
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第三部
五十三
自分一人では殆ど乗ったことのない電車を乗り継いで何とか自宅であるマンションに辿り着いたヨンはマネージャーの鮫津が入口の前に立って待っていたことを知る。
「さ、鮫津さんじゃないですか。もしかして、ずっとここで待っていたのですか?」
「そりゃそうですよ。ゴルフ場で突然荷物も置いたままで姿を消してしまって行方知れずになっていたのですからね。」
「リ・ジウさんのマネージャーからは何も聞いていないのですか?」
「リ・ジウさんの優勝祝賀パーティに招かれて出掛けていったとは聞きましたが場所とかは何も教えてくれませんでした。」
「そ、そうですか・・・。確かにリ・ジウさんのパーティに突然呼ばれて行かざるを得なかったのです。」
「中で詳しい事情を聞かせて貰えますか?」
「え? え、ええっ・・・。」
そのマンションはデセックスから供与されている一室なので、当然ながらマネージャーである鮫津も鍵を持っている。しかし鮫津はヨンが帰ってくるまで勝手に中に入るということはしなかったようだった。
「財布も携帯も持っていなかったようですけど、マンションの鍵は持っていたんですか?」
「あ、いえ。でもマンションの郵便受けの中にスペアをいつも入れてるんです。」
「郵便受け? それは危険ですね。鍵は何時も持ち歩いて、置いておかないように。」
「あ、はい。わかりました。」
鮫津を中に招じ入れて珈琲を淹れて出したヨンはどこまで話したものかと逡巡していた。見方に寄っては乱交パーティと言えるその内容は、酔っていて全てははっきりとは憶えていないものの、他人に話せるような内容ではないのは確かだった。はっきり憶えているのは王様ゲームに出させられて警官と麻薬受け渡し人のゲームを犯人役でやらされて、後ろ手錠を掛けられパンチラを余儀なくされた辺りまでだった。下着を提供させられて見知らぬ男性に穿いていた男物のパンツを借りて穿いていたらしいことや、パーティ会場から担ぎ出される際にほぼ全裸状態だったらしいことも朝まで一緒に居た男から聴いていたが、そんなことは言える筈もなかった。
「つまり、リ・ジウと賭けをして敗けた為にリ・ジウが主催する優勝祝賀パーティに出させられたということですね。」
「え、ええ。そう・・・だと思います。何せその時に相当な量のお酒を呑まされてあまり記憶が無いのです。」
「ふうむ。そうですか・・・。」
鮫津の思案顔はただヨンが話した内容だけで済んだ訳ではないだろうと疑っている様子だった。
「ヨンさん。私が思うに、リ・ジウはとても危険な人物だと思います。彼女に逢うのは注意してください。特に二人だけで逢うようなことは出来るだけ避けてください。」
「そ、そうですか・・・。わかりました。以後、気をつけます。」
マネージャーの鮫津が言っている「危険な人物」という表現はヨン自身も何となく感じていたことだった。
その日は鮫津からはそれ以上の追及はなく帰っていったのだったが、鮫津が帰った後、何となく頭に残っていた「ワカメ酒」という言葉が何だったのかが気になって自分のパソコンで調べてみてヨンは愕然とするのだった。ワカメ酒がどういう趣向のもので、自分自身が正座させられ股間に酒を注ぎこまれたことを漠然とながら思い出したからだった。

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