妄想小説
同窓会
九
「ねえ、玲子さん。今度の修学旅行、玲子さんもA班に入るんですって?」
玲子に聞いて来たのは、玲子とクラスのマドンナ1位を争うと男子の間では噂の高い樋口優子だった。
「あ、ええ。そうよ。優子さんも?」
「私はそうだけど。玲子さんはてっきり倉野武クンと一緒のC班にするのだと思ってたわ。」
クラスでは深町玲子とラグビー部の倉野武はこっそりと付き合っているというのはクラス内では公然の秘密なのだった。玲子はじっと優子の真意を窺うようにじっと優子の瞳を見つめる。それから辺りを見回して近くに誰もいないのを確かめてから声を潜めるようにして優子に囁く。
「優ちゃん。ここだけの話だけど、実は倉野クンと付き合ってるって話、あれは嘘なの。」
「えっ?」
「最初は面白半分に誰かが言い出したことだと思う。多分、時任クン辺りじゃないかと思うけど。それでこっそりと倉野クンを呼び出して話したの。『私と倉野クンが付き合ってるらしいって噂が流れてるけど、否定しないでおいて欲しいの。』ってね。」
「え、何で?」
「いいカムフラージュになると思ったからよ。彼、女子の中でも結構人気高いでしょ?」
「えっ、それで彼は何て?」
「『いいよ。』って。『深町と付き合ってるって事になれば、俺の株も上るからね。』ですって。」
「共謀して嘘吐いてるってこと?」
「ううん、互いに否定しないって約束してるだけ。後は周りが勝手に想像してるだけだから。」
「それって、誰の為のカムフラージュなの?」
「それはヒミツっ。」
玲子は意味ありげに微笑むとウィンクしてみせる。
「玲子さん。じゃ、わたしも今宣言しておく。私、この修学旅行中に樫山クンに告白するつもりよ。」
「えっ・・・。」
玲子は突然の優子の告白宣言に絶句する。
「やっぱりね。玲子さん、判りやすいっ!」
「いいわ。私も宣言する。正々堂々とね。私もこの修学旅行中に樫山クンに告白するわ。」
「やっぱりね。でも大変な事になるわ。だってA班って女子率、一番高いらしいわよ。峰岸真理子も樫山クン狙ってるみたいだし。」
「えーっ? 彼女、一年の時から樫山クンと同じクラスでしょ。それにいつもお兄ちゃんに懐くみたいに慕ってるし。樫山クンのほうはつれない感じだけど。」
「あれは樫山クンがわざと避けてるみたいだけどね。何か訳があるのよ、きっと。」
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