ワカメ酒仕込まれ

凋落美人ゴルファーへの落とし穴



 第三部



 五十四

 ワカメ酒のことを朧気ながらも思い出してしまったヨンは、あの夜のパーティのことはそれ以上は思い出さないように記憶から封印してしまうつもりでいた。しかしその決意もリ・ジウからの電話で脆くも打ち破られてしまうことになるのだった。

電話着信

 その電話はヨンが自宅マンションに居る時に突然掛かってきたのだった。
 「あ、リ・ジウさん。どうしたの、突然電話なんか・・・。」
 ヨンの電話番号は極少数のゴルフ関係者にしか教えてなかったのだが、リ・ジウとはあの試合の前に電話番号を交換していたのだった。
 「ねえ、ヨン。この間のパーティの後、何か変なことなかった?」
 「パーティの後、変な事・・・?」
 ヨンはすぐにパーティの翌朝、自分が下着を借りたという男にタクシーで途中まで送って貰った時に、山の中でタクシー運転手に襲われそうになったことを思い出した。しかし、その事をリ・ジウが知っているとは到底思えなかったのだ。
 「い、いえ・・・。別に特には。」
 ヨンは取り敢えず、その事は伏せておくことにした。
 「そう。実はね・・・。あのパーティの時にこっそりカメラを持ち込んだ奴が居るみたいなの。私のスタッフの一人がネット上で私の醜態のようなものを撮ったらしい写真を見たというの。最初はどうせ合成写真なんだろうと思ってたの。でもその写真を見せて貰ってよくよく調べると、バックに写っているものとか着ている服とかからみて、どうもあのパーティの時にこっそり撮られたものらしいって気づいたの。」
 「え? パーティの時の写真って、どんなシーンを撮られたの?」
 「ほら。パーティの中で王様ゲームとかあったじゃない。あの時、私が王様になった禿げオヤジに無理やりキスさせられたことがあったでしょ。舌とか出されて無理やり唇にねじ込まれた時。」
 ヨンはそんな事があったようには記憶にはなかったが、そもそもあのパーティのことは殆どよく覚えていない。
 「そんな事、あったんだっけ。私、あんまりあのパーティのこと憶えてないの。」
 「そうなの。でも、貴女もこっそり写真撮られた可能性もあるから気をつけて。あのパーティの招待者は全部こちらで把握してるから、いまその犯人を割り出そうとしてるところ。何か変なことがあったら私に知らせて。きっと犯人を割り出すヒントになる筈だから。」
 「え、ええ・・・。今のところ、変なことは何も起きてないけど、もし何かあったらすぐ知らせるわ。」
 そう言って電話を切ったヨンだったが、胸の中でどんどん悪い予感が沸き起こってくるのを止められないでいたのだった。



yon

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