妄想小説
同窓会
十三
「ちえっ。またあの二人にやられちゃったよぉ。強いなあ。」
そんな声があちこちで響く中、優子は飛びっきりの笑顔を琢也に向けるのだった。
「おい、お前たち。何時までやってるんだぁ。もう消灯時間だぞ。」
突然やってきた付添教員たちの見廻りに、皆はすごすごと男女それぞれの部屋へ戻ったのだった。しかし皆、すぐに寝る訳ではなく布団には潜ったものの、男女それぞれに恋バナに花が咲くのだった。その口火を切ったのが時任治虫だった。
「なあ、ウチのクラスの女子、深町玲子と樋口優子、どっちがナンバー1だと思う?」
「そりゃ、可愛さから言ったら樋口だろう。」
琢也は洩れ聞こえてくるそんな他愛もない話を耳を塞ぐまでも無いと聞き流していた。
「お前もそう思うか。けど、深町の凛々しさも捨てがたいよな。あ、でも俺は元々は深町派だったんだけど、やっぱ樋口派に転向することにしたんだ。」
「何でだよ?」
「ううん、深町は頭良すぎてちょっと着いていけない感じがするんだ。女で頭良すぎるのも困りもんだよな。」
「何だ、そりゃ。お前が頭が悪いだけだろ。でも確かに自分より頭が切れるってのは、ちょっと疲れるかもな。」
「だろ、だろ。だから、樋口ぐらいのがちょうどいいんだよ。」
(樋口ぐらいか・・・。)
どうでもいいと思った琢也はもう寝てしまうことにしたのだった。
「でね、実は優ちゃんから、その夜の翌朝、優ちゃんがまた時任クンから呼出しを受けて返事を訊かれたんで、時任クンとはお付き合い出来ませんって振っちゃったんだって、そう聞いたの。」
「へえ、よくそんな事、樋口さん話したね。」
「それが、その理由ってのが、誰からか言えないんだけど夜中男子たちがこそこそ話していたのを聴いてた人が優ちゃんに告げ口したらしいのよ。優ちゃんならそんなに頭良くないから自分にはお似合いだって時任クンが言ってたよって。それで優ちゃん、頭に来ちゃって『そんな風に女子の事考えるような人とはお付き合い出来ません。』ってきっぱり断ったんですって。」
「そりゃあ、時任のほうが悪いな。でも、よくそんな事を気に話したよね、樋口さん。」
「それが、樋口さんの方もその事があって、樫山クンに告白するのは諦めることにしたって言うのよ。『自分は樫山クンと釣り合いが取れるほど頭は良くないから、私に譲る。』って言うのよ。」
「で、君は何て彼女に言ったの、その時?」
「樫山クンはそんな事、考える人じゃないと思うって。そんな事で女の子を選んだりするような男の子じゃないって言ってあげたわ。でも、彼女その後、泣いてたわ。」
「泣いてた? ・・・。俺、何か悪い事、したかな? 彼女に・・・。」
「あの夜、トランプした時、優ちゃん、琢也クンと組んでたでしょ。それがとっても嬉しかったんだって。それなのに、次の朝、時任クンとの事があって、自分は琢也には相応しくないんだって思い始めたら悲しくなって涙が止まらなくなったんですって。」
「へえ、そんな事があったんだ・・・。」
琢也はあらためて隣の玲子と、もうずっと会ってない樋口優子を思い出しながら比べていた。自分のタイプはというと、確かに優子ではなく玲子のような気がするが、それは決して玲子がT大に受かるような頭の良さがあるせいではない気がしていた。
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