日御碕夕陽

妄想小説

同窓会



 十四

 「確かに難しいもんだな、男と女の気持ちって・・・。」
 琢也はついさっき、玲子が呟いたのと同じ様なことを思わず口にしたのだった。
 「そう言えば、さっき君も告白するつもりだみたいな事を言ってなかった? 告白なんて受けた記憶はないけど・・・。それに、木崎の奴だって、君に結局告白したんだけな?」
 「私たち、あの後、出雲へ行って出雲大社を見学した後、日御碕灯台へ行ったの憶えてる?」
 「ああ、勿論だとも・・・。」
 琢也も忘れていたのだが、玲子に言われてその時の情景がふっと浮かんできたのだった。
 (あれは、確か出雲大社の見学が思いの外遅くなって、その後周る日御碕灯台に向かう頃には陽が傾きかけた頃になったのだった。)

  「おい、樫山。まずいぜ。もう陽が傾きかけてら。このままじゃ、宍道湖に着くころには真っ暗になっちまう。俺、何がなんでも宍道湖に沈む夕陽が見たいんだ。日御碕なんか止めて今すぐ宍道湖へ向えないか直談判して交渉してくるよ。」
 そう言って我々A班のリーダーだった木崎がバスの先頭のバスガイドと運転手に談判に向かっていったのだった。
 「ねえ、樫山クン。日御碕ってどんな所なの?」
 一つ後ろの席から聞いてきたのは女子グループのリーダーのようになっている深町玲子だった。居なくなったリーダーの木崎の代りになって樫山が答える。
 「日本海側有数の夕焼けの名所で、中でもそこにある日御碕灯台は石造物の灯台としては日本一の高さがあってそこからの眺めは絶景なんだ。」
 「へえ、詳しいのね、樫山クン。」
 「いや、別に。折角行くのだから、どんな所か事前に調べておいただけだよ。」
 「日御碕灯台の絶景・・・? 何か興味深いわね。」
 「このままだとあまり時間は無さそうだから、僕は走ってでも見に行くつもりだよ。」
 そうこうしてるうちに木崎が交渉は決裂したらしく、しょげ返ってバスの最前列から戻ってきたのだった。
 「ちえっ。宍道湖の夕陽はもう絶望的だな。もう、どうでもいいや。」
 「なあ、そんなに落胆すんなよ、木崎。日御碕の夕陽だってそんなに捨てたもんじゃないぜ。」
 しかし木崎は聞く耳持たずという感じだった。

玲子

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