のTショットから右へ大きくスライスさせてフェアウェイを外していた。そのリのボールが落ちた場所は高い樹の根元で地面に突き出ている根っこと根っこの間の洞のようになった場所なのだった。
その場所の少し手前に控えていたキャディに向かって他のメンバー達には聞こえないような小声で詰るように言い放つ。
「何で皆が来る前にボールを外に出して置かなかったのよ。ったく、役に立たないわねっ。」
「す、済みません。ボールをこっそり動かそうとした時には既にギャラリーの一人が近寄ってきていて見つかりそうだったのです。」
リの剣幕にキャディはしどろもどろだった。結局そのホールでリはダブルボギーを叩き、バーディを沈めさせたヨンに三打差をつけられてしまう。
「三打差だから二枚かしらね。」
「えっ、二枚? そ、そんなルール、聞いてないわよ。」
「ふふふ。冗談よ。二打差以上なら一枚脱いで貰うっていうルールだわ。」
「で? 何を取れって言うの?」
「勿論アンスコからよ。」
「え? スコートじゃないの・・・。」
ヨンの言葉は予想外だった。最低でもヨンと同じショートパンツ姿になって残りのホールを廻るのだと思い込んでいたリは慌てる。普段アンスコ無しでプレイに出ることを命じられているヨンと違って、リはアンスコ無しでのミニスカートのウェアではプレイなどしたことも無かった。しかもリのその日のウェアはアンスコを着けての試合だったので安心してスィングで裾が捲れ上がりやすいフレアタイプのミニスカなのだった。
次のホールでは先にヨンが打つ。ヨンはショットを打つのに何も気にすることがなく、ショートパンツだと却って自由に腰が触れてボールは真っ直ぐにグリーンへ向かって飛んでゆく。
リの方は初めてアンスコ無しのミニスカート姿でTショットを打たねばならないので緊張していた。男達四人が自分のすぐ後ろでフレアなミニスカートが翻るのを注視しているようで、ボールに集中出来ないのだった。しかもすぐ直前にヨンが見事なTショットを決めていた。リは焦り始めていた。

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