妄想小説
同窓会
一
「やあ、悪かったね。最後の最後まで付き合わせちゃって。」
宿の会計を終えて戻ってきた深町玲子を労うように琢也は声を掛ける。
「あら、いいのよ。私こそ、準備段階では何もお手伝い出来なかったんだから最後の会計ぐらいはお手伝いさせて貰ってちょうどいいのよ。」
いつもは会計をやって貰っている同窓会幹事のうちの一人、小堺哲夫が今回は欠席なので急遽、会計の手伝いを玲子に頼んだのだった。
「皆んなは?」
「ああ、さっき次の新幹線まで時間が無いんで、駅へ向かって貰ったんだ。もう僕ら二人だけ。」
「あら、そうなの。でもいいわ。樫山クンと一緒なら。」
何気なく聞き流したのだが、意味ありげな発言と取れなくもないとちょっと思った琢也だった。
「もう次の新幹線には間に合わないから、車で送って行くよ。同窓会の機材とかがあったから車で来ているんだ。」
「あら、嬉しいわ。男の人に車で送って貰うなんて何年ぶりかしら。」
車で送ることを申し出るのは警戒されるかと心配していた琢也だったが、玲子は意外にもあっけらかんと受け入れたのが意外に感じられた。
「じゃ、駐車場から表のロータリーに車、廻してくるから玄関のところで待っていて。」
「ええ、わかったわ。」
琢也は裏口からホテルの裏側にある駐車場まで車を取りに向かうのだった。
「へえ。これ、樫山クンの車なんだ。おっきいわねぇ。」
「そうかな? レンジローバーって言うんだ、これっ。旧型だけどね。」
「なんか、凄くごっつい感じね。」
「ああ、米国の軍事車両を元に作られたモデルだからね。」
「へえ・・・。なんで、そんなのに乗ってるの?」
「まあ大災害に備えてってところかな。あの大地震の後、これに換えることにしたんだ。」
「なあるほど、ねっ。これなら安心って感じだものね。」
「じゃ、出発するよ。」
「はいっ。じゃあ、お願いします。」
そう言って玲子はシートベルトをしっかりと締めるのだった。
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