見下ろす林道

妄想小説

牝豚狩り



第一章 女捜査官の危機

  その13


 敵は一人ではない。冴子は迅速に行動した。自分の手首から外した手錠を「政治家」と呼ばれた男に後ろ手に掛け、今まで自分が掛けられていたように首輪も嵌める。素人なのでそこまでは必要ないと思われたが念をいれたのだ。
 仲間を呼ばれては困るので、口にハンカチを突っ込んだ上で、ロープで頑丈に猿轡をかませる。そうしておいて、手首の手錠にロープを通して樹の枝にくぐらせてから、反対の端を足首に結わえ付け、逃げ出せないように固定する。男はまだズボンのチャックからだらしなく陰茎を出したままだ。それは既に可哀相なほど萎え果てていた。
 そうしておいて、冴子は男の荷物から武器として使えそうなものを物色した。使えそうなのはスタンガンと手錠ぐらいだった。それらを革のミニスカートの上に巻いていたベルトのうしろに挟み込んだ。それからふと思いついて、一旦は男の首に巻いた首輪を外し、自分の首に巻きなおした。それも計算のうちだった。
 冴子は樹に固定された「政治家」を残して、今度は沢を逆に登り始めた。手が自由になると冴子の動きは一層機敏になった。野山を走り回るのは、散々訓練をして慣れている。
 土地勘を掴む為に、男の荷物の中に地図がないか探ったのだが、それは見当たらなかった。サングラスの男は初めてではないと言っていたので、不要だったのかもしれない。
 沢から林道へ這い上がると、再度林道を外れて今度は尾根の頂きを目指した。敵の位置を把握する為だ。180度ぐるっと曲がってきている林道を見下ろせる頂きに登りつめて身を伏せて辺りを窺う。
 冴子が次の敵として狙いをつけていたのは、さっき闇雲にエアガンを撃ちまくりながら走っていた「お医者様」と呼ばれていた若そうな男だ。一番組し易そうなのと、初めてということで地図を持っている可能性が高いからだ。
 尾根の頂きに身を伏せて、敵を待ちながら、冴子はお客と呼ばれた男達のことを考えていた。
 サングラスの男の言いっぷりでは、こんなゲームをやるのに、かなりの金を積まされているようだった。「医者」、「政治家」、「実業家」というのもまるっきりの出鱈目ではないのかもしれない気がした。普通の性行為ではもはや満足を得られず、金に任せて、猟奇的なプレイを愉しんでいるのかもしれない。
 おそらく、彼等には、嗜虐的なSMプレイでさえも、もはや充分な満足を与えてくれないのかもしれない。少なくとも、「事業家」と呼ばれた男は、こんな擬似ハンティングプレイの為に、日夜身体を鍛えているような雰囲気さえ感じられた。おそらくそうなのだろう。
 「政治家」も、こんなプレイを初めてではないと言われていた。おそらくこれを企てたグループにそそのかされて、乗せられたのだろう。自分のような鍛えられ訓練をつんだ女性をいつも相手にしているとは思われない。か弱い女の子を恐怖に陥れて走らせ、追いかけて捕まえるのであれば、あの程度の剣道の腕でも充分なのかもしれない。それにしても危ないところだった。一歩間違えば、思うが侭に陵辱されていたかもしれなかった。
 投網で自分を捕らえたことで、有頂天になっていて油断したのが墓穴を掘ったとも言える。もっと冷静でいたら、投網の上から抑えつけられた時に、外れている手錠に気づかれたかもしれなかった。外しかけた手錠に気づかれ、それを外したヘアピンも奪われて再び掛けられていたら、万事休すだった。三重の手錠に、首輪とを繋ぐ鎖という拘束具は、訓練された自分にもぎりぎりの設定だった。捕えられて陵辱されていてもおかしくなかった。
 (しかし、まだ終っていないのだ・・・。)
 冴子は改めて身を引き締める。

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