妄想小説
同窓会
十一
それは修学旅行最初の夜のことだった。班長である木崎が率いるA班が泊ったのは錦帯橋近くの老舗の宿屋、錦帯館だった。夕食の後、誰が言い出すともなく夜の散歩に出ようということになって男女それぞれが一団となって夜の錦帯橋へと繰り出したのだった。ライトアップされた橋と橋を抱くように聳える山頂の岩国城だけが夜の闇に浮かび上がっていて、散歩していてもお互いの顔がぼおっと暗闇の中に微かに見て取れるだけなのだった。宿の下駄の音がそこかしこでカラン、コロンと音を立てている。男女それぞれはグループになって移動していくのだが、それぞれの思いは、意中の異性と二人だけになるチャンスを狙っている。しかし同性のライバルたちがお互いを見張っている感じで、なかなか男女が二人きりになれるチャンスは無いのだった。
そんな中、一人で遅れた樋口優子が仲間達に追いつこうと慣れない下駄を鳴らしながら女子グループを追って小走りに向かおうとした時だった。
「樋口さあん。」
聞き覚えのある声に優子が振り向くと、幼馴染というほどではないが中学時代から同じ学校で、高校にあがってから不思議と同じクラスになっている時任治虫だった。
「あらっ、時任クン。どうしたの?」
「出遅れちゃったんだろ。僕もさ。あのさ、一緒に行かないか。」
「あ、ええっ・・・。」
特に断る理由もなく、二人並んで歩き始めるが、時任はやけにゆっくりだった。
(ねえ、もう少し急がないと皆には追いつかないわよ。)そう言おうと喉元まで出掛った時に隣の時任がいきなり切り出したのだった。
「樋野さん。あ、優子ちゃん。僕、前から君の事、好きだったんだ。僕と付き合ってくれないか。」
全く予期してなかった告白だった。男の子から告白されたことも初めてだった優子はどうしていいか狼狽える。
「あ、あの・・・。えっと・・・。」
その時、少し離れたところから声が聞こえたのだった。
「優ちゃーん。遅いわよぉ。早くぅっ。」
優子の親友の宮地真帆だった。
「あ、真帆だわ。ごめん、時任クン。また今度。真帆ーっ、今行くからぁー。」
真帆の声掛けを助け舟に、時任にペコリと頭を下げると宮地真帆の方へ走って行く優子だった。
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