妄想小説
同窓会
四
「お願いっ。独りにしないで・・・。」
「えっ・・・。」
突然強く握られた手を振り解くことも出来ないまま、毛布をもう片方の手で手繰り寄せると玲子の上にそっと掛けてやる琢也だった。
「ごめん。我が儘ばかり言って・・・。」
「気にするなよ。具合が悪くなる事なんて、誰にだってあるさ。」
そう言いながら玲子の上に掛けた毛布を直そうとすると、玲子の手が琢也の手をしっかり握りしめたまま、その毛布の中へ引きずり込もうとするのだった。
「わたしを抱いてっ・・・。」
玲子が声を掠らせながら、そうやっと口にした。玲子の手は琢也をもう放さないとばかりに恋人繋ぎに手を繋ぎ直していた。琢也は玲子の息遣いが苦しそうではなくなっているのを確認する。
「ちょっと待って・・・。」
琢也は身を半分ベッドから起して辺りを見回す。琢也の目に入ったのは、室内に予め準備されてハンガーに掛かっていたタオル地のバスローブのベルト代りの腰紐だった。その帯状の紐を手にすると玲子が身を横たえているベッドの上にあがる。そして玲子をそっと、しかし力を篭めて俯せにすると手首を捉えてその紐を巻きつける。
「え、どうするの・・・。」
答えるより先に、琢也は背中に回させた玲子の両方の手首にバスローブの腰紐を巻きつけるとしっかりと結び合せ両手の自由を奪ってしまう。しっかりと両手が括り付けられていることを確認すると、今度は再び玲子を仰向けに向き直らせその上に跨る。
「ど、どうして・・・?」
問い掛ける玲子の目は、しかし怯えた様子はない。
「君に良心の呵責を感じさせない為さ。そして途中で躊躇って引返すこともさせない為にさ。」
そう言うと、琢也は玲子に覆いかぶさるようにして唇を奪う。
縛られて琢也の口づけから逃れる術もないまま身を任せていることに、玲子は不思議な安堵感を覚えていた。
(良心の呵責・・・。そうだ、私は不倫をしているのだわ。)
夫の顔が一瞬浮かびかけて、それがたちまち唇の感触の中に消え去るのを玲子は不思議な気持で受け止めていた。背中の下で交差している自分の手首に力を篭めてみる。しかし自分の力では両手はどうにも出来ないのを確かめる。そしてその事が何故か自分に安心を与えてくれるのを感じていた。
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