騙された新人女優とマネージャー
第二部
二十一
「あ、由里ちゃん。今日の場所は最上段のひな壇の左端なので、この階段から上に昇ってください。」
「あ、はいっ。こっちですね。」
アシスタントディレクターの芦原の指示で何気なくひな壇の横に設置された階段を昇り始めた由里だったが、途中でスカートの下に何も穿いていなかったことを思い出して慌てて裾を手で抑える。
(あれっ?)
階段を昇っていく由里の姿をチラっとだけ見上げた芦原だったが、由里が振り向いたので慌てて視線を逸らしたのだったが、芦原の目に映った残像には見えていた筈の白い下着はなかったのだった。
(ま、まさか・・・。ノーパン?)
ひな壇の最上段まで辿り着いた由里は、さり気なくスカートの裾を抑えながら自分の席に移動していったのだが、最早スカートの裾の奥は覗くことは叶わなかった。
「おっ、杉崎じゃないか。今日も撮影の練習か?」
由里がひな壇の自分の席に着くのを見計らってから撮影フロアの現場に戻ると、大学の放送研究会での後輩だった杉崎慎一郎がカメラマンの末席に控えているのに気づく。杉崎は芦原の口利きで、今は同じテレビ局の見習いカメラマンとして何とか採用に漕ぎつけたのだった。
「ああ、芦原さん。そうなんです。僕なんか本番のカメラマンの一員には加われないんですが、その横で撮影機器だけは扱わせて貰って今は練習をさせて貰っているんです。」
「ちょうどいい。今日は俺はフロアでディレクターからの指示を受けてカメラを切り替える指示をするんだ。本番にお前のカメラの映像をまだ使う訳にはゆかないが、編集の際のインサート用の映像は撮らせてやる。まだカメラがブレてしまうから被写体を追わせるのは無理だろうから固定で撮影するんだ。」
「わかりました。何でも言ってください、先輩っ。」
「よし。あそこのひな壇の一番上の左の端に新人の女優の卵が座ってるだろ。あの娘のミニスカートから出ている膝頭をずっとアップで採り続けるんだ。」
「え、ミニスカートの膝頭をですか? そんなことしていいんですか・・・?」
「だから編集の時のインサート用だって言ったろ。番組の数字が落ちてきた時に視聴者を煽る為にちらっとミニスカの膝の映像を挿入したりするんだ。その時の編集用だよ。そのままオンエアに流す訳じゃないから安心しろっ。」
「そ、そうっすよね。わかりました。」
「それから、これも念の為準備しておけよ。」
「何すか、これ?」
「これは撮影カメラの横に固定して取り付けるスポットライトだよ。ある特定の場所だけピンポイントで照らすことが出来るんだ。ただし強烈な光をレンズで集光して当てるんで使いっ放しは駄目だぞ。これぞって言う時だけこそっと照らしてさっと消すんだ。いいな。」
「わ、わかりました。」
アシスタントカメラマンの一員として杉崎は、自分に任せられたビデオカメラを命じられた由里が座るフロアの左側の隅に牽いてゆき、レンズの焦点を被写体に合わせておく。
カメリハが始まり、メインのMCが舞台正面にスタンバイする。その正面にディレクターが立って演者たちのスタンバイの様子を確認している。その遥か後方でディレクターからの指示を受けそれを各カメラマンや音声担当、照明担当たちに告げるインカムを装着してカメラ切替の指示をする芦原も各カメラマンが撮っている映像がずらっと並んでいるモニタの前でスタンバイする。芦原が観ているモニタの一つには放映には使わないことになっている杉崎のカメラからの映像も含まれているのだった。
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