
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第三部
五十六
次の画像では顔半分までが映り込んでいて、ヨンには自分に間違いないと確信出来た。しかもその画像が撮られたのは、王様ゲームの中で自分が麻薬保持犯役にさせられて後ろ手に手錠を掛けられてミニスカのパンチラを隠せない状態にされて留置所代わりに設置された高椅子に座らされた時のものに違いなかった。自分の顔が徐々に露出が多くなってきているのは、元画像では自分の顔がはっきり分かるように写されてしまっていることの警告に違いなかった。
ヨンは完全にパニック状態になっていて冷静さを失っていた。次にやって来た画像ではない初めての文字メールにヨンは従わざるを得ないように誘導されてしまっていたのだった。
『画像ヲ拡散サレタクナカッタラ命令ニ従ウコト』
(画像を拡散ですって? め、命令って・・・。何をしろっていうの?)
メールの文章には具体的にどうしろとは書かれていない。それは何を命令されるのか分からないまま放置されることで心配の余り、更なるパニックに陥るように仕組まれていることをヨンは気づいていなかった。
送られてきた画像をヨンは改めて何度も見返してみる。写っている背景、着ている服などから写っているのはヨン自身で、写された場所はあの乱交パーティの会場に違いなかった。
(リ・ジウの言っていたのは本当だったのだわ。誰かがこっそりデジカメかスマホであのパーティの様子を撮りまくっていたに違いないわ。どうしよう・・・。リ・ジウに相談したほうがいいのかしら。いや、駄目っ。まだどんな醜態まで撮られているのか分かっていないのだし。今のところ送られてきた画像だけなら自分ではないと言い逃れ出来るかもしれない。下手に動くべきではないかもしれないわ。)
そう思案していたところへ今度は電話の着信音が鳴る。発信元は非通知になっていた。
(どうしよう・・・。出たほうがいいのだろうか。)
逡巡している間にも何度も着信音は鳴り響いていた。ヨンは意を決して出てみることにした。
「は、はいっ。ヨン・・・、ヨン・クネです。何方ですか?」
スマホからくぐもったような低い男性の声が聴こえてきた。しかし明らかにボイスチェンジャーのようなもので加工された音声だった。
「送った画像は見たな?」
「は、はいっ・・・。あの画像を撮ったのは、貴方なのですか?」
「あの画像が拡散されたくなかったら、今から15分後にD埠頭の第三桟橋までタクシーを使って来い。着て来るのはあのパーティの時のゴルフウェアだけだ。着いたらタクシーを帰らせて電話を待て。誰にも相談せずに独りで来い。指示はその後、電話する。」
ガチャ。ツー。
それで電話は一方的に切られてしまった。D埠頭の第三桟橋が何処にあって、どの位遠いのか、土地勘のないヨンには分からない。しかし15分というのは殆ど時間的な余裕は無いのは間違いないと思った。
(行くしかないのだわ。そうだ。それで相手の何か特徴を掴めば、リ・ジウに相談して相手を突き止められるかもしれない。)
そう思うとパーティの日に来ていたウェアに急いで着替えると上からコートを羽織ってウェアを見えなくするとタクシーをマンションまで呼ぶのだった。
指示されたD埠頭第三桟橋というのはタクシーの運転手に言うとすぐに分かったようだった。男に指示された時刻を言うと、何とかぎりぎりでその場所へは行けますとタクシー運転手は答えるのだった。

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