助手席玲子

妄想小説

同窓会



 二

 「樋口優子さん、今回も欠席だったね。」
 「え、樋口さん? やっぱり樫山クンも気になるの?」
 「や、気になるって訳じゃないけど・・・。彼女、毎回同窓会の誘いにメールにはきちんと返事を呉れるんだけど参加は全くしないから。」
 「あ、そうなんだ。」

樋口優子

 「仕事が忙しいのかなあ。確か彼女はプロのピアニストになったんだよね、音大出た後。」
 「そう聞いているわ。わたしも一度はピアニストを目指したんだったけどね。」
 「高校の頃は競ってたよね、ピアノの腕前を彼女と・・・。」
 「いや、そんなんじゃないけど。私もピアノは子供の頃からずっとやってたから。でも勉強とは両立出来なかった・・・。」
 「君は君の生き方でよかったんじゃないか。僕はそう思うけど。」
 「彼女、今はどんな感じなのか興味はあるわね。」
 「彼女に参加して欲しいって男性同級生は多いみたいだしね。」
 「そうね。彼女はクラスのマドンナって存在だったものね。」
 (そう言う君だって)という言葉をうっかり出しそうになって呑みこんだ琢也だった。琢也は急いで話題を換えることにする。
 「そう言えば、深町さんを車で送るって初めてだよね。」
 「ええ。だって、高校卒業以来、同窓会でしか逢わないもの。同窓会は基本的にお酒を呑むから車の運転はしないでしょ。」
 「まあ、そうだね。今回みたいな宿泊付きでもない限りね。君は運転、するの?」
 「ああ、ええ。子供が小さい頃は送り迎えとかあったし。でも私は車は乗せて貰う方が好きなの、今でも。」
 「ふうん・・・。じゃ、同窓生の車とか、乗せて貰ったことはないんだ。」
 「ううん。一度だけ・・・、あったかしら。」
 「へえ? 誰に?」
 「学ちゃんよ。まだ大学生だった頃。彼って、おぼっちゃまでしょ。大学生の時にはもうマイカーを乗り回してたわ。勿論、親に買って貰った車だったみたいだけど。」
 「へえ、そうなんだ。」
 琢也は玲子の口から出た鎌田学という意外な男の名前にいささか驚いていた。鎌田は学友だった頃からいわゆる名うてのプレイボーイという奴で、大学生でもいかにも車なんか乗り回していそうだった。しかし玲子と鎌田の組合せというのはどうにもしっくり来ないのだった。

玲子

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