カメラマン突撃

騙された新人女優とマネージャー



 第一部



 十八

 「アンタ、手塚由里さんだよな。」
 マネージャーの茉莉と待ち合わせをしていた由里は、突然背後から声を掛けられて何事かと振り返る。そこには見知らぬ男が立っていたのだった。
 「そ、そうですけど・・・。私に何か?」
 「ああ、アンタに渡したいものがあってね。」
 男はそう言うと上着の内ポケットから白い角封筒を取り出して由里に差し出す。
 「何ですか、これは?」
 由里が封筒を開けようとすると、男は手を挙げて待ったを掛ける。
 「今ここでじゃない方がいいだろう。後で独りになった時にゆっくり開いて見な。」
 男はそれだけ言うと踵を返して由里の元を立ち去ろうとする。
 「待って。あの・・・。」
 由里が声を掛けてもう一度訊ねようとした時には既に男は由里の声の届かない所まで離れてしまっていた。
 「由里ちゃーん。お待たせ。あれっ、どうかした?」
 「あ、いえ。別に何も。」
 「何か男の人と話してなかった?」
 「ああ。ちょっと道を訊かれただけです。」
 そう誤魔化しながら何気なく手にしていた角封筒を肩から提げたショルダーバッグのポケットに仕舞い込むのだった。男が言った(独りになった時)という言葉が何となく気に掛かったのだ。
 「じゃ、スタジオの方へ行きましょうか。」
 「あ、ええ。茉莉さん。」

 撮影が休憩に入ったところで由里は茉莉に断ってトイレに行ってくるからとそっと独りで撮影現場を離れる。トイレの個室に入ったところでずっと気になっていた男から渡された封筒を改めて出してみる。中身を検めると一枚の写真が出て来たのだった。

手中写真

 (えっ、これって・・・。)
 写真は車を前方からフロントガラス越しに撮ったものらしかった。運転席と助手席に男女が向かいあっている。目の部分はわざとらしくマジックで黒塗りされているが由里にはそれが自分と共演相手の進藤剛であることはすぐに判った。
 (こ、こんなもの・・・。何時、撮られたのかしら。ま、まさか・・・。)
 剛と一緒に車に乗っている場面で思い浮かぶのはあの時のことしかなかった。
 もう一度封筒の中を調べると奥に小さな紙きれが入っていた。
 <この写真について話が聞きたければ明日の朝6時に、誰にも言わずに独りで撮影所の屋上へ来ること>
 紙きれには簡潔にただそれだけが書かれていたのだった。

 翌朝、由里は自分独りで早朝の撮影スタジオにやって来ていた。マネージャーの茉莉に何度相談しようかと逡巡した挙句、今回は何とか独りで解決しなければならないと覚悟を決めたのだった。茉莉には内緒で共演の進藤剛からの演技指導を受けに行ったからだった。しかも演技指導と言いながら妻子持ちの剛と男女の関係を持ってしまったのだ。マネージャーに言える筈はなかった。
 (兎に角、どこまで写真を撮られているのか確かめなくっちゃ・・・。)
 まだ撮られたのが車内に二人で居るところまでだという淡い期待は捨てきれなかった。
 (茉莉さんには忘れ物をしたのに気づいたので独りで早目に取りに来たのだと説明すればいいわ。そうだ、台本を忘れたので早く来て本読みの練習をしていたのだと言い訳すれば信じて貰える筈・・・。)
 そんな事を考えながら撮影スタジオのある建物の玄関を通る。撮影は夜遅くにまで及ぶことが多いので、撮影開始時間は早くても昼前ぐらいが普通で、朝早くの撮影スタジオは人の姿はまばらだった。由里はエレベータを使わずに滅多に人の行き来がない非常階段を使って屋上まで上がることにした。

 男は由里が屋上に着いて暫くしてからやって来た。由里が本当に独りで来たかを確かめていたようだった。
 「あの写真は貴方が撮ったものなの?」
 「ああ。迷わずに来たところをみると、どういう状況で撮られたのか認識はしているようだな。」
 「・・・。」
 それに答える訳にはゆかなかった。
 「どこまで写真を撮っているの?」
 由里の問いに男はニヤリとする。自分の方からもっと不味いシーンもあったことを暴露してしまっていたからだ。
 「その質問に答えるには、君に弱い立場に立って貰う必要がある。」
 「弱い立場・・・。 どういう意味?」
 「大声を挙げて誰かに助けを求めることは出来ない状況になって貰うんだよ。スカートを脱いでこっちに渡して貰おうか。」
 「スカートを脱げですって? そんな事、出来る訳ないじゃないの。」
 「なら交渉は決裂だ。俺が持っている写真はスクープ写真誌に買い取って貰うしかないな。」
 「ま、待って。・・・・。わ、分かったわ。」
 どんな写真まで撮られているのか分からない以上、スクープ写真誌に売られてしまう訳にはゆかないのだった。



yuri

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