若妻3

若妻のたしなみ



 一

 理恵はまだ若妻だ。結婚まではセックス経験のない処女婚だった。結婚後、最初のセックスでうまく行かなかった。夫の和樹のほうも初めてだったようだ。その後、何度かトライはしたものの、夫はますます自信を失う一方で、最近は求めてくることもなくなってきていた。そんな夫の淡白さに今では理恵のほうが物足りなく悶々とした日々を送るようになっていた。
 その日も泊りがけの出張から帰ってきたばかりなのに、再び泊りがけになると出張に出ていった夫を見送ったばかりだった。今夜こそはと思っていただけに、落胆は大きかった。
 (そうだ。出張中の夫の下着を洗濯する前に匂いを嗅いでみようかしら。)
 夫の体臭を嗅ぐだけで、満たされない気持ちを宥められそうな気がしたのだ。

 いつもは洗濯物を出す為に居間に置きっ放しにしてある筈の旅行鞄が見つからなかった。今朝出掛けていった際には別の新しいバッグを持っていったので家に置いてある筈だった。夫の寝室に入ってみる。結婚当初から寝室は別個にしていた。自分の部屋はダブルにしていて一緒に寝る時は自分の部屋を使ったが、夫の勤務時間が不定期なので起すと悪いからと自分の部屋には自分専用のシングルベッドを置いているのだった。旅行鞄は見当たらないように思ったが、部屋の奥まで行くと見慣れたバッグの持ち手が微かに覗いていてベッドの脇に突っ込まれているのが判った。
 (こんなところに置いて、どうしたのかしら・・・。)
 不審に思った理恵がバッグの中から洗濯物を纏めた袋を取り出そうとして、それとは別に茶色の紙袋が奥に入っているのが見つかった。
 (何かしら、いったい・・・。)
 理恵がそれを取り出してみると、見掛けよりずっしり重たい。おそるおそる中身をあらためると中から銀色に光る手錠と鍵、そして革製の鋲が打たれたベルトが出てきた。ハトメを打たれた端からは銀色の鎖がぶら下っている。大きさから言って、首輪に違いなかった。所謂、大人の玩具というものに違い無さそうだが、頑丈そうで本物みたいだった。何か、いけないものを見てしまった気がして慌ててバッグの奥に戻し、誰も居る筈がないのに辺りを見回してしまう。
 一旦台所まで戻ってきた理恵だったが、さっき見たものが頭から離れない。
 (あれは、何だったのだろう。夢でも見ていたのかしら。いや、そんな事はない。確かにこの目で見たのだ。どうしてあんな物があそこに・・・。)
 次々といろんな思いが頭の中を巡ってくる。その時、ふと理恵は自分があそこに行ったのは、夫の出張中の洗濯物を取りに行ったのだったことを思い出したのだ。
 (そうだ、洗濯物。でも、どうしよう。洗濯物を取り出したら、あれを見たことがばれてしまう。)
 そう思いながらも、汚れた洗濯物をそのままにしておくわけにはいかないと思い返し、夫には、洗濯物以外には気づかなかったということで押し通せばいいと思うことにした。
 再び夫の部屋に戻るとベッドの奥から出張用のバッグを引き出してくる。洗濯物らしき物はバッグの手前のほうにレジ袋に纏めて詰め込んであるようだった。いつもの事だ。洗濯物だけを取り出してみる。
 (確か、茶色の紙袋はバッグの奥のほうに詰め込んであったはず。それには気づかなかったと言えばそれで押し通せるだろう。)
 そう思った理恵は、洗濯物の入ったレジ袋だけを持って部屋を出ようとして足が止まった。
 (そうだ。どうせ夫は今日は出張で帰って来ないのだった。だったら、もう少しあれを調べてみよう。)
 理恵は気になって仕方ない夫が持帰った茶色の紙袋に入っていたものをつぶさに見てみる誘惑に堪えきれなかった。
 手錠などはテレビドラマでしか観た事がなかった。実際手に持ってみて、こんな風に出来ているのかとつい感心してしまう。自分の片方の手首にそれを掛けてみる。しかし嵌めてしまう勇気は出ない。鍵があったのを思い出し、それを取り出して鍵穴に当ててみる。
 (なるほど、こうすると鍵が外れるのね。ちょっとやってみよう。)
 理恵は自分の手首は入れないで手錠を輪の形にして締めてみる。それから鍵穴に鍵を突っ込んで廻してみてちゃんと開錠することを確認する。
 (なあんだ。割と簡単に開くのね。)
 少し安心すると、今度は実際に自分の左手首に嵌めてみる。ノッチが付いていて、手首の大きさに合わせてどんどん締まっていく。一旦、奥へ締め込むと元には戻らないようになっている。しかし鍵穴に鍵を差し込んで廻せば、ちゃんと開錠することが分かった。
 手錠を一旦外して、今度は首輪の方を調べてみる。こちらのほうは普通の男性用のジーンズに合わせる様な鋲が打ってあるベルトを短くしたような感じだった。バックルになる部分に小さな鍵穴が付いている。その鍵穴には小さな鍵も付いていて、それを外すとベルトのバックルが外れないようになるようだった。理恵は鍵を開けてベルトを開くとそれを首に当ててみる。自分の部屋には姿見があるので、 手錠と首輪一式を持ってダブルベッドのある自分の寝室へ行ってみる。
 首輪を自分の首に巻いてみる。鍵は掛けずにバックルだけ留めてみて、姿見に自分を映す。
 (まるで犬みたいね。)
 首輪から1m足らずの鎖が垂れているのでそう見えるのかもしれないと思った。
 (どうと言うことも無いのね。)
 そう思った理恵だったが、鍵を掛けて外せなくなると違う気がしてきた。何度も鍵穴の鍵を嵌めたり外したりして確かめてから再度首に巻いてバックルの錠を掛けてみる。傍のナイトテーブルに鍵を置いて再び姿見の方へ戻る。バックルが首の前側に来るようにすると鎖は背中側に垂れるようになる。姿見の中の自分の首輪に錠が掛かっているのをみると、途端に奴隷に貶められたような奇妙な感情が湧いてくる。
 理恵はその錠が掛かった首輪をしたまま、手錠を掛けてみたらどんな気持ちになるのか、試してみたくて堪らなくなる。もう一度、手錠の鍵がちゃんと開けられることを確かめてから左手の手首に手錠を掛けてみる。ノッチをぎりぎりまで締め込んでいく。それだけで緊張感が高まる。
 更に理恵は片方にだけ手錠を掛けたまま両手を背中に回してみる。両手に手錠が掛かってしまうとどんな気持ちになるのか試してみたくなる。手錠を先に掛けた左手に手錠の鍵をしっかり持って鏡に背中を映してみれば鍵穴が探り当てられることを確かめる。するとどうしても両手首に手錠を嵌めてみたくて堪らなくなってしまう。

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