妄想小説
同窓会
十
「へえーっ。女の子たちの間ではあの時、そんな話があったのか。」
「そうよ。私、優ちゃんとは仲は良かったほうだけど、結構競い合ってもいたから。」
琢也は玲子がクラスの男子の間での人気をとは言わなかったが、実質人気を二分していたのは事実だった。そして玲子が言っているのはピアノの腕前であることも分かっていた。
「君たち、ピアノの腕では結構負けず嫌いって感じだったからね。」
「そうね。私もピアニストを目指そうと思った時期はあったんだけど。結局彼女だけが音大に進んだのだったわ。」
(その代り、君は現役でT大に合格したんだけどね。)
琢也はそう思ったが口には出さなかった。
「真理子には悪い事したかなあ?」
「え、どうして・・・?」
「実は、真理子も親友の憧れの人だったんだ。知らないかな、古沢俊彦っていうんだけど。」
「知ってる。一年の時、一緒だったんでしょ。樫山クンも真理ちゃんも、そしてその人も。」
「彼も電車が同じ方向だったから、毎日のように真理子の事を聞かされていたんだ。特に古沢が二年になってクラスが分かれて、僕と真理子だけが同じクラスになっちゃってからは。」
「親友の憧れの人だから、つれなくしてたっていう訳?」
「必要以上には親しくならないようにだけどね。彼に悪いから。」
「ふうん・・・。」
樫山が二人の親友から自分と真理子が憧れの人だと打ち明けられていたのだと知るのは複雑な気持がしたのだった。
「それで、私でも真理子でもない別の人が好きになったのね。」
「まあ、それでって訳でもないんだけど。結果的にはね。」
「うまくゆかないものね、男女のお互いの気持ちって。」
玲子は再び、修学旅行当時の事に思いを馳せるのだった。
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