車内の二人

騙された新人女優とマネージャー



 第一部



 三

 突然の成り行きに戸惑う由里だったが、監督の意向であれば無視も出来ない。助手席に乗るのはさすがに憚られたので後部座席のドアを開けて乗り込んだ由里だった。
 「今日は早目にあがったから、まだ時間あるよね。実はさ。明日の撮影までに少し演技指導してくれないかって監督に頼まれちゃってさ・・・。ほらっ、撮影日程。かなり押しっちゃってるだろ。監督も結構、それを心配しててね。これ以上、日程が延びると不味いっていうんで・・・。」
 その一言に由里は全責任を感じる。
 「済みません。全部、私のせいです。」
 「ああ、そんな気にすることないさ。若い女優さんにはよくある事だから。」
 「そ、そうなんですか? でも、申し訳ないです。剛さんだって、お忙しい身なのでしょうから。」
 「あ。それは気にすることないよ。僕だって、このドラマの成功には全身全霊で取り組んでいるんだからね。」
 「そ、そうです・・・よね。」
 それは売り出し中でやっとドラマのヒロインの役を千載一遇のチャンスで得た由里にしても同じことだったのだ。

 「え? で、何処へ向かうんですか。これから・・・。」
 後部座席に身を沈めた由里は、見慣れぬ景色に若干の不安を憶える。
 「あ、監督が懇意にしている人から借りた別荘だよ。スタジオじゃ、周りのいろんな人の目があって演技に集中出来ないだろうからって。わざわざ借りてくれたらしいんだ。撮影でも何度か使ったことがある家らしい。」
 「へえ~っ。そう・・・なんですか。」
 高速を使ったせいもあるが、一時間もしないうちに剛の運転するRV車はかなりの勾配の坂道をどんどん上へと昇っていく。
 やがて二人を乗せた車は一般道から外れて別荘の私道らしい細い一本道を更に奥へと入っていく。
 「あ、これだな・・・。」
 剛の声に由里も車の外へと目をやる。かなり山の奥深いところらしく、辺りには他に人家は見えないが大きな冠木門が中央にある白い外壁がずっと続いている。冠木門はきっちりと扉が閉ざされていて、剛は車をその冠木門の前を通り過ぎさせ更に奥の壁の途中に穿たれたガレージらしい閉まっているシャッターの前で車を停める。
 「えーっと、これかな?」
 剛が車の中から借りて来たらしいガレージのリモコンを翳すと、微かな音を立てて閉まっていたガレージのシャッターが上にするすると開いていく。
 「こっちだと思うよ、由里ちゃん。」
 剛はリモコンで再びガレージのシャッターを降ろすと一つだけある扉のひとつを開けて由里をその向こう側へと導く。



yuri

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