騙された新人女優とマネージャー
第一部
十五
「こちらが話をしていた新人女優、手塚由里のマネージャをされている新垣茉莉さんです。」
「初めまして、深沢監督。お目にかかれて光栄です。」
「おう。君があの手塚由里君のマネージャかね。噂は宇藤君からいろいろ聞いているよ。」
「そうですか。今回は新しい映画のヒロイン候補の一人にウチの手塚も検討して頂いていると聞きましてご挨拶に伺った次第です。どうか、宜しくお願い致します。」
名刺を差し出して大御所の深沢監督に恭しくお辞儀する茉莉の言葉を遮る宇藤だった。
「まあ、まあ。そんな堅苦しい挨拶はともかくとして、あの別室をご用意してございますのでそちらでじっくりとオーディションの方向性などをご説明頂ければと思っております。」
(え? 別室・・・?)
茉莉は思っても見なかった展開に狼狽する。が、宇藤は悠然と深沢監督を奥の部屋に案内するので茉莉も付き従うしかなかった。
「新垣君。君は奥の方に座りなさい。さ、先生はこちらの隣へどうぞ。」
宇藤が案内した別室というのは個室になっていて、まわりの雑音が気にならないでゆっくり話が出来るからというのだった。茉莉はソファーの奥へ進んで腰を下ろす。スカート丈がかなり短いので気をつけてしゃがまなければならない。宇藤からは事前に映画界でも巨匠と呼ばれている深沢はことのほかミニの女性がお気に入りなのだというので、印象を良くしようと選びに選んで着てきたかなり短いものだった。宇藤からもその姿を最初に観た時に(いやあ、今日の新垣君はかなり攻めてきてるね。)と短い裾から露わになった太腿を見ながら言われたのだった。
茉莉が低めのソファに腰を下ろす際に、深沢の目が茉莉のミニの裾の方に泳ぐのを茉莉は見逃さない。膝は深沢の正面に向かないように斜めに腰を下ろすが裾の上には敢えて手を置かないまま座る。
「君も嘗ては女優をやっていたと聞いているが、完全に引退してしまったのかね?」
「ええ、深沢先生。私自身はもう表舞台には立たないことに決めたのです。」
「何故なのかね? 君のようなルックスとスタイルだったら、まだまだ第一線で通用すると思うのだが。」
深沢はいかにも勿体ないと言わんばかりに茉莉の身体を上から下まで舐め回すかのようにみつめながら言うのだった。
「いえ、あの・・・。いろいろありまして。自分が表舞台に立つよりは以前の私のような若い売出中の若手女優の卵を育てる裏方として活躍したいと考えるようになったのです。」
「いや、実にもったいない。」
「私のことより、うちの事務所でいま一番の上昇株である手塚由里の方をよろしくお願いします。」
「ああ、由里ちゃんね。宇藤君のドラマも見ているよ。彼女もなかなか筋がいい。」
話が由里のオーディションの方へ移り掛けたタイミングで宇藤はすくっと席を立つ。
「じゃ、私はこの辺で失礼しますので、後はお二人の間でじっくりとお話を進めてください。」
「え、宇藤さん。先に居なくなってしまうのですか?」
「ああ、ちょっとこの後、予定が詰まっていてね。じゃ、失礼します。」
個室に二人きりになってしまうことに若干の不安を感じた茉莉だったが、却って由里を売り込むいいチャンスかもしれないと思い直すことにしたのだった。
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