騙された新人女優とマネージャー
第一部
二
「由里ちゃーん。今日はもう上りなんですって?」
遠くからマネージャーの茉莉が近づいてくる。
「あ、茉莉さん。ええ。今日は何か調子が乗らないみたいで・・・。」
「まあ、そういう日もあるわよ。明日また頑張ればいいのよっ。ドンマイ、ドンマイっ。じゃ、いま車、回してきて貰うからねっ。」
「あ、はいっ。」
何時ものようにマネージャーの由里に付き添って自宅へ送り届ける車を待つつもりだった茉莉に助監督の竹下が声を掛ける。
「あの新垣さん。このあと、ちょっと時間ありませんか? 監督が次の映画のオーディションについて相談したいって言っているんです。」
「え、この後すぐ? この子、送っていかなくちゃならないし・・・。」
「あ、由里さんなら監督がタクシー、呼んでるそうです。」
「え、そうなの・・・? じゃ、由里。今日は独りで帰っておいてくれる? また、後で連絡するわ。」
「あ、大丈夫です。独りでも帰れますから。」
「そう。じゃ・・・。えっと。で、監督は?」
「はいっ。あちらで剛さんに何か指示なさっています。ちょっとお待ち頂けますか。」
助監督が指し示す少し離れたところには監督の宇藤が由里の相手役の男優、進藤剛に何やら指示を出している姿が認められた。剛がわかりましたとばかりに監督に頷いて一礼するのを見届けた茉莉はゆっくり監督の方に近づいていく。
監督が手配してくれたというタクシーを撮影所の玄関で待っていた由里の前に一台の見慣れない車が停まる。外国製の車高の高いRV車と呼ばれるタイプだということは車に詳しくない由里にも分かった。その運転席の窓ガラスがスーッと降りるとサングラスを掛けた男性が由里の方に手を挙げて合図している。その男性がサングラスを上に少しずらしたので、今撮っているドラマの相手役である進藤剛だとすぐに気がついた由里だった。
「え、剛さん・・・。どうして?」
「ああ、監督に送っていくように頼まれたんだよ。さ、乗んなよ。」
「そ、そうなんですか・・・。わ、わかりました。じゃ、お願い・・・、します。」
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