暮れる山間

妄想小説

牝豚狩り



第一章 女捜査官の危機

  その8


 その時、遠くから更にもう一台の車が近づいてくる音が聞こえてきた。同じように土煙りをあげながら近づいてくる。三人の男達が乗ってきたジープ型のより大きい四輪駆動のワゴン車だった。おそらく冴子が最初に連れ込まれた時と同じ車なのだろうと冴子は思った。
 テーブルから少し離れたジープの横に停められたワゴン車から、四人の男が降りてきた。運転席から最初に降りた男はサングラスをしていて、すぐに冴子を拉致した男だと気づいた。その男が後部のドアに向かい、開くと中から三人の男が出てくる。体格は様々だが、皆一様に頭をすっぽり包む目無し帽を被っている。目と鼻と口のところだけが孔であいているマスクのようなものだ。
 (あれがお客なのね。)冴子はすぐに悟った。
 運転手の男が三人を丁寧に招くような格好で引き連れて、冴子の近くにやってきた。
 「準備は整っているか。」
 リーダー格らしいサングラスの男が訊ねると、三人が声を揃えて「はい。」と答える。
 「よし、それじゃ、要領を説明させていただきます。」
 サングラスの男が三人の客らしい男達に説明を始めた。
 「今回のお客様は便宜上、お医者様、政治家様、実業家様とお呼びさせていただきます。宜しいですね。」
 サングラスの男が顔を向けると、三人は一様に声を出さずに頷いた。
 「政治家様は二度目ですし、実業家様は確か三度目でしたよね。ですから、あまり説明しなくても要領は大体心得ていらっしゃるかと思います。お医者様は初めてですので、一応全部説明させていただきます。
 今回の獲物はこちらの女性です。ここでは<牝豚>と称す慣わしになっております。宜しいですね。この獲物については、後ほどもう少し詳しく説明させていただきます。
 このゲームのルールを次に確認させていただきます。ゲーム開始は7時丁度、このピストルの音を合図と致します。終了は、明日の朝、同じ時間。その時もピストルにて合図させて頂きます。
 尚、こちら、三方のどなたががその終了時間までに見事、牝豚を捕獲し、この場に拉致してきて、そうですね。この樹の幹に繋ぐことが出来た時点で、ゲームセットとさせていただきます。
 明日の朝、この時間までにどなたも捕獲出来なかった場合は、牝豚の勝利ということで、獲物はどなたもお持ち帰りできません。
 事前のご案内にもありましたように、ゲーム参加者の無用な争いを避ける為に、メンバーのどなたかが、牝豚の身体の何処かに鎖を繋ぐことが出来た時点で、その方にここまで連れ帰る権利が出来たものとし、他の方は一切手出しが出来ないルールと致しますので、くれぐれも間違いのないようにご確認ください。尚、ここまで連れ帰る途中で鎖を取り逃がした場合は、この権利はなくなり、他の方が捕獲することは可能になります。鎖で挽いていかれる間は、参加者同士が争うことがないように、くれぐれも宜しくお願い申し上げます。
 使える武器はここに用意してありますものをどれでもご自由にお使いください。エアガン、スタンガンは獲物に充分な衝撃とダメージを与えることが出来ますが、殺傷する能力はありませんので、安心してご使用ください。
 宜しいでしょうか。尚獲物は、首輪と後ろ手の手錠で拘束したまま放ちますが、足枷は外しますのでお気をつけください。それでは、今回の獲物をご覧になりながら、プロフィールについて紹介させていただきます。」
 それを合図に、客らしい三人の男たちは冴子のほうに近寄ってきた。
 「まだ、ゲーム開始まで、お手は触れにならないでください。お楽しみとして取っておいたほうが、狩りに費やすエネルギーが倍増いたします。見るだけになさっていただきます。」
 男たちはマスクの孔から、三人三様に、冴子の美貌や、剥き出しにさせられた乳房、短いスカートから屈むだけで覗くショーツなどを目をぎらつかせながら検分している。
 サングラスの男は得意になって説明を続けていった。
 「今回、牝豚狩りを楽しんでいただく獲物は、これまでのどの獲物よりも、上等のものであるとまず自慢させていただけるのではと存知ます。
 今回のは、正真正銘の警視庁特別捜査官の資格をもつ、訓練されたプロの女刑事です。皆様方の陵辱欲を、飽きさせることなく掻き立ててくれる筈です。今回の料金が格別のものであったこともご納得頂けるものと存知ます。」
 自分の説明が、これほど詳しくされるとは冴子も思って居なかった。説明を聞きながら、拉致された時に携帯していた身分証も奪われ調べられたのだということを悟った。
 「しかし、訓練を受けた女戦闘員のようなものですから、この手のゲームに慣れた方々とは言え、ハンデをつけなければ危な過ぎて立ち向かえないということで、皆様方には多少ご不満かもしれませんが、昨夜から多少は弱らせております。
 昨日の昼過ぎからこの状態で吊るしておりますので、多少足腰の筋力は弱っている筈です。おそらく今放っても、膝はがくがく震える状態の筈です。食べ物、飲み物は昨夜から一切与えておりません。が、この山野ですので、湧き水ぐらいは獲物も見つけることが出来ることはご了解ください。首輪に繋いだ手錠は安全の為、三重に掛けますが、足枷は追いかける楽しみを奪いますので、外してから放ちます。足技にはくれぐれも用心ください。」
 サングラスの男の説明は、冴子に向けたものでもあったようだ。自分が連れてこられた事態がだんだん飲み込めてくるにつれ、顔面から血の気が引いていくのが感じられた。
 (この男達は、こんな酷いことを企画しているのだ・・・。しかも、その悪辣なゲームの餌食に自分がされようとしている・・・。)
 武力には長けている冴子だ。闘って負ける相手と感じた男はそうは居ない。しかし、幾ら脚だけは自由にされるとは言え、手の自由が効かないのはハンデとして大き過ぎる。しかも、テーブルに並べられた武器のそれぞれは、明らかに冴子の抵抗力をじわじわと奪いながら追い詰めていくことを想定して用意されたものであるのをひしひしと感じる。冴子には逃げおおせるかまだ自信が無かった。
 「それではゲームを始める前に、今回の獲物がどれだけのものか試技によってそのレベルを把握いただきたいと思います。皆様方はどうかこちらにもう少し下がって観ていていただきます。
おい。」
 サングラスの男が顎で合図すると、中背の男が冴子を吊っている縄の反対側の端へ走っていって準備する。
 「ジャック、お前はお預けをずっと食っていて疼いているだろうから、試技はお前にやらせてやろう。どうだ。」 
 おそらく偽名であろうジャックと呼ばれた小男は、待ってましたとばかりに相好を崩す。
 「キング、お前はまさかの時の為に控えていろ。」
 サングラスは大男に声をかけ、ちょっと鈍重そうな男が腕を組んで頷く。
 「じゃ、まず足枷を外せ。用意が出来たら、首吊り縄の反対側を解け。牝豚が丸太を降りたら試技開始だ。牝豚が参りましたと叫んだらゲームセットで、ジャックお前の勝ちとする。お前のほうが参ったと言ったら牝豚の勝利だ。いいな。参ったと牝豚が言うまでは、どんなことをしても許す。好きな用に犯してもいいぞ。」
 冴子は非情なサングラスの男の話に額から汗が流れるのを感じた。しかし、それで居て、この男は、ジャックと呼ばれた男が「参った」というであろうことを予測しているように思われた。
 小男が足枷の鍵を外している。両方の鍵が外れてやっと足が自由に使える。しかし、既に膝はがくがく震えている。鍛えられているとはいえ、苦しい格好を一晩中強いられてのすぐは膝にも力が入りにくい。
 「よし、縄を外せ。」
 男の合図で首の自由を奪っていた縄が外された。しかし首輪からは外れていないのでその長い縄を引き摺るようにして逃げ回らねばならない。いや、逃げ回っていてはいつか捕まって陵辱を受けるだけだ。冴子は相手を倒さねばならないということをはっきり理解していた。
 ジャックは冴子の動きを慎重に窺っていた。まわりの客たちも固唾を呑んで展開を見守っている。
 冴子は丸太から後ろに向って飛び降りた。案じていたとおり、膝に上手く力を入れることが出来ずに尻を付いて転んでしまう。短いスカートからその奥に白い下着が観客たちに覗いてしまう。しかし冴子はそんなことに構っていられなかった。
 すぐ体勢を立て直し、いつでもジャックが飛び掛るのに対処出来るように身構える。
 最初に飛びついてきた時は、身を転がすようにして捕えられるのから逃れた。ジャックの手は空を切った。が、すぐに首から長く垂らしているロープに手を伸ばした。ロープさえ掴んでしまえば、後は手繰りよせるだけで、簡単に獲物の自由を奪えるとジャックは必死だった。
 その一瞬の隙を冴子は見逃さなかった。ジャックの注意が縄を捕えるのに向いた瞬間に鋭い蹴りがジャックの頭を襲った。一瞬、気を失いかけて倒れこんだジャックの腕を見逃さずに後ろ手のまま背中で捕えると、逆に捻りあげた。冴子も必死だった。脚を開いて、スカートからパンティを丸見えにしてしまいながらも、倒れこんだジャックの背中に後ろ向きに乗り上げて腕を捩じ上げた。
 「畜生、このアマっ。離せ。」
 ジャックも必死でもがいたが、背中で捩じ上げられた手はそう易々とは冴子の手から離れない。もう一方の自由なほうの手を後ろに伸ばして、冴子に何かの打撃を与えようとするが、その度に腕の骨が折れそうになる激痛に、無駄に宙をさまようだけだった。
 「ま、参った。」
 遂にジャックが折れた。あっと言う間の出来事だった。
 「よし、ゲームセットだ。残念だったな、ジャック。おい、牝豚。もう放してやれよ。」  冴子はここで手を離せば、ジャックがどんな仕返しをしてくるか心配ですぐには腕を放せなかったが、所詮、ジャック一人を倒したところで冴子に勝ち目のないのは目に見えていた。  冴子はゆっくりジャックの腕を放し、立ち上がった。

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