
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第三部
五十一
運転手は車をスタートさせると、大通りから逸れて車通りの少ない道を抜けていく。
運転手はバックミラーで後部座席のヨンの方を時々盗み見しながら男が駅のロータリーで耳打ちしてきた言葉を思い返していた。
「今乗せているもう一人の女の客は気づいているかもしれないが女子プロゴルファーのヨン・クネなんだ。あの女、今パンティもブラジャーも身に着けてないんだ。あいつ、実はさせ子だからひと気のない場所に連れていって迫ったらいい思いをすることが出来るぜ。」
「え。本当ですか、お客さん?」
男はサングラスをちょっと上に持ち上げてウィンクして見せる。
「折角のチャンスを逃すなよ。じゃあな。」
運転手は男の言葉を思い返しながらバックミラーを少し動かして後部座席の女のスカートの裾をちらっと覗き見る。
(タクシー券を出させた時、もうちょっとでノーパンかどうか確認出来そうだったのにうまく隠されちまったからな。でもあの慌てようは満更男の言うのは嘘じゃなさそうだな。)
そう思い返しながら運転手はほくそ笑む。

「運転手さん。随分山の奥みたいな場所を通るんですね。」
「ああ、Y市っていうと皆さん都会をイメージするけど、ちょっと郊外寄りに入ると結構自然が多いんですよ。裏道なんでこの山を越えて裏側から元町の方に入ると工事中の渋滞する場所を避けられるんですよ。」
ヨンは山道を登っていく車がどんどんひと気のない所に分け行っていくので不安になりながらも運転手の言葉を信じ切っていた。しかしその場所はぎりぎりY市内にはなるものの、市街地からはかなり外れた霊園建設が予定されていた山の上だった。その霊園そのものは市民の反対運動に依って建設が途中で中止され、ただの丘陵地として放置されていたのだ。山のほぼ頂上に着いたところで運転手は突然車を停める。
「どうしたんですか、運転手さん?」
「ちょっとここで休憩していきましょう。」
運転手はエンジンキーを切ると、キーを差したままドアから一旦降りて、ヨンの居る後部座席に乗り込んで来る。
「え? 何ですか、いったい・・・。」
「ふふふ。愉しいことをしようっていうのさ。さ、手を出すんだ。」
運転手はいきなりヨンの腕を取ると背中の方に捩じ上げる。
「あ、痛いっ。や、やめてください・・・。」
しかし運転手は一向に意にも介さない風でヨンの背中から手を回すともう片方の腕も捉えて背中で合わせさせ、両方の手を親指同士を片方の手でしっかり握ってしまう。ヨンは後ろ手に手錠でもされたように身動き出来なくなってしまう。
「な、何するつもりですか。大声を挙げますよっ。」
「ふふふ。挙げたければあげてもいいけど誰も来ないよ。こんな山の奥深くだから悲鳴ぐらいじゃ誰にも聞こえはしないからね。」
「え、ど、どうしてこんな事を・・・。」
「さっき降りたお客さんに教えて貰ったのさ。あんた、そのスカートの下、ノーパンなんだってね。ちょっと調べさせて貰うよ。」
「い、いやっ。やめてぇっ・・・。」

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