
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第三部
五十九
「ま、待って。貴方たち、誰なの? どうしてここへやって来たの?」
「そんな事、どうだっていいだろ。ここへ来ればやりたい放題出来るさせ子が居るって聞いたからやって来たのさ。」
(させ子・・・? この言葉、どこかで聞いたわ。)
「さ、口を大きく開いてしゃぶりつくんだ。三人も居るんだ。順番で頬張らせてやるから手っ取り早くやって貰おうか。」
そう言うと、男の一人が跪かされたヨンの顔面に半分勃起しかけたペニスを押し付けようとする。
将に男のペニスがヨンの唇をこじ開けようとしたその時に、倉庫の外からけたたましいバイクのエンジン音が響いてきた。
「ん? 何だ、あの音は・・・。」
バイクのエンジン音はどんどん大きくなってきたかと思うと、倉庫の扉が突然蹴り上げられたかのように大きな音を立てて開かれると、倉庫の中にバイクが前照灯を点けたまま飛び込んできたのだった。

「な、何だ・・・。どうしたって言うんだ?」
「や、やばいぜ。こっちへ突っ込んでくるっ。」
倉庫の扉から突っ込んできたのは三台のオートバイだった。乗っているのはフルフェイスのヘルメットをしているので誰なのかは分からない。ヨンを襲おうとしていた男三人は膝までズボンとパンツを下ろしていたので思うように動けない。その男達に向かってオートバイ三台が真っ直ぐに突っ込んできたのだった。バイクの乗り手は手に鉄パイプを握っていて男達のすぐ傍まで走り寄ると鉄パイプを振り回したのだった。
ガツーン。
「あうっ・・・。」
バイクの乗り手が振り回した鉄パイプが襲おうとしていた男達の頭部を襲い、男たちは次々にその場に崩れ落ちる。
三人のバイカーのうちの一人がヨンの方へ走り寄ってくる。
「手錠を掛けられているんだな。両手を目一杯広げて床に手を突いてっ。」
聞き覚えのある声がヨンに投げかけられた。
ガツーン。
言われた通りに手錠の鎖を床に広げたヨンの後手の真ん中に鉄パイプが振り下ろされたらしかった。手錠の鎖は一撃で弾き飛んでいた。
「バイクの後ろに跨ってっ。」
手錠は手首に付いたままだが両手の自由を取り戻したヨンは男の乗っているバイクの後ろに跨ると、両手を男の腰に回す。バイクはそのまま倉庫の扉に向けて走り出し、外へ飛び出ていったのだった。
約一時間後には、ヨンは自分のマンションにマネージャーである鮫津に送り届けられていた。鮫津は器用にヨンの手首に嵌められていた手錠の片割れをヘアピンで外して呉れていた。
「こういう玩具の手錠の鍵は案外簡単な造りで出来ているので、外すのは割りと簡単なんです。」
「あの、オートバイに乗っていたもう二人の人達は?」
「ああ、彼らは私の部下です。いや、もう少し正確に言えば社長の部下ですが。」
「どうしてあそこが判ったんですか?」
「社長に言われて貴女のバッグにGPSの発信機を忍ばせて貰ったんです。それで奇妙な場所に夜中に貴女が出掛けるのに気づいて部下二人とオートバイで駆け付けたという訳です。」
「そ、そうだったんですね・・・。」
そこまで分かると、ヨンはこれまでの経緯を全て知っている限り鮫津に話さない訳には行かなくなってしまうのだった。勿論酔い潰されて記憶がはっきりしない部分は正確に伝えることは出来なかったのだが、「ワカメ酒」という言葉は朧気ながら記憶にあることで何をさせられたのかは想像を含めて何とか伝えることが出来たのだった。
その後、社長の部下であると言われたバイカー二人から鮫津に報告があり、ヨンの恥部を晒して撮られた画像が回収されたことと、襲ってきた三人の半ぐれが彼らの持っていたスマホの通話記録から闇バイトでヨンを襲うことを持ち掛けられたバイトであったことが発覚したことが告げられたのだった。
「彼らはあのパーティとは直接は関係が無かったのですね。」
「そのようですね。しかし彼らが『させ子』という言葉を使ったのだとすると、おのずと首謀者は絞られてきますね。」
「え? すると、タクシー運転手に私を襲うように唆したブーメランパンツを貸してくれたあの男ということですか?」
「いや、それは無いでしょう。彼には貴女を襲うチャンスがその前に何度もあったのですからわざわざタクシー運転手に貴女を襲わせる手助けをする意味がない。」
「え? だとすると、首謀者は・・・?」
「まだ判りませんか?」
鮫津はヨンに謎めいた微笑みを投げて寄こすのだった。
「鮫津さんには首謀者が誰だか分かってらっしゃるのですね。」
「今までの経緯をよおく落ち着いて考え直してみることですよ。あ、それはそうとリ・ジウがデセックスの方にモデルとしての専属契約を持ちかけているというのはご存じですか?」
「い、いえっ。そんなことがあるんですか? でもそれでは私との専属契約は・・・。」
打ち切りという言葉が一瞬ヨンの頭の中を過ぎる。
「貴女はどうなんです? デセックスの専属契約を続けたいですか?」
「も、もちろんです。日本で今後もスポンサー契約を続けて頂いてデセックスの為にもっと活躍をしたいのです。」
「そうですか。ならばもう一度、リ・ジウからの挑戦を受けて頂く必要があります。勿論ゴルフのマッチですが・・・。」
「ん? ですが・・・?」
「そう。通常の試合ではなく、二人だけのプライベートマッチです。それもルールは前回貴女にもプレイして貰ったストリップ・ゴルフです。」
「ス、ストリップって・・・。あの社長のゴルフ仲間だった人達とやらされ・・・、いえ、やったあのゴルフですか?」
「そう。プレイするのは貴女たち二人だけ。しかし試合の結果を正当に評価する為にギャラリーが必要です。それも男性のね。向こうから二人出して貰って、こちらも二人出します。」
「男性四人が見ている前であのストリップ・ゴルフをしなければならないのですか?」
「そう。男性のギャラリーの前でなければ真剣勝負は出来ないでしょう?」
「そ、それは・・・。あの、社長はそれを、つまりストリップ・ゴルフで決着をつけることを望んでおられるのですか?」
「それは勿論。社長が言い出したことですから。どうです、受けて立ちますか?」
ヨンは暫し沈黙して思案するのだった。

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